境界
年越しの夜だというのに、境内は真っ暗だった。
鳥居越しに見る、幻想郷も、真っ暗だった。
何もかもが、真っ暗だった。
これを寂しいと言えば、その通りだと思う。見えるのは星と月だけで、揺らめく蝋燭の灯りが、僅かに障子を照らす。
頬をかすめる風が、辺りの木々を揺らす。ざらざらとした、乾いた音がする。
月明かりに浮かぶ鳥居は、何をもって境界とするのだろう。
あちらとこちら。何も変わらなければ、仕切る意味なんて何もない。どちらにも何もないのだから、仕切ることすらできない。
それなのに、存在している。意味もないのに、存在している。
存在する理由があると言えばその通りで、逆に、意地になって存在し続けていると言っても、その通りで。
私が私である理由なんて、その程度である。
何も高望みはしない。でも、希望も捨ててはいない。
ただ、この静かな夜に、貴方が来てくれればどれだけ力強いだろう。
その崩れ落ちそうな希望が、私自身を切り刻んでいることは、とうの昔に気付いている。
その上で、それを望んでいるのだから。
私は何という愚か者だろうか。
「いや、ロマンチスト過ぎるだろ」
「なによ魔理沙。良いじゃない。ロマンチックで。こんな日ぐらい、感傷に浸っても罰は当たらないわ」
「まぁ、感傷に干渉はしないが。ほら、飲もうじゃないか。今日は去年と今年を隔てる境界だが、その境界が、私達を別つわけじゃなんだからな」
「……あんたの方が、よっぽどロマンチストだと思うわ」
「そりゃあどうも」
静寂を敷き詰めたような暗闇に、除夜の鐘が、遠く聞こえた。