第38話 小話4の4 そして目指すは殲滅級
そして翌日。
9時00分。攻撃魔法科用魔法訓練場。
夏休み中なので授業がないし学生もいないので、ここを借りるのも簡単だ。
由香里姉が香緒里ちゃんに説明する。
「まずこれが近接攻撃魔法の効果確認用人形よ。これに攻撃を当てれば相手がどんな状態になるか判定してそこのディスプレィに表示されるの。」
香緒里ちゃんはバックから例のマジカルステッキを取り出す。
この前より更に取り出すモーションが早くなっているのは気のせいか。
放電音がジリジリと鳴っている。
香緒里ちゃんは軽くステッキを振り上げ、そして人形に振り下ろした。
判定はすぐに出る。
「うーん、20歳男子だと95パーセントがショック死です。残りの5パーセントは魔法耐性がある攻撃魔法使いか電撃に耐性がある工学魔法使いだそうです。」
つまり一般人は確実に死亡。
「まあ自衛用だしいいんじゃないか。」
「天罰ですわね。」
この人達には常識も良識も無い。
「次は中距離攻撃魔法演習場ですわ。今回は威力判定用の板も全部出してあるわ。厚さ10ミリのベニア板とうちの規定の装甲板20ミリよ。まあ今回は弾がパチンコ玉より小さい球だし、装甲板は必要ないと思いますけれども。」
この時俺は気づいていればよかったと、後になって強く思う。
少なくとも装甲板は出すべきではなかった。
香緒里ちゃんは右手で銃を構えて撃つ。
ドン、という爆発音。
一発目で思った以上の反動があったらしい。
香緒里ちゃんは銃を両手に持ち直し、しっかりと構えて撃つ。
轟音とともに10メートル先の標的版に穴が空いた。
次に連写モードで撃つ。
ほぼ横一列に穴が空いたが倒れるまではいかない。
「むむっ!」
結局50メートル先の標的までは貫通できたがそれ以上は駄目で、かつ標的板を割ったりも出来なかった。
俺としては護身用なので既にオーバースペックだと思っているのだが、作った本人は満足いかないらしい。
「護身用としては十分な出来じゃないかしら。でもまあ、私の魔法ならこれ位の威力はありますけれどね。」
由香里姉がそう言って杖を構え、呪文を唱える。
杖からほとばしる魔力が細長い氷の槍となり、50メートル先の装甲板を貫通した。
「まあこんなものですわ。」
こら由香里姉、火に油注ぐな!
更に横で鈴懸台先輩が愛剣クラウ・ソラスを振るう。
炎を帯びた衝撃波が、やはり50メートル先の装甲板を両断した。
「ううむ、ならばこの魔法よ!」
由香里姉が別の呪文を唱え、今度は巨大な紡錘形の氷弾を形造る。
50メートル先の装甲板が折れ、上部が吹っ飛んだ。
魔法対抗戦を勝手に始めてしまった2人を無視して、月見野先輩が総括する。
「まあ後ろの2人は無視致しまして、護身用として考えれば充分以上の出来だと思いますわ。」
「うう、でもやっぱり威力不足なのです。せめてあれ位には対抗できるようにしたいです。」
魔法対抗戦は更に凶悪さを増している。
今度は100メートル先の装甲板が壊され始めた。
「あんなのに対抗したら、付近一帯が再起不能になりますわよ。」
「そんなん自衛用じゃないだろ。今の状態ですら短距離殲滅兵器になっているし。」
俺と月見野先輩で香緒里ちゃんの説得を続ける。
そして向こう側ではそんな俺達の説得をあざ笑うように魔法対抗戦が続いている。
「その気になれば反動は魔法で殺せるのです。弾数を減らせば持ち運べる程度のは作れると思うのです。せめて敵が装甲車で襲ってきた場合の自衛用で、もう少し強力なのを作る必要があるのです。」
「そんな必要があるかい!」
「現にあれ位の戦闘力がある個人が存在するのです。だから可能性は無い訳でもないのです。」
その、あれ位の戦闘力があるという個人2名は少し疲れてきたようだ。
「頃合いですわね。」
月見野先輩はそう言って杖を振りかざす。
彼女が短い呪文を唱え終えるとともに、魔法対抗戦は終了した。
今回は衣服は無事なまま、やっぱり倒れてひくひく痙攣し始める2人の先輩。
「まああの2人みたいなのはそうそう襲ってこないとは思いますけれども、あまり無茶なものは作らないでくださいね。」
月見野先輩はそう言ってため息をついた。
あ、説得を諦めたな。




