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書籍発売&ハロウィン記念

 某日朝。

 たまには冒険者ギルドのクエストでもと思って受けてきたのだが……。


「なんでクエストがこれしかないんだろうな」


 そう独り言を呟きながら、俺は今、開拓民村の畑に立っている。

 畑には立派過ぎる南瓜があっちにもこっちにも実り、これを収穫するのがクエスト内容だ。

 ファクトはおろか、港町クロイス、あまり用事のないコールのギルドにも行ってみたが、内容は全部一緒。

 各地の南瓜畑の収穫を手伝え――というものだ。

 ただこのクエスト、随分と羽振りがいいんだよな。

 南瓜十個収穫で、なんと1000ENもくれるんだと。十個なんて余裕だろ?

 あと何故か、キャンディーと交換も出来るという。

 料理技能で作る菓子みたいに、何か効果があるんだろうな。

 もちろんクエストだから、完了報告をすれば経験値も入ると、ギルドの執事NPCが説明していた。


「ってことでやるか」

〔ぷ〕

「あ? 南瓜味のペットフードはどうかって? 知るか」

〔ぶっ〕

「痛ぇっ。おいやめろ。そんな事するなら、二度と合成フード食わせてやらな――痛ってててててて。ごめんなさい許してくださいっ」

〔ぷぅ〜〕


 くそっ。

 これじゃあどっちが主人か分からねえじゃねえか。

 ま、まぁいい。一袋ぐらいなら作ってやるか。


 目の前の丸々とした南瓜を両手で抱え、ふんがっと持ち上げ――ん?


「なんだこの南瓜。まさか地面に根を張ってるんじゃなかろうか?」


 いや、そんなはずはない。南瓜の実に根が張るわけないじゃん。

 だがこの南瓜、地面にくっついてるのかってぐらい、まったく持ち上がらない。

 普通の南瓜と違い、緑ではなくオレンジ色っぽいかなりデカい南瓜だ。


〔ぷぷぅ〜、ぷっぷぷぅぷぅ〜〕

「あ? 男のくせに、そんなものも持てないのかって? っく、馬鹿にしやがって」


 やってやる。絶対に収穫してみせる!


「ふははははははは。俺には【怪力】があるんだ。さぁ技能よ、俺に力を寄越せぇぇ!」


 ガシっと掴み、今度こそ南瓜を持ち上げる事に成功!

 はっはっは。どうだ、俺だってやるときにはや――はぁ?


 持ち上げた南瓜には、体があった。

 しかもタキシードを着てやがる。


 俺の目線の高さで持ち上げた南瓜自身には、いつの間にか目と口が――。

 その目が赤く光る。


〔ヒャーッハッハッハ。トリックオアトリート。キャンディをくれないと悪戯するぜ?〕

「『ライト』」

〔ヒャギィィィィッ〕


 なんとなく条件反射で聖属性攻撃をしてみたが、効き目抜群みたいだな。

 頭が南瓜でタキシード着用といえば、ジャックオランタンだろう。

 ゲームでは季節限定でお馴染みのモンスターだが、だいたい悪魔系モンスターだ。

 そう思って『ライト』を使ったんだが……なんで八月のこの時期にハロウィンモンスターが?


 っち。俺の貴重な小遣い稼ぎを邪魔しやがって。


「次こそは南瓜を――ふんぬぅぅっ!」


 ズボっと引き抜いた南瓜が――。


〔ヒャーッハッハッハ。トリックオアトリート。キャンディをくれないといた「『ライト』」ヒャギィィィィッ〕


 何故だ。

 何故普通の南瓜じゃないんだ!?


「次ぃーっ」

〔ヒャーッハッハッハ。トリック「『ライト』」ヒャギイィィィッ〕

「これでもかっ」

〔ヒャーッハッハッハ。ト「『ライト』」ヒャギイィィィッ〕

「こ、今度こそっ」

〔ヒャーッハッハッハ「『ライト』」ヒャギィィィッ〕


 はぁはぁはぁはぁ。

 な、何故だ。

 全南瓜がジャックオランタンなのか?


 ザックザク引き抜くが、出てくるのはやっぱりジャックオランタンばかり。

 いや、俺は気づくべきだった。

 南瓜は引く抜いて収穫する野菜ではない!

 つまり、引きつかなきゃならないのは全部ジャックオランタンなのだ!!


