第63話 小話4の2 職人の腕は確かです
香緒里ちゃんとジェニーを連れて、まずは俺の古巣から回ることにする。
創造制作研究会の売店だ。
本来は活動で作った魔法の杖や魔法湯沸かし保温ポット等の魔法生活道具の売店だったが、昨年から江田部長の趣味で甘味の売店も併設している。
困ったことに甘味の売店のほうが客入も売上もいいらしい。
顔を出すと馴染みの部員が早速声をかけてくる。
「香緒里ちゃん久しぶり、学生会は大丈夫?はいこれ!」
「こっちも持ってけや。黒糖蜜と本天草使用のみつ豆だ!」
あっという間に香緒里ちゃんの手にお盆が渡され、甘味4種類でお盆がうまる。
「どうですか、景気は。」
「相変わらず甘味ばかり売れているよ。」
市ケ尾副部長が苦笑している。
「まあ物品はお土産に買っていく最終日がヤマだけどね。」
そう言って既に満員の店内ではなく部員の休憩室の方に案内してくれた。
香緒里ちゃんのお盆を近くの机に置く。
客の入りは初日だけど順調すぎるぐらい順調だ。
俺達が入った後に客が並び始め、既に10人位の列が出来ている。
むくつけき男ばかりの店だが、全員が白衣に白い料理帽というスタイルで清潔感を出している。
そのスタイルが醸し出す職人感と味が結構受けているらしいと、学園祭の非公式ガイドブックには書いてあった。
職人と言っても本当は甘味ではなく魔道具作りの方なのだが。
「ジェシーも一緒に食べませんか。私一人だと全部は無理です。」
「いいのすか。凄く美味しそうす。」
そこですかさずジェシー用の小皿と食器入りのお盆が横から出てくる。
江田部長がにやりと笑って立っていた。
「部長、すみません。」
「お前らはまだ部員だからな。学生会に派遣しているだけで。」
「そうなんすか。」
「帰れる見込みが大分薄くなったけどな。それでも大分貢献してもらったし。」
貢献とは例の飛行スクーターの件だろう。
「まあゆっくり食べて行けや。今年は砂糖も小豆もこだわった。都内の名店にも負けない自信はあるぞ。」
「部長つぶあん第3弾製造開始お願いします。このままだと今日1日持ちません。」
玉川先輩が部長を呼んでいる。
「おう今行く。じゃあな。」
部長は製造スペースへと消えていった。
「今の人、甘味職人さんすか。」
「本職は魔道具製造だけれど、何でも作り込むしこだわるからな。」
「あ、でも確かに美味しいですこのあんみつ。すっきりして雑味がないのに凄く奥深い味がします。」
江田部長の魔法は主に材料錬成。
物質の構成割合や分子構造まで思い通りにいじれる魔法持ち。
それが趣味と実益兼ねてこだわって作っているんだ。
不味い訳はない。
「このかき氷も凄いす。さらさらでふわふわで、いくら食べてもキーンとこないす。」
見ると綿菓子以外のほとんどの製造は江田部長がメインだ。
他の部員がやっているのは部長が作ったあんこ等の半製品を組み合わせて皿に盛るだけ。
かき氷の氷さえ削る前と後に部長が魔法がかけている。
まあ去年も似たような感じだったのだが。
「部長、今からでも学校辞めて甘味屋開いたほうが大成するんじゃないか。」
そう言いつつ俺もあんこときなこのかかった餅をいただく。
あ、確かにこれは無茶苦茶に美味いかも。




