第71話 小話4のA 秋の夜の夢(3)
「今ここで一番俺が怖いのは、香緒里ちゃんが幸せじゃなくなること。」
俺は俺が思った通りを正直に言うことにした。
「次に怖いのは香緒里ちゃんが俺の前から居なくなること。香緒里ちゃんと俺の仲が悪くなること。香緒里ちゃんと由香里姉と仲が悪くなること。香緒里ちゃんと他の人との仲が悪くなること。」
香緒里ちゃんはじっと俺の方を見て、話を聞いてくれている。
「俺にとっては香緒里ちゃんは大事な女の子だ。可愛いし綺麗だし頑張っているし。妹分として大好きだと言ったけど本当はそれだけじゃない。顔も可愛いしスタイルだっていいし性格もいいし女の子として凄く魅力的だ。正直に言うと夜のオカズにした事だってある。
でもやっぱり誰より大事だし幸せになって欲しい。今はまだ恋人としてじゃないけれど。だから汚したくないし傷つけたくもない。それはわかって欲しい。」
ほぼ言いたいことは言えた気がする。
でも香緒里ちゃんの望む答ではきっとないだろう。
だから俺は香緒里ちゃんの次の言葉を待つ。
「修兄、正直に答えてくれたのはわかったです。ありがとう、でも。」
「何?」
「それじゃあ修兄に取っての恋人とか恋人に近い人って誰ですか?由香里姉?ジェニー?それともクラスメイトの誰かとか他にいるんですか?」
「いないのは知っているだろ。一番一緒にいるのは香緒里ちゃんだよ、間違いなく。」
「そっか、そうだよね。」
実際学生会室や工房等、授業終了後はほぼずっと一緒にいるしな。
まあ最近はジェニーも一緒だが。
何とか無事に話はつきそうかな。
そう思ったが、ふといやな予感がした。
香緒里ちゃんが何か考え込んでいる。
にやりとしたり真剣な顔をしたりして。
やがて香緒里ちゃんは小さく頷いた。
「よし!」
小さく声が聞こえて。
香緒里ちゃんが立つ。
そして何も隠さず俺の目の前に立つ。
「最後に一つ修兄の体に確認します。本当に私を魅力的だと感じているか、です。」
そう言うと俺の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きついた……
壁の感触とベッドの感覚。
そして右手に繋いだ手の感触。
俺がいるのはマイクロバスのベッドの中。
横に寝ているのは香緒里ちゃん。
あれ、風呂は。
そう思って俺は気づく。
あれは夢だったのだ、と。
そして下半身というかパンツに変な感触。
やばいな少し漏れたようだ。
そう思ったところで右手が軽く握られ、そして離れた。
香緒里ちゃんが起きたらしい。
「これから着替え兼ねて露天風呂行くけれど、一緒に行きませんか。着替え持って。」
小声で俺に聞いてくる。
普通なら俺は断る。
でも今だけは、渡りに舟なのでその話に乗ることにする。
着替えの小さいバックを持って俺は外に出る。
バックで前を隠して風呂のそばへ。
出ちゃったものを拭うようにパンツを脱ぐ。
脱いだパンツをビニル袋に入れてバックの底に押し込む。
そしてお湯を浴びるふりして念入りに何回か洗って、そして風呂へ。
香緒里ちゃんも俺と同じ位時間をかけて風呂に入ってきた。
「何かとんでもない夢を見た気がする。」
俺がそう言うと香緒里ちゃんも小さい声で返す。
「ちょっと恥ずかしいし調子に乗り過ぎた気もするけど、確認できたから後悔はしてないです。」
何が確認できたかあえて俺は聞かない。
「あ、2人でお風呂入っている。怪しいかなこれ。」
「何!また妹に先越された!」
「ワタシも一緒に入るすよ!」
賑やかな連中が合流してきて、そしてまた新しい一日が始まった。




