第97話 強さと怖さと
「風遊美さんはどんな魔法を使うんですか。」
それほど怖い魔法とは、どういうものだろう。
例えば由香里姉の氷の魔法。
由香里姉が自分で言っていたのだが、彼女の魔法は『自分が認識できるどの場所にも任意の温度の氷を出現させられる、若しくは任意の物体を摂氏0度以下の任意の温度に下げることが出来る』代物。
つまり由香里姉に魔法で勝つためには彼女の認識範囲外から魔法をかけるか彼女より早く魔法を発動させるしか無い。
しかも由香里姉の認識範囲とは見える範囲全部で発動時間も並の魔法使いの数分の1程度。
故に見える範囲で戦う限り、由香里姉はほぼ最強だ。
それに匹敵する怖さの魔法とは何だろうか。
「本人の申告では治癒魔法と現状認識魔法だけど、それだけじゃない。僕の攻撃魔法とは質の違う何かを隠し持っている。
困ったことに『ある』のはわかるんだけどそれが『どんな魔法』かがわからないのが僕の探知の限界でさ。でも僕より強いことはわかるし、下手すれば由香里さんとも対等なレベルである事もわかるんだ。
風遊美は何考えているかわからないけれど悪い奴じゃないとも感じるから、よけい面倒くさくてな。」
「大変ですね、何か攻撃魔法科も。」
「おうよ。何せ共通する尺度が戦って強いか弱いかしかないからな。魔法工学科みたいに実用的なもんならもっと色々な切り口もあるんだろうけれどな。」
そういうものなんだろうか。
今ひとつ分からないが、まあそれとは別のもう一つ気になる事を聞いてみることにした。
「それでもう1人の怖い人って誰ですか。」
「それは言わぬが花ってやつさ。こいつに関しては魔法を隠している理由もわかっている。よほどの事がないとその魔法を使う事がないともわかっている。だから俺もあえて誰とは言わないし、戦ってみようとも思わない。まあ本気で戦えば100パー僕が負けると思うけどな。」
「そんなに強いんですか。」
「お互いのためそれを確認する日が来ないことを祈る、って感じかな。だから風遊美と違って気にならないしむしろ使わないですめばいいね、って応援したくなる感じだ。」
何かよくわからないが、まあ色々あるようだ。
「何か一介の魔法工学屋には縁遠い話ですね。」
「そうでもないさ。結構この島もきな臭い時があるからな。2年前この島で起こったテロ事件、知ってはいるだろ。」
「話だけは。」
新十字軍と名乗るテロリストが巻き起こした無差別テロ企図事案だ。襲撃者13名全員死亡、島側も2名死亡17名重軽傷。
単なるテロ団体ではなくどこかの国家も絡んでいたらしいという噂もネットでは流れたが、表面上はニュースで流れた死者数以上の報道がないまま幕を閉じた。
「日本は宗教的な縛りがないせいでさ、世界でも一番魔法については進んでいる。こんなチッケな魔法特区でもな。実用化されている魔法理論の5割以上がここで生まれているし現役の魔法研究者や魔法使いの半分はここの住民だ。その癖今でも迫害による亡命者を年何十人って単位で受け入れている。
その分ここを敵視している勢力も多い。最近またちょっと危ないかなっておふくろ達も言っていたし。」




