表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日は未だ来ていない  作者: 横手野 雪子
1/1

そして昨日は過ぎ去った

 霊山、その始まりは1200年程前にも遡る。なんでも徳高きお坊様が最後に辿り着き、寺を開き、教えを広めていた。山奥という辺鄙で不便な地にも関わらず、多くの人々が集っていた。

 一方で、かの寺ではこんな噂も囁かれていた。


「死者を呼ぶことができる」と。

 亡くなった者が人の口を借りて、話し出すのだという。


 それが、真実、生前の故人を呼んでいるのかは、わからない。

 だが、菩薩寺には現在も『イタコ』と呼ばれる者がただ一人おり、訪れる人々が絶えないのは事実である。


 夕刻、寺に一人の男の子の姿があった。年の頃は、十歳になったかどうか。

 肌の色は白く透き通り、黒い目には、深い諦観が浮かんでいる。

 その様子は、まるで子供らしくはないのだが、周囲にそれを指摘するような者はいないのだろう。


 彼は慣れた様子で歩き、寺の上階へトントン上っていく。

 窓から見下ろすと砂利が敷かれた広場が見え、参拝者たちが帰っていく。


 ふと、思い出す。

 昔、子が親より先に死ぬことは親不孝とされていた。

 あの世に行った子供は、生まれ変わるために石を積み重ねなければいけない。

 しかし、あと少しで終わるというところで、鬼が来ては、その石は崩されるのだ。

 転生を願う子供を打ちのめす、鬼。



「自分がいるここは、賽の河原なんだ」とポツリと呟く。

 こなしても永遠に途切ない参拝者たち、ずっと同じ場所にいることしか許されない自分。

 彼、斎木真尾は最後の参拝者が帰ってからも、しばらく暗い外を眺めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