第69話 小話4の8 秋の夜の夢(1)
今日ベッドを共有するのは香緒里ちゃん。
これで3回めになる。
香緒里ちゃんと同じベッドの時は手を繋いでそのまま会話せずに2人で寝る。
最初、香緒里ちゃんは会話するのも恥ずかしそうな感じでただ俺の手を握ってきた。
だから俺もそれにあわせた。
今日も2人で無言で手を繋ぐ。
何故か香緒里ちゃんと手をつなぐと安心してかすぐに眠れる。
そして手を繋いだまま2人で同じ夢を見る。
小さい香緒里ちゃんと小さい俺が一緒に遊んでいる夢が多かったような気がする。
はっきりしないのは夢だから。
覚めるとあっという間に記憶から逃げていく夢だから。
でも夢の幸せな感触だけはいつまでも覚えている。
そして今日も夢の中。
夏草が小さい俺達の胸より高く生い茂ったあの公園。
白いサマードレスを着た小さい香緒里ちゃんがとことこと俺の前にやってくる。
そして俺の前で立ち止まって、頭を下げた。
「今日は修兄とお話をしたいと思います。だから、ちょっと起きて下さい。」
え、あれ。
「今日はちょっと勇気を出してお話したいんです。お願いします。」
ふと気づく。
見慣れた天井と壁。
誰かと手を繋いでいる。
そう、ここはいつものマイクロバスのベッドの中。
手を繋いでいるのは香緒里ちゃんだ。
隣に寝ていた香緒里ちゃんが握っていた俺の手を離し、起き上がる。
そして立ち上がってマイクロバスのドアを開けて、外へ。
どうしよう。
そう思ったのは一瞬だけだった。
俺は起き上がり、そして香緒里ちゃんの後を追う。
星空が妙に明るくて幻想的な夜。
脳裏に浮かぶレーダーには俺と香緒里ちゃん以外動いている人間はいない。
俺はマイクロバスのすぐ先にいる香緒里ちゃんに近づく。
「ありがとうございます。来てくれたんですね。」
香緒里ちゃんが振り返らず向こうを見たままそう言った。
「お話って何だ?」
「いろいろ、です。たとえば修兄が私のことをどう思っているのかな、とか。」
香緒里ちゃんが俺の方に向き直る。
「好きなのか嫌いなのか、それとも特になんとも思っていないのか。」
「好きだよ。」
その言葉は用意していた。
あくまで軽い口調で言う事も含めて。
「ならどんなふうに好きですか。友達ですか恋人ですか後輩ですか。」
「一番近いのは家族として、かな。ある意味親よりも近いかも。本当の姉妹はいないけどさ。」
俺が用意していた台詞はここまで。
ここからは真剣勝負。
「……ちょっと冷えてきましたね。」
冷えると言うほどではないが、風がだいぶ涼しくなってきたのは確かだ。
「身体が冷えそうなので、御風呂でも入ってお話しませんか。」




