第31話 小話3の6 知らぬは本人ばかりなり
「そんなに作るんですか。」
香緒里ちゃんは自分が作り出した物の価値にまだ気づいていないようだ。
田奈先生も気づいたのだろう。
香緒里ちゃんに向かってゆっくりと教える。
「例えばこの部屋位の大きさのバネを作ってこの装置の巨大版を作ったとしよう。それでも装置を伸び縮みさせるのには大した電気はいならい。鉄の電気抵抗などしれたものだからな。電池1本もあれば数時間駆動させるのも難しくない。それは理解できるな。」
香緒里ちゃんは頷く。
「さて、その装置のバネの片方を固定して、もう片方をクランクに繋いで円運動を取り出す。電流のを断続的にうまく流してやれば円運動がつくれるよな。ついでだから適当に歯車を噛ませて回転数を調節して発電機につないでやろう。そうすればどうなるか、もう想像はつくな。」
香緒里ちゃんは少し考えて答える。
「……電池1個の電力と付近の魔力から、電池を遥かに上回る電気を発電出来ます。」
「その通り。魔法使いがいないと使えない筈の魔力が一般人でも利用できるようになるんだ。量産すれば産業革命級の衝撃を与える可能性がある。それだけの代物だという事は自覚しろ。」
やっと香緒里ちゃんにも状況が理解できたらしい。
「それってひょっとしたら、相当凄いことなんじゃ。」
田奈先生はにやりと笑う。
「そこの悪い先輩には感謝しとけ。常にしょうもない物を作っては教授会を笑わせている悪い学生だが見る目と工作能力は確かだ。ただそこの悪い先輩、この実証装置には少々言いたいことがある。分かるな。」
「内側のバネの更に内側にシリンダを入れてバネが曲がらないようにする。両方のバネを絶縁する。そんなところですか。」
田奈先生はフンと鼻息で笑う。
「どうせ出来たもの可能性に目がくらんで勢いだけで実証装置まで作ってしまったんだろう。違うか。」
「その通りです。」
「ただその可能性にすぐ気づいたセンスは褒めてやる。この件はまかせろ。あとパテントの名義は薊野でいいな。」
「お願いします。」
「長津田先輩は?」
俺と香緒里ちゃんが同時に別の返答をする。
田奈先生は笑って香緒里ちゃんに話しかける。
「確かに有用性を見つけたのは長津田だろうし、この実証装置を作ったのも長津田だろう。それにこの物質を生み出したのも長津田がきっかけかもしれん。
でもこの物質を魔法で作り出したのは薊野だし、今後作っていくのも薊野だ。だからパテントの名義は薊野名義だ。それにな。」
田奈先生は俺の方を見る。
「お前はこれを作ったのが薊野だと認めるんだろ。」
「当然です。」
先生は笑って頷く。
「こいつはこんな奴だ。物を作るという意識とそれに関する誇りが人一倍強い。だからこの物質のパテントをこいつにも渡す事は侮辱になる。だからここは薊野の単独名義にしておけ。どうしてもこいつに金を払いたいなら飯でもおごってやるかヒモにでもして飼ってやれ。どうせ制作環境さえあればこいつは文句は言わない。」
何か色々言われているが概ね当たっているので文句は言わない。
「わかりました。ではそれでお願いします。」
「任せろ!」
俺達はもう一度礼をして、そして研究室を去る。




