第11話 女王様の用件は?
「私を差し置いて何雑談しているの!」
何か由香里姉が壊れている。
この状態の由香里姉を見るのは何年ぶりだろうか。
「だって由香里姉、一般学生がここに気安く来るわけにも行かないじゃないですか。」
「やっとその名前で呼んでくれたね。」
由香里姉が微笑む。
あ、つい昔の癖で由香里姉と呼んでしまった。
まあ本人がそう呼ばれて嬉しそうだからそれでもいいが。
「まあ、積もる話もあるでしょう。お茶の用意をしますから、ちょっとそこへお掛けになってお待ち下さい。」
「あ、私も手伝うのです。」
月見野先輩と香緒里ちゃんが席を立って左奥の給湯室らしき方へ。
残ったのは由香里姉と鈴懸台先輩。
氷の女王と戦闘隊長。
攻撃魔法科4年生の2トップだ。
ちなみに月見野先輩は補助魔法科の4年生。
色々二つ名を持っているが、学生会会計としては『深淵の監査』と呼ばれる事が多い。
『お前の研究会が監査を見ている時、監査もお前達の行動を見ているのだ!』とその活動は畏怖を持って語られている。
まあその辺は置いておいて。
「それにしても由香里姉、今日は何で俺を呼んだんですか。」
「長津田君がいつまでたってもここに遊びに来ないで、あまつさえ妹とイチャイチャしているから姉さんの方が怒っちゃってね。」
「ミドリ!」
キン!と甲高い音がした。
鈴懸台先輩を見ると愛剣クラウ・ソラスを鞘に収めている。
よく見ると天井に氷片が刺さっている。
つまりは由香里姉が氷雪系魔法で攻撃して、それを鈴懸台先輩が刀で払ったと。
戦闘系でない俺が見ても理解できない速さでこれが行われた訳だ。
よく見ると天井の一部だけ傷だらけだ。
つまりはよくあることらしい。
怖い世界だ。
「まずは個人的な話からよ。」
由香里姉がポケットからパスケースを取り出す。
「春休みに島外で奮闘して、何とかこれを手に入れたの。」
出したのは、自動車免許証だ。
クソ真面目な顔をした由香里姉の写真と普通自動車一種のところに丸がついている。
「あ、運転免許取られたんですね。おめでとうございます。」
「結構大変だったわよ。時間がないから仮免も本試験も試験場一発試験で取ったの。」
それはなかなか凄いかもしれない。
「それでね。先日香緒里が動かなくてもいいから中古の大型スクーターが欲しいと言ってきて探した際にね、丁度安くていい車を見つけたので買っちゃった。」
成程、香緒里ちゃんが課題用に用意したスクーターは由香里姉が探してきたのか。
由香里姉は学生会長として色々交流があるから、そういった物を探すのも適役だろう。
「それで愛車の改装と整備が終わって、今日夕方の船で港に着く予定なの。」
どんな車を購入したのだろう。
由香里姉の事だからスポーツカーかな。
「今日の午後6時のフェリーで到着予定よ。だから時間になったら一緒に見に行って欲しいな。」
「そういう事なら喜んで。」
「なら決まりね。ここの全員で行くわ。他の皆にはもう話してあるの。」
という事は5人乗り出来る車だ、きっと。
なら普通のセダンかハッチバックかな。
案外ミニバンだったりして。




