第30話 小話3の5 流石に教授はプロだった
運がいい事に田奈先生の在室札は表向きになっている。
俺は研究室のドアをノックした。
「すみません、魔法工学科の長津田と薊野です」
「空いてるぞ。」
入っていいという事なので、俺はまだ状況を完全に理解していない香緒里ちゃんを連れて入室する。
「どうした、また笑える物を作ったか。」
そういう教授席付近にも色々怪しげな機械や道具が色々置かれている。
田奈先生も主任教授職についてはいるが根本的にはもの作り屋だ。
いくつも魔道具等のパテントを自ら持っていて、不労所得だけでも生活できると豪語している。
その不労所得で色々工作機械等を買い込んでは奥様に怒られているらしいが。
「今回、後輩にとんでもない物を作らせてしまったので、ご報告にまいりました。」
「またお前が変な手伝いでもしたんじゃないのか。」
俺の色々問題はあるけれど完成度の高い品々を受け取って採点してきた先生だ。
その分俺に対して色々と余分な知見も持っている。
「今回はあくまで薊野さんの功績です。俺は魔法製品の依頼を薊野さんにして、受け取った物で実証装置を作っただけです。」
実証装置を先生の机の上に置き、コントローラーのコンセントを入れる。
「見ていただければ理解いただけるかと思います。」
俺はコントローラーを少しだけ動かす。
実証装置が3割位長さを増した。
「成程、ちょっと鑑定するぞ。」
田奈先生は目を細めて実証装置を見る。
「モーター類は勿論電磁石等は使っていない。電圧はミリボルト単位、電流もミリアンペア単位か。微弱電流は駆動力というより物性を変化させる為に使用しているな。内側のバネは絶縁されているから外側のバネを変化させている。変化させているのはヤング率とか弾性係数。違うか。」
さすが先生だ。
実証装置を1回動かしただけで見破った。
「駆動できる力は電力依存ではなくバネ依存。だから相当大きい力も微弱電流で制御可能。使った魔法も魔法付与による永続魔法だから魔法使いでなくても使用できる。おそらく全世界で使用可能。応用範囲はかなり広い。とんでもない物を持ち込んだな。」
先生は俺が持ち込んだものの意味を全て理解してくれたようだ。
「それで先生に折り入ってお願いが。」
「パテントの先行出願、品物見本と先行見本品の制作依頼、それに伴う義足の課題の提出遅延許可だろう。違うか。」
「話が早くて助かります。」
「一応お前の担当教官やっているんだ。それくらい察せなくてどうする。」
田奈先生はにやりと笑う。
「課題は夏休み直前まで遅延を認めてやろう。
先行見本品用のバネはこっちでメーカーに発注して、取り寄せたバネに魔法をかけてもらう形にする。先行見本品の物理特性等はセンターに依頼を出すからその分の手数料は引かれるが大したことはない。
先行見本品は1000個程作る。魔法をかける薊野は心の準備をしておけよ。
その後は予約注文による月あたり10個位限定で魔法をかけるバネの現物を送付してもらい、魔法をかけて返送。それなら学業の邪魔にならないし生活費以上は稼げるだろう。」
あっさりと田奈先生はこの件に対する対処をまとめる。
さすがプロだ。




