強敵現る(3-3)
夜の司馬オフィス街。 その中でも一際目立つビル。 美嶋コーポレーション本社ビルの屋上に紅兎 光はいた。 強風に吹かれても、その風は彼の心を癒してくれる。 強くなければ、なにも手に入らない。 金も、権力も、そして、人の心も…。
――ああ、懐かしいな、飛燕。 また会えて…僕は、……僕は嬉しいよ。
目を瞑る。
浮んでくるのは飛燕の顔。 二年前に彼女は施設から出て行った。 僕をひとり残して、彼らは皆いなくなった。
「光、何をやっている。 武器は持ったか?」
「ああ。 これがなければ、戦いは始まらないだろ? NO.6」
腰のホルダーに銃をセットする。
黒く光る重たい鉄。 紛れもなくそれは本物。 背中には黒く大きなケースを背負っていた。 中に入っているものも銃。 それも黒くて重たい物だ。
「敵である13のNO'S、何処から潰すのだ? 光」
「決まっている! NO.11とそのマスターだ!!」
NO.6の問いに即座に答える。
「了解」
――あいつさえいなければ。 飛燕は僕のモノだ。 誰にも渡さない。
「行くぞ」
――そうさ。 あの日、二年前に失った全てのモノを取り戻す為に、僕は戦う。
「獲物は決して逃がさない。 狙ったものは、必ず撃ち抜く。 この銃に誓って」
そして、光はその場を後にした……。
………
……
…
「やるなら今夜です」
と、気合のこもった声とともにNO.11が部屋から出て行ってしまったのでそのまま巡回する事になった…少しは身の回りの心配をして欲しい。
今回の瑛は普段とは違う。 槍を持ってきているし、服の下には槍術部の時に身に付ける胸当て、手には籠手を装備してきたので、万が一の致命傷は避けられる…はずだ。 とは言ったが、主に打撃攻撃を防ぐためのものだ。 本物の武器にはなんら意味は無い。
「流石に人通りが少ないな」
こんなものを持っているだけに、他人に遇うのは流石に不味い。 知り合いでもまずい事は違いないが…。
「こんな時間に歩いていたら普通はそうよ。 大体、私たちあの学院から普通にでられないじゃないの。 なによ、あの塀の高さ常軌を逸しているわよ?」
「学院のほとんどの生徒は学院を知っているよ。正面口の警備室に書類を出す奴なんて真面目な奴だけだよ」
「なら…君は不真面目な奴なんだね」
「!!!」
突然、背後から声が聞こえた。 振り返ると、電柱の明かりに照らされた道路の真ん中には転校生――紅兎 光の姿があった。
「おまえ、――そんなところでなにやっているんだよ」
「光!?」
油断している瑛とは裏腹に警戒する飛燕。
「ふん、君もマスターならわかるだろう?」
そう言って、光は銃口を瑛へ向けた。
「光!ダメ!」
瑛の前に出て、飛燕は両手を広げる。
「無駄だよ、飛燕。 僕の作戦は完璧なのさ。 NO.6!!」
「キャっ!!」
光が何らかの合図をした直後、飛燕の後ろから爆発が起こり爆風で吹き飛ばされる。 吹き飛ばされ、転がり倒れ伏す瑛。 そのわき身体からはおびただしいほどの血が流れ出、内臓が飛び散り、道路を赤く染めていた。
「瑛!」
「マスター!!」
姿を現すNO.9とNO.11。
NO.11は残る飛燕を護るように立ふさがる。 その場に倒れる瑛を見下ろして、光は高らかに笑った。
「はははっ、所詮はその程度の男か、即死とは呆気なさ過ぎじゃないか!? アッハッハ!!」
光の視線はNO.11へと移り、再び声が発せられる。
「マスターもマスターならNO'SもNO'Sだな。 主人がやられるのを黙って見ていたか、守護者だと? 笑わせてくれる」
光は再びその銃口を上げる。
「勝手な事言ってんじゃねぇ!!」
口から少量の血を散らせながら、瑛は叫ぶ。
「馬鹿なッ!?」
突然声を上げた瑛に驚き、光はその銃で瑛を撃つ。
「泥棒は黙っていろ! それにその身体では、戦えないだろ?既にお前は負け犬なんだよ!」
再度銃を瑛に向けて放つ光。 銃弾がその瑛を貫くたびに、身体からは鮮血が飛び散る。
「貴様! マスターを愚弄し、その仕打ちはなんだ!」
NO.11は腰の剣を抜き放ち、光に討ってかかる。
「飛燕殿。 マスターをお願いします」
「わ、わかったわ」
