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聖女のオマケにもなれませんでした

作者: 夕焼け

ゆるふわ設定です

 最近のラノベによくある異世界召喚とやらにどうやら私はされたらしい。


 らしいというのは、召喚されたかどうか確証がないから「らしい」なのだ。


 異世界召喚とは、ラノベなどでよく主人公が現代日本から別の世界へ勇者又は聖女として呼び寄せられてその世界を救うという他力本願システムで、多くの場合は魔王を倒したり封印するというもの。

 魔王じゃない場合もあるけど色々パターンあるから今回それは説明面倒なのでナシの方向で。

 勇者、聖女がきちんと使命を果たすという事で話を進める。

 使命を果たし世界が平和になると召喚された勇者又は聖女は元の世界に帰ったり帰れなくて現地で高待遇で暮らしたりする。

 高待遇でない場合もあるけど、そこはほら、平和にいこう。察してよ。命大事。


 もちろん召喚に例外もある。


 召喚する人を間違えたり、召喚される本命の近くに居て巻き込まれたり、呼ばれたのではなく異世界の空間の狭間にうっかり入っちゃったとか。

 巻き込まれは二人以上誰かと一緒じゃないと有り得ないから、この場合は除外。

 そうすると間違い召喚か異世界の歪みの狭間にうっかりが考えられるがこれは誰かに確認しないと分からないから私の希望としてはこの二つの可能性は無いことにしたい。



 と、いうことで


 私、異世界を救うために呼ばれた?



 もしかしてこの世界を魔王から守るために聖女として呼ばれたなら、ちょっと、いや、かなりヤバいなぁ。


 勇者の可能性もあるけど、聖女の方が女子力高いじゃん。勇者ってなんか聖剣とか抜いたり戦ったりするんでしょ。血とか見たくないし痛いの嫌だし。


 だから聖女で。


 さて、聖女としてもヤバい状況なんだよね。



 だって私、ここに来てもう三年経つんだもん。



 三年って大きいよね。


 こりゃ魔王、世界征服してるでしょ。

 三年もあるんだもん。世界征服してないとおかしいよね。

 ヤバいなぁ。魔王やりたい放題だろうなぁ。

 勇者とかやられちゃったかなぁ。

 どこかの国の王様ごめんね、間に合わなくて。

 折角、魔術師だか賢者だか神官だか分からないけど魔法を使って召喚してくれたのに、なんかどこかの森の奥深くの小屋にのうのうと暮らしててごめんね。

 最初は言葉も通じなくて大変だったけど、今じゃ読み書き余裕でネイティブと同じ発音出来るよ。私もびっくりの順応性(自画自賛)。

 何故これが地球の日本で発揮出来なかった私!! そうしたら勉強も運動もかなりいい線いっててリア充になれたかもしれなかったのに!! ここに来て本来の力発揮とか中二設定か!!

 それにしても地球の現代日本から突然、文化も言葉も習慣も違うし更には魔法がある世界に召喚された(はず)私ってば、すごくない!?

 三年でここにも馴染んで現地人の友達も出来たよ。何故か子供ばかりだけど。


 おかしいな。私、三年前は確かに未成年だったけど今は日本の法律でも成人年齢に達してるし、ここの世界の基準でもとっくに成人なのにみんな私を子供扱いするんだよね。

 異世界からの聖女はそういう風に接するしきたりなのかな?

 もう大人の女として接してくれてもいいのに。


 この家の持ち主のおじいさんおばあさんともなんだかんだと上手くやってる。ぶっちゃけ孫みたいな関係にまでなってる。

 日本のおじいちゃんおばあちゃん達と比べると、この二人みたいに現役狩人バリバリって感じじゃなかったから最初は驚いたなぁ。


 獣を狩って捌いて食べるなんて。正確には魔獣らしいけど。


 農作業も農薬とかないから虫と雑草との戦いだし生きていくって大変なんだなと痛感した。


 近くの村に行ったら森のおじいさんおばあさん達の生活が隠居生活と教えてもらったのも驚いた。隠居生活ってもっと静かに悠々自適な感じじゃないの!?

