第86話 立候補者は誰もなし
「来ないですねえ。」
「まあ、来ないね。」
俺と由香里姉の会話。
何が来ないかというと、来期の学生会役員の立候補者だ。
本当は会長、副会長、書記、会計、監査の5人の正役員を応募しているのだが、今年も立候補者は今のところゼロ。
まあ例年立候補ゼロで、教官による推薦で細々と決めているのが実情なのだが。
しかも今季は書記と会計と監査を一人で兼ねているという少人数化も極まった状態だったりする。
「このままだと修が学生会長をやる日も近いかもね。」
「勘弁して下さいよ由香里姉。来期でやっと3年だしそういう柄じゃないのは知っているでしょう。」
本来は11月27日から12月1日まで立候補受付、4日から公示で8日に選挙の予定だった。
でも立候補者は誰も出ないまま、今日は12月7日。
校内中の掲示板に立候補者追加受付中の張り紙もしたし、昼の校内放送でも毎日流してもらっている。
でも投票日前日の今日の午後4時30分現在、誰も立候補者はいない。
「去年はどうしたのですか。」
「そろそろ来るんじゃないかな。」
香緒里ちゃんの質問に鈴懸台先輩が謎の返答をする。
「筑紫野先生があと15秒れこの部屋に来ます。」
ジェニーがこの部屋に近づく人間を感知した。
筑紫野先生は学生会を担当している教官だ。
ぴったり15秒後、学生会室のドアがノックされる。
「入るわよ。」
返事も聞かずに入ってきたのは40代の大柄でスタイルの良い女性。
筑紫野先生は空いている椅子にでんと腰掛ける。
「どうかしら。立候補者は誰か来ましたか。」
「例年通りですわ。」
由香里姉が代表して答える。
「やっぱりねえ。学園祭実行委員なんかは人気もあるんだけれど、学生会は何故か人気が無くてねえ。代々そうなのよね。」
そう言って先生は香緒里ちゃんが入れた紅茶入りのカップを軽く口に運ぶ。
「それでどうするんですか。」
「来期の会長と副会長は教授会から推薦するわ。残りの役職は今の補佐3人で割り振って貰いたいんだけど、いいかしら。」
ちょっと考える。
今度来る会長と副会長がどんな人物かはわからないが、正役員になるとは言えやることは多分あまり変わらないだろうし工房もそのまま使える可能性が高い。
悪い話ではないだろう。
「俺はそれで大丈夫です。」
「修兄も一緒なら。」
「ジェニーも大丈夫れすよ。」
筑紫野先生は俺達の返答に軽く頷く。
「なら決まりね。明日の午後4時には顔合わせで連れてくるわ。」
「先生、今度の会長と副会長候補はどなたなのでしょうか。」
「まだ本人の最終確認取ってないからね。明日のお楽しみにしておいて。」
月見野先輩の質問を軽くいなして先生は立ち上がる。
「それじゃまた明日くるわね。お茶ご馳走様。」