「ぬがぁぁーっ。怒りの『ちゃぶ台返しっ』」


 ズゴっと地面が捲りあがると、数個というか数体のジャックオランタンが宙を舞う。

 落下するタイミングに合わせて俺もジャンプし、右手を突き上げ唱える。


「『シャアァァァイニングゥゥゥフォオォォス・フィンガァァーッ!』」

〔〔ヒャギイィィィィッ〕〕

「おぉ、一網打尽で面白いな。よし、ノーム」

〔のっ〕


 今しがたまでジャックオランタンが栽培されていた土からノームが現れると、ぷぅにはサンバを踊らせる。


「よし、やるぞノームさんや」

〔のっ〕

「ダァァァブルゥゥゥ、『ちゃぶ台返しぃぃぃ』」

〔ののっの、のぉーむ!〕


 俺とノームは息をぴったり合わせ、並んで地面に両手を付く。

 ズゴッズゴっと地面が盛り上がり、畳二枚分ほどの土が捲れあがって壁となる。


〔〔ヒャーハッハッハ。トリックオアトリート! キャンディくれないと悪戯するぜ?〕〕


 宙に舞うジャックオランタン七体が大合唱。

 すかさずノームが両手を組み、俺はその手に足を掛けた。


〔のむっ〕


 気合の声と共にノームが俺を宙に放り投げた。

 空中で一回転した俺は、ちゃぶ台を足場にして更に高く飛び上がる。

 落下していくジャックオランタン。

 奴らは俺とすれ違いざま「キャンディをくれ」というようなジェスチャーをする。

 残念だな。

 そんなもの、俺が持っているわけないだろ。


「ふんっ。季節外れの化け南瓜ども、成仏しやがれ! 『シャイニングゥ――』」

〔ののっのの〕――こいつら不死属性じゃないでやんすよ。

「し、知ってるさっ。『シャイニングフォース・フィンガアァァッ』」

〔〔ヒャギイィィィィッ〕〕


 い、いいじゃないか。ちょっとカッコつけたいだけなんだからよ。


〔ぷぷ?〕

「あん? 何か落とした?」


 ぷぅが何かを啄んでいる。

 よく見ると、ファンシーな包装紙で包まれた箱だ。というかプレゼントボックス?


「ぷぅ、落としたのはジャックオランタンなのか?」

〔ぷぅぷ。ぷっぷぷぅぷ〕


 光の藻屑になるとき、一体のジャックオランタンがポロっと落としただと?

 ドロップアイテムはインベントリに自動転送される仕様なんだが……。

 しゃがみ込んで箱を開けてみると、そこには黒赤い布が入っていた。

 広げてみるとそれがマントだというのが分かる。黒いマントだが、裏地は赤い。しかも裾のほうはギザギザの切込みが。

 アイテムの説明には【ジャックマント】と書いてあった。

 これ、アバター装備だな。性能がまったく書いてない。


「本格的に季節外れイベントの予感が……」


 そもそも、ギルドのクエストが南瓜の収穫しかないっていう時点でおかしい。

 そしてこのジャックオランタンだ。

 十月に充てるはずだったパッチを、間違って実装してないか?


 キャンディ寄越せってのは、ギルドで交換できるキャンディの事なんだろうけど。肝心の南瓜はどこにあるんだよ!

