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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歴史保護局-織田信長課-信長抹殺係

作者: 魂々

 歴史保護局――それは、過去の歴史を大凡(おおよそ)正しく推移させることを目的とした組織だ。


 過去に遡った者が居ようと、子を作っただけというような「小さな変化」だけなら問題ない。一般人が過去に一人増えた所で、時代のうねりには逆らえないからだ。戦争に参加する兵が一人増えたところで戦争の推移に違いが無いように、その程度なら世はこともなしという訳だ。


 だが、タイムトラベラーという奴は碌でもない奴らが多い。未来を知っているというだけで己が超越者にでもなったかのような錯覚でも味わうのか、どうしてか歴史を修正しようとしたがる。未来が、その歴史が紡がれた先の結果であることを理解していないのだ。


 上流から下流へと流れる川の流れのように、時間という水の流れはちょっと(すく)ったくらいでは変わらない。だが塞き止めて流れを変えたりしてしまえば、未来という河口に辿り着かなくなることもある。


 そうして今という未来に辿り着かなくなるということはつまり、未来に住まう我々が存在し得なくなってしまうということだ。故に、どれだけ野蛮で悲惨な過去であれ、我々は存在するためにその過去を甘受しなければならない。これは過去に関わる者が飲み込まなければならない必然の事柄である。


 だというのに歴史を変えようとする歴史修正主義者は、我々未来に生きる者全てにとっての敵だ。


 歴史保護局は、そんな歴史修正主義者と日夜暗闘を繰り広げてきた。これまでの経験から蓄積されたノウハウでもって、組織も効率的な分業体制を確立してきている。


 彼ら歴史修正主義者が歴史の大きな転換点に現れやすいというのも、統計結果から明らかになった事柄の一つだ。そういった大きな転換点の中でも、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑が活躍した戦国時代から江戸時代初期まで。そこが特に狙われやすいということも分かってきている。


 歴史保護局-織田信長課-信長抹殺係は、そんな歴史修正主義者の魔の手を()(くぐ)り、織田信長を何としても抹殺する係である。




   ◆




 天正九年、西暦で言うなら1581年。本能寺の変の一年前だが、織田信長は快調に勢力範囲を広げ、既に中国地方へと手を伸ばしていた。


 今回の歴史修正主義者は積極的に歴史へと介入しており、信長の覇業を傍で助けるどころか、謀反人――明智光秀をあろうことか抹殺してしまった。要監視対象から介入案件へと繰り上がったのも自明の理だ。


 信長抹殺係としてこうして「現地入り」――歴史保護局では過去への出張をこう呼ぶ――して一月近く。謀反人を殺してようやく歴史修正主義者も安心したのか、織田信長が中国地方へと歩を進め始めた。


 でも残念。こちらとしては本能寺じゃなくてもいいんだ――そんなことを思いながら、信長抹殺係の符丁名「(ふくろう)」は火縄銃の引き金を引いた。


 パァンという小気味良い爆発音とともに、丸い鉄の玉が未来から持ち込んだ射撃誘導装置の思うままに突き進み、信長の眉間を貫く。引っ繰り返るように信長は落馬して、一瞬の静寂の後、怒号が辺りを包み込んだ。


 ふぅと一息吐く。これで仕事終了だ。梟は連絡端末を取り出し、信長の長男である信忠抹殺係の後輩へと合図を送る。後は彼の仕事だ。一足先に今回の世界ともおさらばだ。


 鬼のような形相をしながらこちらを目指して走り来る騎馬兵たちを尻目に、梟は未来へと舞い戻る。


 そして未来――梟からすると現代――に戻ると、直帰してから簡単な報告書を作り、久々の帰宅に喜びつつ晩酌をした。




   ◆




 翌朝。部署で久々に顔を合わせる同僚達に簡単な挨拶を交わしていると、同じ係の先輩がやってきた。


「よう、今回も早かったな」


 現地入りを一月弱で済ませるというのはこの部署ではかなり短期間だ。現地入り一年二年はざらにある。目の前の大柄な先輩は、とある難案件では五年も現地入りしていたことがあるという。