頼まれたものの、飛燕はどうすればいいのかわからない。 流れ出る血を止める手段を、飛燕は持ち合わせてはいなかったのだ。
飛燕に瑛を預けNO.11が光に向けて走り出す瞬間、光は右手を上げ振り下ろす。 すると、どこからともなくNO.11の身体目掛けて何かが飛来する。 それは、最初に瑛の身体を吹き飛ばした物と同じ物だ。
「小細工を!」
盾で防いだ瞬間、それは爆ぜ、NO.11を吹き飛ばす。
「っ―――!!!」
空中で即座に受身を取り、体勢を立て直すNO.11。
「NO'Sの攻撃ですか?」
「そうだとわかったところで、お前ではこれは防げない。 それは自分が一番よく分かっているんじゃないのか? NO.11」
NO.11を挑発する光。
「そうですね、貴方のNO'Sの攻撃は………私が防げない程に強力な物ではありません」
再び迫るNO.6の攻撃。 だが、NO.11はその場を動こうとしない。
「NO.11! 危ない! 避けて!」
飛燕の叫ぶ声が聞こえる。 これ以上犠牲を出したくはないのだろう。
「大丈夫ですよ。 私は、NO.11。 守護者なのですから!」
NO.11の真紅の鎧が黄金の輝きに包まれる。 確かに、その飛来物は、NO.11に命中した。 だが、その寸前ーーー
「黄金守護甲冑! 真名開放『ゴルディオン・スティアム』!!」
眩い光が薄れ、NO.11が立っていたその場所には光り輝く黄金の鎧をその身に纏ったNO.11の姿だった。
「今の私には、どのような攻撃だろうと通用しない!!」
威圧するように一歩踏み出すNO.11
「ふん、それがNO.11の能力か………驚いたがそれでもまだ、僕の想定範囲内だよ」
光は瑛に銃の照準を合わせようと銃を構えようとするが。
「そうはいきませんよ」
NO.9はNO.8動きを封じた、あの鎖で光の腕を絡めとる。
「ならば…NO.6! アイツらを射抜け!」
光が叫ぶと、上空から激しい光の雨が降り注いだ。 更に、黒い影が飛び出して光を攫う。
土砂降りの雨の様に矢が降る。 NO.11は無事だろうが、飛燕とNO.9はそうは行かない。 この状況をどうにか乗り越えなくてはならない。 が、今その手段はない。
「きゃ!! って、え――。NO.11?」
どのような力が働いたのかはわからないが、見えざるドーム状の何かが攻撃を防いでいる事がわかる。
「動かないでください。 飛燕殿」
辛うじて、NO.11は守る事に成功したが、更なる攻撃を受けてはこの護りも耐えることは難しいだろう。
「ほぅ、面白いことをしてくれる。 ならばこれを防いでもらおう!」
光は自らの銃をNO.11へ向けると、引き金を引いた。
「そんなものは!」
光の放った銃弾を右腕のシールドで防ぐ。
「騎士たる者。 正々堂々と戦ってみせてはどうですか」
NO.6に問うNO.11だが、
「甘いな、私は騎士ではない――そもそも、私は弓兵、一兵卒でしかない」
「なんで…そんな奴がNO'Sに…」
あの状況からでは信じがたいが、起き上がる瑛。
「君にNO'Sの何がわかると? そもそも、君はまっとうな人間でも魔術使いでもないようだが? NO.11のマスター」
たしかに、何も知らずに、この戦いに巻き込まれた瑛は、この戦いのほんの初歩的な事しか教えてもらっていない。
「マスターを侮辱するな! 卑怯者!」
「青いな。 お前の知らないところでお前のために手を汚している者たちにも同じことが言えるか、NO.11よ」
光の口調が変わった。
「戦とは、白兵戦がすべてではない。 被害を最小限に抑え、より迅速に勝利を掴む、それが戦いであることを忘れるな。 誰もがお前のように強くはないのだ」
「確かにそうなのかもしれません。 私は、私について来てくれた者たちの…想いを背負って戦ってきたのです。 その気持ちがわからないわけではありません。 ですが……弱いなら、強くなる努力をするべきです。 最初から強いものなどいるわけもない!」
NO.11の言葉を聞くと、光は苦笑した。
「おいおい、勘弁してくれよ。 そもそも、強さとはお前の言う正面からの直接対決だけがすべてではないとさっきも言っただろう」
