第６５話 小話４の４ 俺に分からない可愛気
「今、修復魔法をかけましたわ。無理なさらなければ、今日中に痛みも引くと思いますわよ。」
そう言って月見野先輩は魔法無線のインカムのスイッチを入れる。
「学生会月見野から会長宛。グラウンドの事故の件、怪我及び被害は軽微ですわ。会長の臨場と搬送車は必要ありません。」
「学生会薊野了解。」
もうすぐ現場上空というところまで近づいていた空飛ぶマイクロバスが、Ｕターンして校舎の方へ帰っていく。
「長津田君に免じて、今回だけは見逃して差し上げますわ。その代わりご自分で空中スクーターを乗り回したり人間大砲の弾役をやったりするのは禁止ですわよ。もし守れなければ学祭参加資格を剥奪致しますのでお忘れなく。」
「分かった分かった。気をつける。」
「では長津田君、一通り直して差し上げて。」
これだけの損傷を元に戻すのは結構手間だし疲れるのだがしょうがない。
俺が魔法を唱えると、外側に出っ張って穴が空いていたフェンスの金網が少し戻り、穴が空いていた部分が少しずつ塞がっていく。
完全に穴が閉じたところで仕上げで緑色の被覆を被せ直せば完成だ。
緑の被覆が若干足りなくて金網の地の色が出た部分が少し残ったが、まあこんなものだろう。
「これでいいかな。」
「上出来ですわ。あとこのバイクも修理してあげて下さいな。でも田奈先生が乗るのはお祭り期間中は禁止ですわよ。どなたか研究室の方いらっしゃるかしら。」
後方で手が挙がる。
見ると講師の新地先生だ。
「なら直した後は新地先生お願いしますわね。それでは長津田君。」
「了解。」
幸い壊れた破片等はほぼ残っている。
それに空中バイクの前部分に重要部品等はない。
魔法で確認したがハンドルと後方の窒素ガス噴出連動部分も異常なしだ。
俺は破片を集めて魔法を唱える。
破片がバイクの元あった場所に収まっていき、回りの部品とくっついていく。
微妙に足りない部分は回りの部品を少し薄くすることで誤魔化し、最後に表面処理をかけてやればほぼ壊れる前と同様。
「それではお約束の方よろしくお願いしますわ。私達はこれで失礼しますわね。」
月見野先輩がそう言って一歩歩くとその先の人垣がささっと左右に分かれて進路が出来る。
月見野先輩はため息を一つついてそのまま歩いて行く。
俺や香緒里ちゃんやジェニーもその後を追う。
「それにしても今回は割と寛大な措置ですね。何か理由があるんですか。」
俺は月見野先輩に尋ねる。
「あの先生は嫌いじゃありませんわ。可愛気があって。」
あのごつくてむさい物作りオタクの成れの果てに可愛さなんてあるのだろうか。
「あの先生は長津田君にも、あくまで先輩か友人として頼んでましたわ。それに私に対しても主任教授という立場を出さず、あくまで取締担当の学生会役員と取締られる側として接していましたし。あそこで主任教授としての立場を全面に出してごねたら私としても厳正な措置を取らせていただいたところですけれど。ああいう人間は嫌いじゃないですわ。」
成程、そういう訳か。
確かに田奈先生は偉ぶったところはない。
隣の魔法技術大学の教授も兼ねているしテレビ等で解説等をすることもあるそれなりの有名人でもあるのだが、学生に対してもフランクに接してくれるし面倒見も悪くない。
ただ成長してるとは言え所詮物作りオタクなので女性は苦手だったり立場を考えず行動したりで問題も多いのだが。
それを可愛気ととるかは……俺には無理だな。
「さて、会長も待ちくたびれているでしょうし、帰ったらお昼にしましょう。」
月見野先輩の言葉に俺達は頷く。
