トンデモ家庭教師!?
「今日から家庭教師として派遣された小日向奈津希です。どうぞよろしくお願いします」
家庭教師として僕の家に来たのは、僕より5〜6歳は年上の大人のお姉さんだった。奈津希さんは僕と母さんに礼儀正しく、深々と頭を下げた。
「あらあら、丁寧にありがとうね。わたしは遠山静。あなたの雇い主よぉ」
母さん! その自己紹介はちょっと変じゃないか!?
「ほら、寛ちゃんも」
母さんは僕にも自己紹介をするように促す。ちゃん付けはやめてほしいんだけど。
「遠山寛です。本来は家庭教師とかいらないんですけどね。お金の無駄ですから」
僕の自己紹介に母さんはやれやれとため息をついた。
母さんがどうしてため息をつくのかは分からないが、家庭教師が必要ないのは事実だ。僕の成績は常に学年トップであり、苦手教科も無い。こんな僕が家庭教師から何を学べばいいというのやら。
「あらあら、困った子ねぇ。ということだから大変だろうけどよろしくね、奈津希さん」
「はい。前向きに善処します」
あんまりやる気ありませんね奈津希さん!?
そんなこんなで今日から授業が開始されることが決まり、僕と奈津希さんは僕の部屋へと移動した。
「それじゃ奈津希さん。そこら辺に適当に座って待っててください。今から準備するので」
「うん。任せといて!」
「?」
奈津希さんの返事に微妙な違和感を感じるけど………、まぁ気にしないことにしよう。
机の上を占拠しているプラモの部品を整理して………、
ごそごそ、がさがさ。
何か家捜しをしているような音が!?
僕はさっと振り返ると、
「あの、奈津希さん。何、してるんですか?」
奈津希さんはベッドの下に手を突っ込んでうんうん唸っていた。そのままの体勢で返事を返してくる。
「何って、エロ本を探してるんだけど。なかなか見つからないもんねぇ。いったいどこに隠しているの?」
「はぁ!? あんた家庭教師のクセに何やってんですか!!」
「あら、エロ本を調査することは教育方針を決める上で重要よ?」
「どんな教育方針だよ!?」
「どんなって、ねぇ?」
奈津希さんは僕に色っぽい流し目をよこした。背筋をぞわりと悪寒が駆け上る。
この話題はヤバイ。
僕は追求を諦めた。
「僕の部屋にエロ本なんてありませんから、大人しくしていてください」
「………しょうがないわね」
奈津希さんは渋々といった様子で大人しくベッドに腰掛けた。
何なんだろうこの家庭教師? また何か始める前に早く授業に入ってもらおう。
僕は整理とか整頓とかを半ば無視して、適当に勉強スペースを机の上に作り上げた。
「準備終わりましたよ奈津希………さん?」
僕が振り返った先には、何だか不思議な格好、ベルトだけで出来たようなゴテゴテで露出度の高い水着みたいな服だけを着て鞭を取り出している奈津希さんがいた。
「な、奈津希さん? 何なんですかその格好?」
「何ってボンテージに決まってるじゃない」
………何が決まっているんだろう。
「な、なんでそんな格好をしているんですか?」
奈津希さんの肌が眩しくて直視出来ない。何だかんだ言って、僕もウブな中三の男子なのだ。僕には刺激が強すぎる。
「何でって………これが家庭教師のコスチュームなんだから仕方無いじゃない」
「それなら………仕方ありません、ね?」
何となく同意したけど、ちっとも仕方なく無い! 何より気が散る!
「やっぱり止めてください! 気が散ります!」
「それは却下よ。これは平常心を鍛える訓練なんだから。状況はいつも同じじゃないわ。例え試験監督がカツラで、それがずれていても平気で問題を解ける胆力を養うのよ」
「は、はぁ………?」
何だか分かるような分からないような。しかし、とりあえず奈津希さんはこの格好のまま授業をするだろうことは理解出来た。多分、何度言っても止めてくれないだろうから、諦めよう。そして出来るだけみないようにしよう。うん。
「さて、寛くん。歴史から始めようと………」
「ちょっと待ってください」
「どうしたの?」
「僕に中学の勉強は必要ありません。高校のを教えてください」
「へぇ〜、勉強熱心なのね。………それよりあたしの方をちゃんと見なさい。失礼でしょ?」
奈津希さんが僕の両頬を挟み込むようにつかんで、ぐいと自分の方に無理やり顔を向けさせた。目に入ってくる白い肌。こぼれそうなお、おおおお、お………。
ヤバイ! 顔が熱くなって………!
奈津希さんはにんまりと笑う。
「このくらいで照れちゃうなんてかわい〜〜! はぁはぁ」
「? なんだか呼吸が荒いですけど、風邪ですか?」
やった! 追い返す口実が………!
「ううん。見られて興奮してるだけだから大丈夫。はぁはぁ」
逆セクハラだよ! この人キレイだけど頭ヤバイよ!!
「あ、あの、興奮してないで勉強を教えて欲しいんですけど………」
「あっ、うん。ごめんね〜。えーと、歴史だよね? 今中学校ではどの辺やってるの?」
「今は倒幕から明治維新の辺りですね」
「それなら桂小五郎こと木戸孝允について教えるわね。桂小五郎は攘夷志士時代は非常にモテることで有名で、常に数人の女性を侍らしていたらしく………」
いきなり豆知識を披露し始める奈津希さん。この人は本当に勉強を教える気があるのだろうか?
「奈津希さん。それって学業に関わりのある話ですか?」
「いいえ。でもね? 例えば将来、歴史好きな女の子と合コンをするときに役立つ知識よ」
「使えなっ!? なにその局地的かつ限定的な用途!? そんな無駄知識はいらないから勉強を教えてください!!」
奈津希さんは深刻そうな表情で顔を臥せる。あ、えと、言い過ぎたかな?
「奈津希さ………」
「ごめんね。あたし、これくらいしか知らないの」
「知識少なっ!? それって家庭教師失格だよ奈津希さん!!」
「そう、そうね。こんな家庭教師失格のあたしを………」
奈津希さんは鞄をごそごそ漁ってあるものを取り出し、それを僕に手渡した。
「その鞭でいじめて寛くん! いいえ、御主人様!!」
僕はそれを即座に奈津希さんに投げつけた。
「あぁんっ(はぁと)!」
「勉強教える気がないなら帰れっ! 何しに来たんだよっ!!」
「中学生になじられるのがあたしの趣味なの………」
「趣味かよ!? 今すぐ帰れぇぇぇっ!!」
〜後日〜
僕は友人にその変態家庭教師のことを包み隠さず全て話した。
「どう思う? 普通じゃないだろ?」
「はぁ? ごくごく普通の家庭教師じゃんか。お前の頭は大丈夫か?」
友人は可哀想な人でも見るかのような表情で僕の顔を覗き込んだ。
………神は死んだ………
僕はがっくりとうなだれた。
〜猫小判の供述〜
勢いでやった。
今は反省している。
久々の短編作品なので全体的に散らばった感は否めない訳でして、はい。
リハビリみたいなもんだと思って勘弁してください。
感想や評価は作者の次回作執筆の原動力となりますので、良かったら感想、評価を残していってください。




