第61話 小話3終話 寝物語の長い夜
『これからちょっと修に精神的にイタズラをするよ。』
由香里姉はそう言って俺の方を見る。
『もし私がここで服を全部脱いで身体の力を抜いて、私の身体を修の好きなようにしていいよと言ったらどうする?』
とんでもない事を俺に聞く。
今までの雰囲気のおかげで、本能が刺激される状態にはなっていないのが幸いだ。
『必死に我慢する。今は他の人もいるし由香里姉の将来を傷つけたら不味いし。』
由香里姉が微笑んだ気配が繋いだ手から伝わる。
『正解。だけどね、もし修がその気になって私にいろんな事をしようとしても、多分私は拒めないと思う。
拒むのが正解とわかっいてもそうしないと修の将来を傷つけるとわかっても。
いくら良識とかその辺が必死に止めようとしても、私が私である部分が喜んじゃって何でも受け入れたくてたまらなくなっちゃうと思う。』
思わず俺の心臓がドキリと鼓動を打つ。
今のってひょっとして情熱的なまでの告白だろうか。
『でもそれは多分香緒里も同じなの。香緒里の方がもっと直接的かな。割としょっちゅう修にアピールもしているし。
本当は私の求めているものと香緒里が求めているものは、ちょっと形が違うんだけどね。』
『形ってどんな?』
『それは言わぬが花かな。来週香緒里に直接聞いてみれば?』
何故来週なのだろう。
『朱里のくじは誰がどう引いても朱里の思うような結果になる。そういう魔法がかかっているの。だから順番で行くと来週の金曜夜はここに香緒里がいる筈よ。』
『それって八百長じゃ。』
『かもね。でも私は朱里の裁定を信じているし朱里も自分のエゴにはこの魔法を使わない。私だけじゃなくて翆も気づいていると思うよ。それを言わないのも信頼関係。』
そうだったのか、と俺は思う。
『あとね、私は4年だから来年春には学生会を引退するけれど、誰を選ぶか選ばないかは急いで考える必要は無いからね。
私を選ぶのも香緒里を選ぶのも、ジェニーちゃんを選ぶのも選ばないのも修の自由。みんな選んじゃってハーレム状態にするのも修の選択次第だし、一人を選んでも全く他の人を選んでもそれは修の自由だよ。
私としては、私一人を選んで欲しいけれどね。』
『何か俺が色々気づいていないようですまんな。』
『本人からは案外見えないものよ。ジェニーちゃんの事もね。』
何だろう。
『ジェニーがどうかしたのか。』
『気づいていないよね、やっぱり。』
『確かにジェニーの義足は俺の作品だし感謝はされているようだけれど。』
由香里姉がちょっとため息をついたような気配が伝わる。
『修はそれだけのつもりだろうけど、ジェニーちゃんの態度を見るとそれだけじゃないと思うよ。きっと義足に何かを重ねているんだと思う。その思いが修に向いている。これもいつか2人だけでじっくり話を聞いたほうがいいと思うな。』
自分だけを好きになって欲しい、と言った癖に選ぶのは俺だと言う。
挙句の果てに他のライバルの心配をしたりする。
その辺りがある種俺の記憶を刺激する。
「やっぱり由香里姉って、姉貴なんだな。」
「姉貴ってひょっとして恋人扱いは無理って事?」
「そうじゃなくてさ……」
長い夜は更けていく。
長かったこの小話も終了です。