 とにかく日本の田舎とかと全然違う。そもそも文化レベルが違う。


 ド田舎過ぎて魔王もここまでは来ないか。


 魔獣みたいのは偶に見掛けるけど、それも猟師のおじいさんが仕留めるから平気だし私も猪くらいなら捌けるようになったよ。


 猪を捌ける聖女、うん微妙だね。


 まあ、捌くだけじゃなく狩りで仕留めることも出来なくはないけどね。


 でもそれは、いつか対決する魔王と少しでも対等というか、冒険の仲間の足でまといならない為に頑張った成果だから。


 魔王が猪と同レベルとは思ってないけどさ。

 気持ちの問題よ、気持ちの。

 何もしないでただ待つより何か鍛錬でもして国からの使者を待つ方が世界の役に立つと思えたから。


 いつお城から迎えが来るかと狩りの腕を磨いて今か今かと待ってたけど、来ないね〜。


 いつの間にかおじいさんに狩りの腕を認められて一人で森の中歩けるようになったけどね〜。


 でもさあ三年も経ってたら、魔王に征服されたよね〜。


 まさか聖女抜きで魔王倒したとかないよね。

 私の助けを求めてるはずだよね、じゃなきゃ召喚なんてしないよね。


 段々不安になってきたぞ。


 そうそう! 私、日本人だから宗教なんて適当だし、この世界の神様とかに平気で祈れるよ〜。


 早く迎え来ないかなぁ。

 勇者や王子様や騎士や魔法使いと愛と勇気とスリルとサスペンスと泥沼の三角関係と果ては魔王と勇者の聖女争奪戦の冒険の旅に出ないといけないのに。


 ああっ! 王子と勇者が聖女(わたし)を巡って争いが!! 私のために喧嘩しないで!! とか、やりたかったのにな。


 でも、ここに来て三年経ってるから魔王の圧倒的勝利で終わってるか。


 拙いな。何の役に立たないまま世界が魔王の物になっちゃったよ。


 この世界大丈夫かな?


 その割にはけっこう村のみんなとか普通に暮らしてる。


 辺鄙な森の奥深くに居るから世界がどうなってるか分からないから、本当は魔王が世界征服してるかなんて知らないけど。



 あ〜、今日も良い天気で洗濯物がよく乾くわー。





 小さな庭の物干しに洗濯物を掛けて一息つくと少女──よりは幾分年嵩の乙女は日課の空想もとい、妄想に耽っていた。



 自称聖女の名前はコバ。

 もちろん本名では無い。

 みんなからコバと呼ばれてたので、そのままこの世界でもそう呼ばれてる。

 本人も今更本名で呼ばれてもこそばゆいので誰にも教えていない(は、表向きの理由で本当は真名を教えたら魔王に勝てないと思って念の為誰にも教えてない厨二病)。


 地球の日本からある時何故か異世界に落っこちて来た女の子である。


 コバはラノベやティーンズラブ小説の愛読者だった。

 そのせいか想像力が人よりも逞しく順応性があった。そして何でも自分の都合の良いように解釈する性格だった。


 森でさ迷いながらブツブツ何か言う怪しい女を猟師のジジババ夫婦が森の平和のために拾って一緒に暮らし始めたのだ(動物達がコバの異様な雰囲気に怯えていたから)。


 子供も成人して離れて暮らしていたジジババ夫婦は思ったよりも素直なコバを孫のように可愛いがり、色々な事を教えた。

 コバも右も左も分からない異世界で老夫婦の親切心に感激し二人のために早くこの世界に馴染もうと努力した。


 その結果、三年で本人が思っている以上に異世界に馴染み、現地人と変わらないくらいになった。

 猟師の腕も師匠であるジジを凌ぐほどだが、コバ本人は気付いてない。順応性あり過ぎる逸材だった。




 ある日、森のジジババの家に人がやって来た。


「こっ、これ、捕まえたからやるよ。俺の分は捕ったから。肉、すすすす好きだっただろ」


 ジジの猟師仲間のサイファである。

 彼はジジの弟子でもあり、ちょくちょくジジババ夫婦の家を訪ねていた。


 サイファは猟師の師匠であるジジから認められて独り立ちしたのに事あるごとにジジの所へ顔を出す真面目な青年だ。


 サイファは猟師というには勿体ないくらいの美丈夫で、黄金の髪に影が出来るくらいの長い睫毛、その睫毛から覗く深い海を思わせる瞳、肌は森で狩りをしてるのに全く日に焼けておらず、その辺の村の娘よりも白く陶器のような美しさだ。程よく鍛えられた均整のとれた体躯に長い脚とまるで王子様のようだった。