光が合図を送ると、NO.6は弓を構えた。
「それとも、自分の土俵でないと戦えない臆病者なのかな?」
NO.6の弓から無数の矢が放たれ、そのすべてがNO.11を目掛けて飛んでゆく。 だが、放たれた全ての弓はNO.11にとどく事はなかった。
その全ての矢は焔の壁に遮られた。
………
……
…
「あーあ、めんどうなことを…生きてるか?」
光とNO.11の間に割って入る真紅の焔。 目の前に現れた男によってNO.11は後方へ突き飛ばされた。 そして、NO.11が体制を立て直すと、その男は姿を現した。 どうやら、NO.11同様に騎士のようだが…。
「ああ、悪い悪い。 少し勢いつけすぎた。 久しいな! NO.11」
「誰ですか! 貴方は、私は貴方を知りません!」
目前に立っているのは彼女とはまったく別の印象の紅の騎士。 これほど軽装の騎士も珍しいだろう。 鎧の類は装備していない。
「NO.11本当に俺がわからないのか……ま、仕方がないのかな。 ――わかってはいたが…これでこの状況を大まかに把握できた。 俺はNO.3『紅蓮の貴公子』リオン・フォン・ラグナだ」
それが当たり前だと言わんばかりに自分の名を名乗る。
NO.4、フェイトもそうだったが彼らは何を考えているのだろう。NO.という通称を得ているのになぜ、名を名乗るのか。
「NO.3…だと? NO.11よ、人を卑怯者呼ばわりしているが、三対一は騎士道に反したりはしないのか?」
「誰も味方とは言っていないぜ? NO.6のマスター」
戦闘意欲をまったく見せないNO.3。
「面白い。 だったら、何をしにここへ来た」
NO.3はため息を吐く。
「さっさとここを離れた方がいい。 三組、共に忠告だ。 他の奴らが見ているぜ? ここでどっちが潰されるか…わかるよな? 賢明なマスターならわかるだろ?」
「へぇ、忠告感謝する。 燕条、今日は彼に敬意を表してこの辺で引こう。 次は生きて帰れるとは思わない方がいい」
そう言い残して、光とNO.6は夜の闇へ吸い込まれるように消えていった。
「待て!」
光を追おうとする瑛だが――
「やめろ! 今ここで俺が手を下してもいいんだぜ? NO.11のマスター」
NO.3の怒号が響く。 目を合わせるその目には恐ろしい殺気が篭っていた。
「おとなしくしていろよ、死にたくなかったらな」
静かになった瑛を見下ろすNO.3。
「それで、NO.11。 お前に聞いておくことがある。 目的は覚えているか? 俺たちNO'Sの、真の目的を」
「そんなものは決まっている。 我が手中に『天空杯』を掴むことだ」
そう言って手を握り締めるNO.11と、
「そうか…」
哀しげに視線を下ろし、後ろを振り向くNO.3リオン。
「ま、せいぜい生き残ってくれ。 そして思い出して欲しい。 俺たちNO'Sの真の目的を…」
再び、同じ言葉を言い残すと、NO.3は夜空へと消えていった。 真の目的、それがあるのだとしたら『天空杯』を掴む以外にそれがあるのだろうか…謎は増えるばかりである。
………
……
…
「はぁ」
くたびれてその場にへたり込む。
「それにしても…あいつ何が目的なんだよ」
光のあの目に宿す憎悪。 それを思い返して飛燕に問う瑛。
「確かに、彼の殺気は尋常ではありませんでした。 特に瑛に対する殺気は、精神にまで浸透してきそうな程のものです」
「多分だけど…」
飛燕が口を開き告げる。
「私が原因だと思う」
なぜ、飛燕はそんなことを言ったのだろう。
光の目的は飛燕で、それとどうして繋がるのか、瑛に対する異常なほどの殺人願望。 瑛が一体、光に何をしたというのか…それとも光の過去に、何かがあったのか…謎は深まるばかりである。
そして、今のところ判明しているNO.は、NO.4にNO.6にNO.9それとNO.3。
あいつもあいつだ。一体何をしにきたというのか…『戦闘を止めに来た』と、でも言うのだろうか。
この戦い、混乱してくる。
信用できるものは一体なんなのだろうか。 友情なのか…それとも、もっと別の何かなのか、それとも自分自身か…。 それを考えるだけでは、この戦いの目的『天空杯』へは辿りつけないのだろう。
………
……
…