第13話 ついでにゲットだ我が工房
乗ってみるとちょっと意見が変わった。
なかなかこの車、良い感じだ。
とにかく中が広い。
一番後ろはベッドスペース。
荷物室にもなるし変形させて2段ベッドにもなる。
あとは簡単なキッチンと冷蔵庫。
そして運転席後ろは向かい合わせにも前向きにもなる4人分のソファー。
こっちもベッドに変形するようだ。
しかも内装が柔らかい木目でちょっと高級感もある。
ただ、何故か凄く重そうな鉄の角材が4本後ろの廊下スペースに置いてある。
これは何なのだろう。
意味がわからない。
それはともかく、俺は由香里姉が判子を押してサインした書類を事務所に持っていって、それからマイクロバスに乗って助手席に座る。
「それではドライブ、出発進行!」
そう言って由香里姉はマイクロバスを発進させる。
思ったより安全でこなれた運転。
港から学校までの道が比較的太い2車線だったこともあるが、由香里姉の運転に不安感は感じない。
というか免許取りたてにしては上手な運転だ。
乗り心地も結構いい。
あっさりと学校に到着。
駐車場に入れるかと思ったら、マイクロバスは駐車場を通り越して教室棟の外れまで走って行く。
停まったのは実務教室棟の先、倉庫のようなシャッターの前だ。
「ここは。」
「まだ乗っていて。」
由香里姉はポケットからリモコンのようなものを取り出しシヤッターに向ける。
シャッターがゆっくりと下から開いていく。
現れたのは第1工作室と雰囲気が似た工房然とした空間。
設備の状況から見て元は自動車の整備場所だったようだ。
バックで侵入して大きいマイクロバスをきれいにまっすぐ停め、サイドブレーキを引きエンジンを止めて由香里姉は俺に降りるように促した。
「ここは。」
俺は周りを見ながら尋ねる。
「学生会の工房よ。元は自動車整備場だったけれども使用していないので、先々代の会長が接収したの。」
「高津会長は長津田君と同じ魔法工学科だったしな。学生会の仕事が無いとよくここにこもって色々作ってたよ。」
「学生会幹部の遺産というところですね。有効に使えれば高津先輩もお喜びになるでしょう。」
よく見ると色々工具も揃っている。
車の整備もジャッキを使わずとも車の下を整備できるよう深くえぐられているし、ガレージジャッキ等も揃っている。
更に最近使った形跡こそ無いがマニシングセンター、ボール盤等の工作機械もちゃんとある。
安置されているパソコンがやや旧式だが問題点はそれくらいだ。
「さて、今日修を呼んだ理由は言っていなかったわね。」
由香里姉は俺を見る。
「1つはこの車の改造。この前香緒里の課題で空飛ぶスクーターを作ったでしょ。あれと同じ改造をこの車にして欲しいの。」
「え、この大きさの車をですか。」
かなり大事だ。
ただ、ここの設備があれば出来ない事はない。
「後ろに積んである鉄の角材は重り代わり。あれで1本300キロあるわ。あれと魔力リニアモーターあたりを組み合わせれば修の腕なら難しくはないでしょ。必要な材料はここに揃っているし、足りなければ用意するわ。あとこの車は私が必ず運転するから動力系は魔力使用前提で作っても大丈夫よ。」
その条件なら悪くない。
「あとは給水ポンプを2本と付属品ね。仕様図はもう作ってあるわ。香緒里の魔法を使えば仕様どおりに作るのは難しくない筈と思う。これも使用時には私が近辺にいるから魔法動力でいいわ。」
これも難しくはない。
構造のかなりの部分は既に頭の中で描ける程度の難易度だ。
「以上、夏休み前のできるだけ早い時期に完成させて。かかった費用は勿論報奨金分もちゃんと出すわ。ただ車の改造もポンプの件も今この車に乗っている人間以外には秘密にして欲しいの。だから工作も基本的にここでしてね。条件は以上かな。よろしくお願いね。」
そして由香里姐はリモコンと鍵2個を俺に渡す。
この工房の鍵と車の鍵とリモコンらしい。
「ここは好きに使ってね。ただ今いる5人以外は立入禁止よ。」
「わかりました。」
正直不安はある。
でも事実上俺専用の工房が出来た事に俺はちょっと浮かれていた。
だから背後で『7年ぶりの野望』なんて単語が聞こえたのを無視してしまった。
それが意味するのは何かをこの時考えるべきだったのかもしれないが、多分考えても無駄だったかもしれない。