 森の近くの村でも娘達はみんなサイファに夢中だ。


 当の本人は慣れているのか、娘達が秋波を送っても全く気にしない。それどころか娘達から距離を置く始末。

 女性と話すのは師匠の奥さんのババかコバのみ。

 最近では女じゃなくて男が好きなのではと村で噂されている。



 因みに村のではコバの存在は知られているがその見た目から子供と思われていた。



 真面目で綺麗なサイファはコバのお気に入りである。


 サイファは肩に担いでいた猪豚魔獣をコバの前に降ろした。

 ドスンと音ともに砂埃が舞ったが二人は動じない。



「うわぁ! 猪! これハムにすると美味しいんだよね。サイファありがとう!!」


 満面の笑みでお礼を言うと玄関先でコバは自分と同じくらいの背丈の猪豚魔獣を軽々と持ち上げると台所へ向かった。



「ど、どういたしまして。じゃあな」


 サイファはコバにくるりと背を向け歩き出そうとした。


「え!? もう行っちゃうの? お茶くらい飲んでいきなよ」


「お茶!?」


「う、うん。お茶。そんなに驚くこと?」


「ウラドは……」


「おじいさん達は森の外の村まで買い出しに行ってるよ」


「コバ、一人なのか?」


「そう。私は留守番。なんでも一人で森から出たらダメなんだって」


「ということは、今俺と二人きり……」


「そうだね」


 コバはサイファを台所兼食堂に通して自分は猪豚魔獣を調理しやすいように素早く捌き、保管庫へ入れた。そして薬缶に火をかけてお茶の用意をするとサイファの方を見た。


 サイファは食堂で突っ立ったまま動かない。

 動かないサイファを不審に思ったコバは彼の所にまで戻って声を掛けた。


「サイファどうしたの? おーい」


 サイファの顔の前で手を振って呼び掛ける。

 それでも無反応なサイファにコバは両手でサイファの頬を摘み横に広げた。

 それでもサイファは無反応だ。すべすべ肌が羨ましい。


「サーイファー? どうしたのー?」


 コバは動かないサイファにチャンスとばかりに綺麗な瞳を覗き込んだ。


 宝石のような青い瞳に見入ってると突然サイファが覚醒し後ろに飛び退いた。



「っっ!!」


 サイファは真っ赤になって家を飛び出て森の奥へ行ってしまった。



「お腹でも痛くなったのかな? ま、いっか」


 コバは突然の行動に不思議に思いながらも、特に気に止めることなく家に入っていった。




 サイファは、いつも猪を分けてくれていい人だな〜。

 こんな森の中の小屋にまで届けに来てくれるなんてよっぽど師匠のおじいさんの事を心配してるんだな。




 コバはティーンズラブ小説を読む割に色々鈍かった。



「やれやれコバもサイファも見てるこちらがもどかしいわい」


「そんな事言ってコバがお嫁に行ったら寂しいくせに」


「そそそんな事ないわ! かえって清々するわい」


「あらあら、それならサイファに師匠からお許しが出たと教えてあげないと」


「なっ! まだサイファは半人前じゃ!! コバの足元にも及ばん。せめてコバと同等にならないと一人前とは認めん! コバもまだまだ子供で結婚など……!!」


「サイファはもう独立を認めたじゃないですか。コバと同等って、魔王より強くないとダメなやつ……。コバだって見た目はアレでも歳は立派に成人してますよ」


 ジジの言葉に全て反論しながらババもまだもう少しだけコバと一緒に居たいと思っていた。

 コバを嫁に出すとしても女性を口説き方が全くなってないサイファには口説き方の修行を積んでもらわないと、と思ってサイファへの課題を考えていた。




 こっそり物陰から二人の様子を見ながら、そんな事を話して楽しむジジババ夫婦であった。






 コバは知らなかった。


 この世界に彼女は聖女としてでもオマケでも巻き込まれでもなく自らの願望で自力で入り込んでいたことに。

 更に小屋のジジババが(かつ)て世界を魔王から救った勇者夫婦だったということに。

 そして、その夫婦に自力で異世界渡りが出来る力を見込まれて夫婦の全ての技を教えこまれて世界最強になってることに。


 コバの力に魔王もビビり、五十年ぶりに復活し封印を破ってるにも関わらず世界征服なんてせずに魔王城に引き篭もってることに。


 偶に小屋を訪ねてくる商人が国の重鎮(ジジババ夫婦の息子)でコバを国の最強防衛ラインにしようとジジババに頼んでることを。それをジジババが断り続けてることを。


 ジジの猟師仲間のサイファが実はお忍びでやって来てる王子で、コバのヒグマ魔獣を素手で一発で仕留めた姿に一目惚れして妃にしたいと思ってることを。


 告白も出来ずにいつも猪豚魔獣をプレゼントして気を引こうとしてることを。





 これらをコバが知るのはまだ先のことである。




この後、師匠であるジジにめちゃくちゃ鍛えられ、ババからは口説き方が甘いと巷で流行ってる恋愛小説100冊を読むよう渡されるサイファだった。


コバ「最近、サイファが乙ゲー小説のヒーローみたいな台詞ばっか言うな。何か変な物でも食べたかな?」


サイファ「 _| ̄|○ 」


魔王「我よりも強い気が二人も現れただと!? 外界は恐ろしい((((;°Д°;))))カタカタカタカタカタカタカタ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王様可愛いW
[良い点] わはは!オマケどころじゃなかった! 聖女じゃなくて残念だけど、猪解体できる聖女も良いよ、コバさん。 なんだか色々残念で、でもいいキャラたちなので、私も見守っていきますね(笑)
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