「しかし、殺すだけの簡単な仕事です。そのせいで、また正史課からどやされる」


「まあ、仕方無いだろ。光秀の旦那が謀反する前に先に殺すとか、かなりぶっ飛んでる奴が相手だ。俺でもそうせざるを得ないわ」


「先輩は光秀がいないと駄目ですしね」


 ははっと笑い合う。


 「光秀使い」の先輩は、明智光秀をどんな状況下でも裏切らせて織田信長を抹殺する凄腕の謀略家だ。高度に知的なことをやってるのだが、その筋肉質な見た目のせいで「世紀末の三男」とか「ジャ●先輩」とか呼ばれてるのは余談である。


「それで、今回の世界の顛末はどうなったか知ってるか?」


「いえ、まだ確認してません」


 先輩の言葉に首を振る。すると、先輩はニカッと笑って続けた。


「信忠抹殺も無事完了で、その後、虚言を吐いたってことで歴史修正主義者は打ち首だってさ。いやあスカッとするね」


「打ち首ですか。全く、そうできる彼らが羨ましい」


 先輩の言葉に心の底から同意する。


 人権的な制約のせいで、歴史修正主義者への直接的な介入――言葉を飾らずに言えば抹殺――は禁止されている。彼ら歴史修正主義者が介入する前に手を下してしまうというのが一番の解であることは疑う余地もないのだが、人権派ののたまう耳障りの良い綺麗事は大衆受けが良く、そんな世論と敵対する訳には行かない歴史保護局は最善手を禁じられた上で次善の策を採らざるを得ないのだ。


「でだ。帰ってきて早々悪いが、また要監視対象が介入案件に化けそうだ。準備しておいてくれ」


「了解しました。それで、今度の奴はどうなったんですか?」


「聞いて驚け。秀吉と家康ぶっ殺した」


「マジですか。どうするんですかそれ」


 歴史修正主義者のあまりの乱行に頭を抱える。同じ思いなのだろう、先輩も乾いた笑いを漏らす。


「影武者を立てるしか無いんじゃないの。その辺は正史課の仕事だよ」


「俺正史課じゃなくて良かったと今までで一番思いましたよ」


「違いない。やっこさん達も頭抱えてたよ」


 正史課は正しい歴史を紡ぐ課――ではなく、この未来まで伝わった歴史を「正史」とし、過去にその証拠作りをする課だ。信長を狙撃暗殺したあの案件も、正史課の手に掛かれば「本能寺の変で信長死す」として後世に伝わることになる。


「でも、正史課の仕事に繋がるよう、その辺考えて抹殺しないといけないのは俺の仕事なんですよね。ああ、過去へのタイムトラベル禁止してぇ」


「無理無理。自然現象の事故が存在する以上、どうにもならんって」


 歴史修正主義者は歴史保護局の局員のように装置を使って現地入りするのではなく、神隠しのような自然現象の事故で現地に飛ばされることが多い。故に、法規制だけではタイムトラベラーは無くせないのだ。


「それは分かってるんですけども。信長に仕えるタイムトラベラー多すぎません? なんで信長なんですか。誘蛾灯でも付いてるんですか」


「知らんけど、そうなんじゃね? 他と比べたら引き寄せられる歴史修正主義者の数が段違いだし、介入案件になるのは更に倍率高いし。まあ、愚痴るのはこの辺にして、仕事仕事。俺らの肩には今の世界の安寧がかかってるんだぞ」


「……りょーかいです。さくっと殺してきますよ」


「おう。その意気だ」


 がっはっはと先輩は笑い、梟の背中をバシンと叩いた。




 頑張れ、歴史保護局。頑張れ、信長抹殺係。


 未来の平穏は彼らの手に委ねられているのだ。

 信長に仕える人が多すぎるんじゃねというところから飛躍した一発ネタ。

 ガバガバ設定なので、「なんで複数の歴史修正主義者が同時に現れないのか」とか「並行世界的なことはどうなってるの?」とかそういうことは突っ込まないで下さい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他にどんな課が作られてるのか考えて見ると、間違いなく時間犯罪課-佐藤大輔捕縛係が存在するだろう。
[一言] 事故で過去に漂流したのを見付けたならサッサと救助してやれよ!?
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