第75話 風呂上がりの朝目指すのは
土曜日の朝はマイクロバスのベッドで迎えた。
つまり、いつもの露天風呂の次の朝ということだ。
横には由香里姉。
俺の右手をしっかり握ったまますやすやと寝ている。
一方で俺は寝不足気味。
何故かと言うと先週の俺と香緒里ちゃんの朝風呂に至るまでの色々を根堀り葉掘り聞かれたからだ。
告白されたけど、まだ相手を決める状態じゃないという理由でごまかしたとは答えた。
例の香緒里ちゃんの『確認』とかについては一切話していない。
話すと色々やばそうだからだ。
たとえ全て夢の中で起こった出来事だとしても。
他の面々は既に起きているようだ。
風呂に3人散歩中1人。
繋いでいるのと反対側の手で携帯を見るともう午前8時。
ただ、今の状態で俺だけが起きるのは困難というか不可能だ。
右手がしっかり由香里姉に握られていて離れない。
しょうがないなと思いつつ由香里姉を何となく目が観察してしまう。
寝ている時の由香里姉は可愛い。
起きていると綺麗の方がイメージ強いのだが寝顔は可愛いとしか言えない。
俺より先輩だけれど当然俺より小柄で細くていかにも女の子という感じだ。
あ、いかんいかん。
余分なことをしたくなる。
慌てて邪念を追い払っていると、小さい声とともに軽く由香里姉の身体が揺れた。
まぶたがピクピクと動き、そして開かれる。
朝9時。
全員がマイクロバスに揃ったところで由香里姉が口を開く。
「じゃーん、今日は重大発表がありまーす。」
何だろう。
「私と香緒里はこの度、寮を出て引っ越すことになりました。昨日物件の引き渡しを受けたので、本日これから皆様による内覧会を実施したいと思います。」
おーと言いながら拍手をする面々。
俺も拍手をしながら思う。
今まで由香里姉と香緒里ちゃんがこそこそやっていたのはこれだったのか、と。
この島は魔法特区でほとんどの人は学校や会社の寮に住んでいる。
でも関連会社のお偉いさんとか魔法関連の教授や先生方等の一部とかのため、マンションもいくつかは建っている。
ただそういう用途のためのマンションなので、どこもなかなかいい値段するしつくりも豪猪だ。
薊野家は金持ちだし香緒里ちゃんも個人的にお金持っているし買えない金額ではないんだろうけどさ。
「それでは私達のおうちにご案内です。」
香緒里ちゃんも浮かれている感じだ。
と、ふと気づく。
この件ってひょっとして俺も関係しているのか。
退寮届の件ってこれに結びつくのか?
いやな予感はさっさと払拭するに限る。
「香緒里ちゃん、その家ってひょっとして俺も……」
「詳細は現地で発表いたします、でーす。」
答えてくれないが否定もしない。
嫌な予感しかしない……




