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忠義を尽くして【パニック】



 時は2×××年。我々は地下帝国で生活していた。

 地上は危険にあふれていた。いつ敵に襲われてもおかしくない。その強大な敵たちは、時に我々をいたずらに襲い、我々の命を奪い去ってきた。


 できる限り地上には出たくないのだが、それでも地下での生活には限界がある。食糧や物資などは陽の当たらない地下では手に入りにくかった。

 そのため、食糧調達部隊と物資調達部隊を結成し、何日かごとに外界へと赴くのだった。


 今日も、一部隊が食糧調達から帰還した。俺はそれを出迎える。


「ひぇー、ただいま〜」


「おかえり黒瀬隊員。無事で何よりだ」


「あぁ、ありがとう、安藤」


 黒瀬は食糧を机に置き、汗をぬぐった。


「特に変わったことはなかったか?」


「あぁ。今回は割と近くしか見回ってないが、いつも通りだった。天気も良かったしな」


「そうか。それはよかった」


「じゃあ、俺はこの食糧を女王陛下のもとに届けてくるよ」


「おう」


 そう言うと、黒瀬は運んできた食糧の一部をとって陛下のいる宮殿に向かった。


 黒瀬の率いる部隊の後にも、続々と調達部隊たちが帰ってきた。

 門の見張り役の俺は、彼ら一人一人に労いの言葉をかけるのも仕事の一つだ。いつも危険を冒してまで仲間のために外へ出て行くみんなに感謝の念しかなかった。


「おぉ、安藤、見張りご苦労様」


「あぁ、有川さん。調達お疲れ様です。どうでしたか今日の成果は?」


「いやー! 今日はラッキーだったよ! 近くに食糧の宝庫を見つけてな! もう大漁よ!」


 彼らの抱える荷物を見て、その結果は伺えた。


「それは新発見ですね! これならしばらく持ちそうだ」


「おう、じゃあ女王陛下に献上してくるぜ! お前の分もここに置いとくな!」


「ありがとうございます、いってらっしゃい」


 有川さんは俺の机の上に食糧を置いたあと、仲間と共に宮殿の方へ向かった。



 そうしてるうちに、全ての部隊が帰還した。よかった。みんな無事だったようだ。


 ほっと胸をなでおろし、門を閉めて一息つく。

 


 こうしてひとりになるといろいろ考えてしまう。

 これから自分たちはどうしよう。ただひたすら働き続けて死んでいくのだろうか。

 調達部隊ではない俺は、ここで生まれてから外の世界を見たことがない。広大な世界を見ずに、俺は死んでいくのだろうか。


「ぜいたくなこと言ってられないか……」


 それにこんな毎日を送るのは俺だけじゃない。女王陛下もその一人だ。

 この地下で生まれてから、一度も外に出ていない。この国を守る長だからその身を案じるのは当然のことだ。

 陛下は外に出たいと思ったことはないのだろうか。




**



 そんなことを考えながら、休憩する準備をしていたその時だった。


 微かに水の流れる音を聞いた。


 その音はしだいに門に近づいてくる。


「雨か……?」


 地下にあるこの国は、度々雨の被害を受けてきたが今は門が強化され、バケツをひっくり返したような雨でもない限り、雨水の侵入は許さないように作られている。

 例え豪雨の時でも、門の位置は限られているので排水は追いつく。


 今回もいつも通りの雨だろうか。いや、さっき有川さんは天気は良かったって言ってたのに……。




 ーー何かがおかしい。その予感は的中した。



 ザバーンッと門に水流が打ち付けられる音を聞いたその瞬間、門は決壊し地下に大量の水が流れ込んできた。


「なんだこれはっ!!」


 丈夫なはずの門が一発で壊された。水はどんどん流れ込んでいく。


「そんな……!」


 こうしちゃいられない。俺は急いで警報を鳴らした。


『緊急洪水警報! 緊急洪水警報! みんな避難せよ!』


 俺も頑丈な建物に避難した後、各方面の仲間たちと連絡を取った。


「そっちは無事か!」

「あぁ、まだ水流は来てないが国民はみんな避難させた!」

「こちら第六地区、こっちも避難完了!」

「こちら第三地区、こっちも避難した!」

「了解! もうすぐそっちへ押し寄せる。くれぐれもみんなを屋外に出さないように!」

「「了解!!」」


 息を飲んで監視カメラの映像を確認していると、黒瀬から連絡が入った。


「安藤、女王陛下も無事だ!」

「良かった……!」


 心から安堵した。これで全員避難完了だ。

 しかし、水はとどまる勢いを知らない。尋常じゃないほど流れてくる。これは雨なんかではない。


「まさか……敵の襲撃か……?」


 地下であるこの国に対して水攻めが有効だとでも思ってのだろうか。それともただの牽制、あるいは警告なのだろうか。



 少しずつ、水が引き始めた。排水処理が間に合い始めたようだ。


「耐えきった……!」


 監視カメラのいくつかは故障していた。いくつかは故障していなかったが、そこに映し出されているも街はひどく荒れ果てていた。


 水が完全に引き、各方面から無事の報告が入った。


「良かった……」


 俺は安堵とともに、恐怖を感じた。これから何度も敵の襲撃があるのだろうか。その度に震えなければいけないのだろうか。


 俺たちは普通に生きられないのだろうか。


 外に出るにも巨人に踏み潰される恐怖に怯え、地下にい流にもいたずらな襲撃に恐怖する。

 そういうものなのかもしれない。俺たちの生き方は。


 それでも俺たちは働き続ける。

 全ては女王陛下様のために。


 これが俺たちの忠義であり、()()であるから。

 

 俺は6()()()()()いつもの仕事場へと戻った。

 


**



 門は決壊したものの、門の監視室は無事だった。

 いつもの仕事場に戻った俺は、机の上に置かれた食糧をかじって一息ついた。

 安心からか体の力が抜けていく。


……抜け……て……


「うっっっ!!」


 突然、首を絞められたような痛みが俺を襲った。


「ぁぁぁぁっっ!!」


 今度は喉が焼けるように熱くなった。


苦しいっ!

苦しい!

苦しい……


 握りしめた食糧を見つめる。


ーーそれが()()()だと気づいた時には、すでに瞼は落ちていた。




 この帝国が全滅したのは、それから間もなくのことだった。






*蟻の巣は通常雨などでは水没しません。また、例え水を流し込んでも水没はしないらしいです。そのためのアリの巣コロリですからね。

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