序章2 春の元気なご挨拶
「しかしどうしたの、こんなところに。」
この島で3件しかない喫茶店の1つに入って俺は尋ねる。
「私もここの高専に入学したんです。」
「でもここ田舎で何もないぜ。」
国立魔導補術高等専門学校。
魔法技術を扱う唯一の高等専門学校だが、存在する場所が悪い。
この高専のある魔法特区は無人だった小笠原の聟島を開発して作られた場所。
研究機関と教育機関の他にはほとんど何もない。
雑誌ですら2週間遅れの世界だ。
「普通の高校より面白そうだと思ったんです。お姉ちゃんもいますし。」
お姉ちゃんとは攻撃魔法科4年で学生会長をしている薊野由香里さんだ。
何を隠そう元、俺の憧れの人。
ここへ入学したのも半分は彼女と同じ学校へ行きたいという動機だ。
ただ高嶺の花過ぎて入学後ほとんど話が出来ていないけれど。
「なら由香里さんと同じ攻撃魔法科か。」
由香里さんは冷気系の攻撃魔法を使う。
その実力は学内でも随一とも言われていて、『氷の女王』なんて呼ばれていたりもする。
小さい頃はそれほど強力な魔法使いではもちろんなかった。
せいぜい暑い日に公園の山のトンネルで香緒里ちゃんと3人で入って由香里さんの冷気で3人涼んでお昼寝する程度だった。
香緒里ちゃんが魔法を使うのは知らないが、由香里さんの妹だから強力な魔法が使えても驚かない。
「ううん、私は魔法工学科です。修兄と同じです。」
俺はちょっと驚く。
この魔法高専でも魔法工学科は特殊な学科で、自分が魔法を使える必要はない。
魔法を応用した道具や機械を作ったり研究したりする学科だ。
「香緒里ちゃんは魔法を使えないの?」
「ちょっとは使えますよ。」
香緒里ちゃんはストローを出した後の紙袋に指を置いてちょっと目をつぶり、そして指を離す。
紙袋がふわっと空中へと飛んで天井へ。
「今のは。」
「紙袋にかかる重力が反対方向に作用するように書き換えました。この袋の重さの分上向きの力がかかるようにです。」
成程、面白い。
「物に対してちょっとだけ魔法効果を付加する。それが私の使える唯一の魔法です。だから攻撃魔法科は勿論他の魔法実践系学科は全部ダメ。魔法工学科しか受験資格がありませんでした。」
なるほどな、と思う。
攻撃魔法等と比べて派手さはない。
でも色々応用が利きそうで羨ましい魔法だ。
少なくとも俺の実用的過ぎで常識的過ぎる魔法よりも。
「今日午前中が入学式だったので行ってきたんです。終わってからすぐ修兄に会いにきました。由香里姉に場所を聞きました。本当は由香里姉も会いたがっていたのですが、学生会の仕事で来れないそうなのです。」
由香里さんから俺の話が出るとは思わなかった。
何せ向こうは学生会長で攻撃魔法科のエース。
こっちは魔法工学科の平凡な2年生だ。
「修兄の魔法は前と同じ、ものを作ったり直したりする魔法ですか。」
俺は頷く。
「ああ、基本的に全く進歩がない。動作原理や機構がわかっているものを作ったり修理したりする魔法だけ。魔法使いというよりは機械屋とか電気屋かな。」
そう、俺が使えるのはそんなつまらない魔法だけ。
俺一人では簡単な魔法道具さえ作れやしない。
「でも修兄の魔法は便利です。何でも直せるし何でも作れるです。」
確かに生活上は便利ではあるけれどな。
「という訳で今日から後輩です。どうぞよろしくお願いします。」
香緒里ちゃんは頭を下げる。
「ああ、こっちこそよろしくな。」
俺もそう言って頭を下げた。




