ありがとうを、君に
「馬鹿だな、お前・・・」
呆れたようなその声は、いつものからかうような声色じゃなく。
「分かってるよ」
そう答えて、私は笑みを浮かべ。
上手に笑えたかどうか分からない。
何かを言う前に、突然視界が大きな掌で遮られた。
それが誰の掌かなんて一目瞭然で。
別に泣くつもりなんか全くなかったけど。
大きな掌がとってもあたたかくて、心地よかったから。
「・・・やっぱ、キツイなぁ」
つい。
弱音を吐いてしまった。
後ろからまわされた腕の力に引き寄せられるまま、力の抜けた身体をそっと預ける。
「ちゃんと笑えてた?」
「あぁ?」
「不自然じゃなかったかな?」
「・・・・・・」
服を掴んだ指に思わず力が入る。
「分かってたことだから」
ただ、思ってたよりずっと苦しくて痛かっただけ。
あの人は絶対に私を選ばない。
私はただの幼なじみ。
そのポジションはこれから先もずっと変わらない。
自分の思いを告げれば何か変わっただろうか?
告げたことで何かが変わるとしたら。
幼馴染みという、無条件であの人の近くに居られるその立場が壊れるだろうということ。
「後悔なんかしてない」
そう。
後悔なんてない。
してはいけない。
だって、自分で決めたこと。
「・・・そうか」
一言。
そして、軽くポンポンと頭を撫でてくれる。
言葉少ななこの友人は、今日もただ傍にいてくれる。
その優しさがどうしようもなくあたたかくて、思わず目尻にじんわり浮かんでくる。
なんでそんなに優しいかなぁ。
目尻から盛り上がった涙が、つーっと頬を滑っていく。
悲しくて泣いてるんじゃないから。
この掌があったかくて、心地よかったからだから。
きっと、濡れた頬の感触で、彼は気づくだろう。
でも、きっと。
彼は何も言わない。
ただただ、そこに居てくれる。
黙して、ずっと、支えてくれる。
この涙が止まったら、ありがとうを言おう。
今の自分の、ありったけの感謝の気持ちを、彼に送ろう。
きっと。
きっと。
笑顔で言える。
だから。
もう少しだけ、待っていて下さい。
テーマは『失恋』。本当に短く、そして拙い文章でお恥ずかしい・・・。それでも一生懸命書きました。
登場人物の名前さえ出てこなかったのですが、最後まで読んでいただけましたら幸せです。
ありがとうございした。