第70話 小話4の9 秋の夜の夢(2)
普通なら俺は断る。
断固として断る。
でも今だけは、何か断ると不味いような気がした。
なので口調だけは軽く返事する。
「そうだね。」
「タオルはありますよ、はい。」
香緒里ちゃんにタオルを渡してもらう。
香緒里ちゃんはちょっとためらうように一瞬動きを止めた。
そして両手を一回握りしめ、そして服を脱ぎだした。
俺も覚悟して服を脱ぐ。
割と毎週やっていることなのに、香緒里ちゃんと2人だけだと凄く緊張する。
いや緊張と興奮どちらだろう。
近くの岩に服を置いて、露天風呂へ。
すぐに香緒里ちゃんも入ってくる。
「隣、失礼します。」
そう言って香緒里ちゃんは俺のすぐ横に座る。
腕が触れるくらい近くに。
俺が腕を動かすと香緒里ちゃんの胸に触れそうなほど近くに。
「2人だけだとちょっと緊張しますね。」
「確かにな。」
「でも、なかなか上手くいかないです。これでも色々努力しているつもりなんですけれど。」
香緒里ちゃんはそう言って俺の方を見る。
すぐ横に香緒里ちゃんの顔。
お湯のせいか香緒里ちゃんの顔がちょっと赤くなっていて色っぽい。
俺はどきっとする。。
「小さい頃から修兄が欲しかったんです。お姉ちゃんと違う髪型や服を試してみたり、無邪気なふりしてくっついてみたり。修兄の成績が優秀と聞いてどこか私立へ行っても後を追えるよう勉強だって頑張りました。この高専だって理数系苦手だけど受かったんです。修兄の手伝いが出来るような魔法を使えるようになったのは偶然ですけれど。
今だってあざといと思うけれどお風呂誘ってみたり、肩が触れるぎりぎりの距離にいたりするんです。恥ずかしいけれどそれでも私は修兄がほしいんです。わかってくれませんか。」
「でも大事な妹分に問題を起こすわけにもいかないだろ。」
俺はそう言うのがやっと。
「問題起こしてもいいんです。私は構いません。何でもしていいですしして下さい。何だって受け入れます。むしろ何もしないより無茶苦茶にされた方が私は嬉しいです。」
「でもそれじゃ香緒里ちゃんが。」
「子供できても退学になっても構いません。自活出来るくらいの収入はあるし、学校を退学になっても修兄が面倒見てくれるならその方がいいです。逆に修兄が退学になったら私が一生面倒見ます。でも……」
そこで急に香緒里ちゃんの声のトーンが落ちる。
「だめですよね。それじゃ修兄が幸せじゃないですよね。自分でも酷い考えだと思います。それくらい酷い女だという事も修兄に言っちゃったし、だから修兄も私を大事にする必要はないんです。だから今だけでもいいですし都合のいい時だけでもいいです。修兄が欲しいんです。」
どうしよう、と俺は思う。
香緒里ちゃんの事を俺はどう思っているか。
可愛いとは思っている。
大事だとは思っている。
綺麗だとも思っているし魅力だって充分に感じている。
実際に夜のオカズにしたこともある。
でも恋人とかそう思ったことはない。
今のところは。
どうするか。
時間は多分限られている。
正解はわからない。
ならば。




