第77話 警戒員付き小間使い付き親公認
「あと庭というか屋上もあるよ。うちの専有スペースだから自由に使えるよ。」
との事で俺達は外に出る。
「おお、広いし見晴らしいいね。」
確かに結構広い。
俺の魔法によると奥行19メートル幅12.5メートル。
他にベランダ部分もある。
そして港から学校まで島内の主要部分を一望。
「ここに露天風呂作ったら常設できるんじゃないか。他から見られる心配もなさそうだし。」
恐ろしいことを鈴懸台先輩が言う。
「そのつもりよ。まあ屋上の強度なんかもあるだろうから後ほど専門家に聞くけど。」
その専門家って、ひょっとして。
聞くのが怖いのでそのままにして俺達は部屋に戻る。
とりあえずソファーとふわふわの敷物のところで皆で落ち着いて。
「ここは私と香緒里。それと香緒里の警戒担当としてジェシー、そして小間使いとして修が住む予定でーす。でもミドリもアカリも自由に来てね。一部屋空いているしベッドもマイクロバスのよりは広いわよ。」
えっ。
「俺は聞いていないぞ。」
由香里姉は俺の方を見る。
「修の親の許可は取ったわよ。うちの親もOKしてくれたし。うちの親からの伝言もあるわ。『何ならどっちか食ってもいいけど責任とれよ。』だって。」
「わーっ」
わざとらしく香緒里ちゃんとジェニーがはしゃぐ。
あ、でも確かに薊野家の両親ならそう言いそう。
確かに小さい頃からの知り合いだし何故かわからないけれど気に入られているし。
「という訳で修は今日帰ったら早急に荷物まとめてね。明日引っ越すから。」
いきなりかよ。
まあ俺の荷物なんて一晩あればまとめられる程度だけどさ。
「あ、そうだわ。修がいたらお願いすることがあった。」
由香里姉は巨大な冷蔵庫から包装紙に包まれた箱を取り出す。
「引越しの挨拶用引っ越し蕎麦。下の階は挨拶したから隣だけお願い。」
「挨拶なら由香里姉の方がいいんじゃないか。」
「隣の住民に限っては修のほうが適任なの。行ってみればわかるわ。」
との事なので、仕方なく蕎麦を持って玄関を出て隣へ。
表札は出ていない。
チャイムを押す。
「おはようございます。隣に引っ越してまいりました薊野です。ご挨拶に参りました。」
歩いている間に考えた挨拶文句を唱える。
「はい、いま出ます。」
どこか聞き覚えのあるような声がして扉が開く。
出てきたのは俺がよく知っているむさい中年後期の親父だった。
「え、おい。長津田だよな。」
「田奈先生、おはようございます。」
成程、隣の住民とは田奈先生だったか。
確かに田奈先生はパテントいっぱい持っている金持ちでかつこの島に定住して家族持ち。
だからここに住んでいても不思議では無いけれど。
「今度隣に薊野姉妹とともに引っ越してきますので、御挨拶です。」
「そうか、最近学生会で緊密だと聞いていたが、ついに。」
「違います!」
そういった間違いは断固として否定する。
「単なる幼馴染で家どうしが仲がいいだけです。正直俺の本意でもありません。」
「そうか。」
田奈先生は俺の台詞で何かを察したらしい。
「まあ大変だろうが、頑張れよ。」
そう励まされ、俺は田奈邸を辞す。