 畑をじっくり見つめると、【発見】技能が発動したのか、光る南瓜を発見した。

 他とは違う――いや、見慣れたはずの南瓜じゃないか。


「どうやらジャックオランタン九割、普通の南瓜一割で生ってるのか」


 緑色した南瓜を掴むと、案の定こいつは地面に埋まってはいなかった。

 収穫してようやく一個ゲット。

 しかし、たった一割とはなぁ。

 幸い、倒したジャックオランタンも収穫した南瓜も、直ぐに次が実るのでじゃんじゃん狩る事が出来る。

 ジャックオランタンだった蔦から普通の南瓜が生る事もあるようだし、手あたり次第狩りまくろう。


「ノームさんや、やるぞ?」

〔ののっ〕






 狩りまくること数分後、またもやプレゼントボックスが落ちた。


「今度は何が入っているんだ?」

〔ぷぷぅ〕


 ぱかっと開くと、今度はタキシードの上着が。

 ズボンとセットじゃないのかよ。


 けどまぁ、今の俺の上半身裸に腰みの付きスパッツという変態チックな装備から脱却するチャンスかもしれない。

 試しにタキシードを着てみた。


 うん。アレだ。

 腰みの付き黒いスパッツとタキシードの組み合わせは、最悪だな。


〔ぷっぷぷぅ〕

「あ? マントも着てみたらだと? うん、まぁせっかくだしな」


 羽織ってみた。

 ……とりあえず、ズボンが落ちるまで頑張ろう。






 ズボンの入ったプレゼントボックスが落ちるまで、二十分ぐらい掛かったな。

 その間にパンプキンドレスという、女の子向け装備が入った箱まで拾った。

 つまり、プレイヤーの性別に関係なく、中身はランダムみたいだな。


「さて、それじゃあ腰みの卒業だぜ」

〔ぷぅ〜〕


 着替えを完了させ、南瓜二十個を持ってクエスト報告のためファクトへ。

 町に入ってすぐの建物で、窓に映る自分の姿を見て絶句。


「ジャックオランタンのコスチュームなのに、なんで俺は吸血鬼みたいなんだ?」


 別に牙があるって訳じゃない。

 だがどう見ても吸血鬼だ。

 ただ、褐色肌というちょっと変わった吸血鬼ではあるが。


 なんかあれだな。

 こう――マントの裾を広げて――。


「血ぃ吸うたろかぁ」


 とか言いたくなるよな。


「ふぇっ。マジック君、何をしているのだ?」


 ……なんでこのタイミングなんだよ!

 ばさっとマントを翻して振り向くと、そこにはセシリアが――ん?


「なんだよセシリア。随分とその……女の子みたいな恰好しているじゃないか」

「なっ。わ、私だってい、一応ぉ」


 立っていたセシリアは、いつのも戦闘装備ではなく、黒とオレンジ色のミニスカドレスを着ていた。

 もしかして、これって――。


「その服、どうしたんだよ」

「えぇっと、農村で南瓜の収穫をお手伝いしてたら、ジャックオランタンが埋まってて。倒したらプレゼントをくれたの」

「まさか一匹目で?」

「うん。一匹目で」


 こいつのリアルラックはどうなってんだ?


「マジック君のその服も、ジャックから?」

「あぁ。まぁな。だが着てみると、どう見ても吸血鬼だっていうね」

「それで血を吸いたくなったのか」

「いや、吸いたくなったんじゃなく、そういうセリフをだな――ところでお前の後ろにいるジャックオランタンはなんだ?」

「友達になったの」

 

 おま、友達って……。いや友達ぐらいちゃんと選ぼうぜ。

 しかし、なんでモンスターがくっついてきてんだか。


 ふと気づくと、俺たちの声以外何も聞こえなくなっていた。

 もしやこれは――。


【おはようございます。運営スタッフです】


 天の声来た!?






 さかのぼる事数十分前の某所。


「おいっ! 何故ハロウィンパッチが入ってるんだっ」

「ちょっ。ジャックオランタンの配置数が異常だろっ」


 慌ただしく語気を荒げる男性社員たち。

 テキストの一部に誤字を見つけたスタッフがそれを修正し、こっそりパッチを充てたのが今朝七時の事。

 その後、何故か冒険者ギルドのクエスト内容が一新された。

 それに気づいたのは五分ほど前だ。


 ポカミスどころではない。

 本来ならば二か月後に開催されるはずのハロウィンイベント。

 そのイベントが真夏の今、まさに開催されてしまっているのだ。


 イベント専用モンスター【ジャックオランタン】が大量に配置されるという二重ミスも発生している。

 このモンスター。

 倒せば一定確率でプレゼントボックスを落とし、キャンディを与えると一次的に誰でもテイム可能という仕様だ。

 尚、レベルは10固定であるので、激しく雑魚いモンスターだ。


 全員が頭を抱える中、ルームの扉が開け放たれた。


「おはよう諸君。今日も朝から暑いな」


 チーフである。

 なんというタイミングでの出勤であろうか。


「夜勤の諸君、ご苦労だったな。そろそろ上がる準備でもしたらどうだ?」


 チーフは荷物を自分の机に置きながら、夜勤勤務者を労う言葉を掛けた。

 何故かご機嫌である。

 何かいい事でもあったのだろうか。


 そう、合ったのだ。

 現在某コンビニのキャンペーン中で、五百円以上の買い物をすると引けるクジで当たりが出たのだ。

 コーヒーをタダで貰えるなんてラッキー。今日は朝から幸先の良いスタートだな。

 そう思いながらニコニコ顔で出勤してきたチーフである。


「そ、それじゃあチーフ。お、お先に失礼し――」

「おい佐々木貴様! この状況を見て帰る気かよっ」

「チ、チーフが良いって言ったんだ。か、帰るに決まってるだろう」

「帰れると思うなよっ」


 数人がルームの扉の前に立ち、通せんぼをしている。

 その光景をチーフは首を傾げて見ていたが、やがて彼の顔は段々と青ざめていった。

 

 チーフの視線の先に映るスタッフのモニター。

 そこには……黄色い南瓜が無数に広がるゲーム内の畑が映っていた。


 わなわなと震えだすチーフ。

 彼の雷が落ちる前になんとかルームから脱出したい佐々木。

 それを阻止しようとするスタッフと、頭を抱えて突っ伏している他スタッフ。

 

 そんな時だ。


「あれ? 扉が開かないっすね。これは仕事をするなという、天のお告げっすか! 楓ちゅわぁ〜ん」


 ルームの扉の外でそう声がすると、バタバタバタと走り去っていく足音が聞こえた。

 メイド喫茶好きの池田である。

 この池田が決定打となった。


「緊急メンテだぁぁぁぁっ! さっさとハロウィンパッチを消せ! アバターも回収しろっ! 俺は上に報告して補填配布許可を貰ってくる。そのあと池田の捕獲に行ってくるから、戻って来るまでに終わらせておけ!」


 般若のような顔で扉の前まで来ると、脱出しようとしていた佐々木を睨みつける。


「残業」


 ただその一言しか口にしないチーフであるが、あまりの形相に佐々木は頷くしかなかった。

 そしてルームの扉は開かれ、チーフは黙って出て行った。


 後に残ったのは静寂――ではなく、高速でキーボードを叩く音だけであった。






『という事でして』

「おかしいなとは思ったんだよ。なんで夏にジャックオランタンなのかって」


 シンフォニアから、誤ってハロウィンパッチが充てられたという旨をログハウスで聞いた。

 ここの運営、本当に大丈夫か?


『アバターも回収させて頂きますので、今回の件でアバターを獲得されたプレイヤーには、補填アイテムとしてアバターガチャを送らせて頂きます』

「またガチャか。まぁタダでくれるならなんだっていいさ」

『ありがとうございます。また、ロールバックも発生しますので、サーバー解放後の二時間は獲得経験値が二倍となります』


 おぉ、マジか。それは有難い。


『補填アイテムはゲームに移動後、自動配送されますのでメッセージボックスをご確認ください』

「わかった。そろそろか?」

『はい。あと三十秒でサーバーの開放でございます』


 三十秒後、扉をくぐってゲーム内へと移動すると――。


「マジック君。君は何故ふんどしなのだ?」

「は?」


 目の前にはセシリアが。

 同じ場所で強制退場させられたから、同じようにサーバー解放と同時にログインすればこうなるのは分かる。

 分かるが、人を見て最初の一言がそれかよ――え、ふんどし?


「ほあっ!? なんでふんどしなんだっ」

「ハロウェンアバターを着ていた人は、手持ちのアバターの中で一番先頭にある物を着てログインする――と公式にあったぞ」


 だからふんどしなのか……そもそも俺はふんどししかアバターを持ってないからか。

 そう言うセシリアは、青と白を基調とした騎士のような恰好をしている。

 アバターなんだろうな……。


「あ、補填アイテムというのが届いた!」

「お、さっそく開けてみるか。その前に――」


 ふんどしを脱いで腰みのルックに戻る。

 なんだろうな。上半身裸なのは変わらずだし、ふんどしとスパッツの違い程度しかないって。


 まぁいいや。この補填のアバターガチャから何かいい物でも出れば――っと。


 カプセルをパカっと開いて白煙と共に出てきたのは――。


「赤い……布……」


 嫌な予感しかしない。


「その長い布はなに? 素材なのかマジック君」


 アイテム名――【ダンディ勝負水着】。


 勝負水着ってなんだよ!

 そもそもこれ――。


「きゃっ。ふんどし王子が赤ふんどし王子になるわよっ」

「あ、赤ふん!?」

「どうしよう。どうしよう。恥ずかしいけど見たい」

「スクショ撮ってもいいですか!?」

「私もっ」

「アタシもっ」

「こっち向いてぇ」

「オレもっ」

「私も撮っちゃおうっと」

「あぁん、私もぉ」


 ダメに決まってるだろうがあぁぁぁっ!


 そして俺は赤ふんを握りしめ、脱兎のごとくその場から逃げるのでった。


お読みいただきありがとうございます。

ついにこの日、書籍版「殴りマジ?」が発売されます。


いえ、昨日から置いているお店もあるんですけどね。


これからもどうぞ、生暖かいご声援、お願いいたします。


尚、この後、秋葉原でチーフらしき中年男性が疾走する姿が見られる――

訳はありませんね。

タイムスリップでもすればワンチャン有!?

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