第８話 飛んで来たのは先生だ
ある木曜日の放課後。
無事スクーター型の飛行道具を作り終えて提出も終わった俺と香緒里ちゃんは、いつもの第１工作室で杖作りをしていた。
厳密には注文品ではなく見本品を使って作る練習をしていたのだが。
それにしてもあの飛行機械、結果的にはかなり完成度の高いものが出来た。
低くて長くて大きいホンダの古い２５０のスクーターのフレームを補強。
浮上方法は自転車時代と同じだが鉄の太い棒を自動で出し入れすることによって体重３０キロから１２０キロまで自動で対応可能。
勿論駐車して浮き上がったりする事もない。
更に大きい筐体に窒素タンクを自転車時代の倍以上詰め込み大きくなったバッテリーで充填することにより加速も倍以上になった。
見かけもほぼスクーター時代のまま。
自転車改造時代の怪しげな雰囲気は何処にもない。
授業での発表もうまくいったそうだ。
何人かにすごく欲しそうな目で見られたらしいが。
それにしても何処であのスクーターを手に入れたのだろう。
この狭い島にあんな丁度いい物件がどこにあったのだろうか。
香緒里ちゃんはそれを教えてくれなかった。
さて、香緒里ちゃんはこの１週間でこの第１工作室に居着いてしまっている。
毎日自分でもスクーター改造作業に手を出している姿がこの部屋の面々に認められてしまったらしい。
今では既にオタサーの姫状態だ。
本人にその自覚があるかどうかは別として。
だからこの工作室で一番多い仕事である杖作りを今教えている。
本人は機械仕掛けの物を作るほうが面白いそうだが。
ドンドン。
前のドアがノックされる。
「はい。」
足取り軽く香緒里ちゃんがドアを開ける。
現れたのは魔法工学科の主任教授、田奈先生だ。
通称親父、まあ親父虫とか中年親父とか糞親父等と魔法工学科の学生は呼んでいる。
「おっと薊野がいたか。長津田は……いるな。ならちょうどいい。」
何だろう。
俺は少し身構える。
田奈先生はどしどしと部屋に入って俺の方に来る。
もともとこの部屋の管理者は田奈先生だから遠慮も何もない。
ここでもお馴染みの先生だ。
「長津田、お前また問題作を作ったな。」
何のことかはすぐわかる。
最近提出したのはあのスクーターしかない。
「あの飛行機械は薊野さんの作品です。俺は制作を手伝っただけで、使用した魔法も全部薊野さんの魔法です。課題どおりに仕上がっていると思いますが。」
「お前の前の作品よりは課題どおりだと認めるがな。」
ここで背後の連中から失笑がおこる。
あのヘリコプターの件は魔法工学科では有名だ。
「課題は概念設計までで良いと言った筈だ。実証モデルがあれば加点対象と言ったがな。」
「ですから、あれは薊野さんの作品で薊野さんの実証モデルです。」
「実証モデルとうそぶいて実用モデルを持ってきたのはこれで２件目だ。わずか２周間の期間じゃ普通はそこまで作れない。ましては１年生最初の実習課題だ。まあ１件目は微妙に課題から外れていたけどな。」
それでも最高点をくれたし買い上げまでしてくれたのだ。
そういう意味ではこの先生には恩を感じていないわけではない。
「さて本題だ。今回薊野が提出した空飛ぶ魔道具、さっきの教授会で審査した結果、追加購入が決定した。提出物を含めて全部で５台。提出物は８０万円。他４台は材料は全部こちらで用意するので制作費で１台５０万円。これで買い上げをしようと思うのだが長津田の意見を聞きたい。」
まだまだ１日２回更新です。
次話でこの章は終わりです。
次章からレギュラー登場人物が増えます。
