第１０話 女王様の召喚状
それは、いつもと同じ放課後から始まった。
俺がいつもの第１工作室で小さい機械相手にはんだゴテを奮っていた。
今日のは電子工作だ。
改造母体は中国製安物デジタルアンプ。
安くてその割に音がいい。
でも安値を追求したためか部品面で惜しい箇所が結構ある。
例えばオペアンプのＩＣとかコンデンサとか、まあ色々。
そういう訳でちまちまいじいじと小さい基盤相手に格闘していたら、４限終了のチャイムが鳴った。
数分後いつものように前の扉が開き、香緒里ちゃんが入ってくる。
だがそこからがいつもと少し違った。
「長津田先輩、ちょっとお出かけ出来ませんか？」
何だろう。
「これ終わってからじゃ駄目か。」
「出来ればちょっと急ぎたいです。」
何だか想像がつかない。
こういうのは初めてだ。
しょうがない。
俺はやりかけのはんだ付けを一旦終了し、スイッチを切る。
香緒里ちゃんが俺を連れて行ったのは、本館３階階段脇にある学生会室だった。
ここでの採決により部活や研究会等の予算が決まる。
装備や備品や部品の購入が決まったりもする。
この学校の学生側官僚組織のトップなのだ。
でも香緒里ちゃんがわざわざここへ連れてくるとなると意味は異なる。
香緒里ちゃんと学生会の接点は多分１人だけ。
香緒里ちゃんは学生会室のドアをノックする。
「お姉、入るですよ。」
返事を聞かずにドアを開けて俺を引っ張り込む。
中で待っていたのは女の先輩３人と。
中央の席で俺がこの学校を受験した原因がこっちを睨んでいた。
「待っていたわよ。修。」
香緒里ちゃんの姉にして攻撃魔法科４年。
別名氷の女王こと、薊野由香里だ。
「ええと学生会長、何か御用でしょうか。」
「ふざけないでよ！」
寒波が飛んできた。
氷混じりでないので怪我はしない。
「この学校入ったって聞いて待っていたのに、来てくれたのはこの杖を作って調整してもらった時だけじゃない。せっかくいつでもお茶出来る程度の準備して待っていたのに。」
って、他に人がいる場所でそんなぶっちゃけを言って良いのだろうが。
「ん、あの長津田君が会長の幼馴染って聞いてな、いつここへ来るか楽しみにしていたんだ。でも結局自発的に来てくれないまま今日になった訳だ。」
「私達のことはお気にしなくても結構です。会長から色々お伺いしておりますので。」
この２人の女の先輩達も俺は知っている。
副会長の鈴懸台先輩と書記兼会計兼監査の月見野先輩。
どっちも一応俺のお客様だ。
昨年の夏休み前になるが、この３人が別々にだが俺に専用武器を発注してくれた。
３人共なかなかに難しい注文をしてくれたのだがお陰で魔法武器の制作の一通りのノウハウは身についた。
それぞれ杖、剣、仕込み入り杖と全く違う道具。
でもどれも未だ俺制作の学生用武器としてはトップクラスの出来だ。
まあ注文が明確で目指すところが分かりやすかったおかげが大きいが。
「去年作った武器の調子はどうですか。何ならメンテナンスしますけれど。」
「残念だが私のクラウ・ソラスは全くもって絶好調だな。」
「私のカドゥケウスもです。あれは良く出来た杖ですから。」
新章です。よろしくお願いします。
これで魔女４人まで登場です。
なお５人目は秋の章（４５話）にならないと出てきません。
また攻略可能な３人のルートへのフラグ（？）は、６０話以降で由香里姉ときっちり会話してからになります。
