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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
一章『龍の槍』
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天空杯争奪戦始動(2-3)

 NO'S NO.4『運命の殺戮者』、フェイト・ディスティはなにやら理由はわからないが自分の圧倒的有利な状況下で立ち去った。 今のうちに旧館の中に入らなければ後悔するだろう。 そう思い先に進んでみたものの、やはり薄気味悪い。 外観のオーラをそのままに不気味さは下がるどころかむしろ増している。 辿り付いた先、様子を伺うため後ろを振り向く。 飛燕は無言で、NO.9はそわそわしている…。


(逆だよな。普通)


 と、そう思ったものの、人はそれぞれ。 自分たちがどうこう言えるわけではない。 と、瑛はそんなことを考えていた。


 旧館の中はだだっ広く、特に何がいるでもないというそんな状況。 深夜の館でビクビクしていては男として情けない。


「まったく。 こんなところにいるNO'Sの気が知れません。 もっと明るいところにいるべきです」


「ネオン輝く街中とか?」


 とりあえずのっておく…。そわそわした他人の様は見ていられない。


「そこまで望みはしませんが…。 たとえばライトアップされた公園とか…」


 自然と口数が増えるNO.9、元々そこまでが雑談…つまりは無駄な事を言うのを嫌がる人のはずだが、暗いところが苦手なのか、こういう暗がりな場所が嫌なのか…それにしても意外だ。 かわいい所って誰にでもあるんだな、と。


「NO.9。 無駄口は終わりよ。 気配を薄めて、瑛も」


 大きな扉が見えだした時だった。飛燕は僕とNO.9に気配を薄くするように言った。


「何があるんだ? この先に」


「瑛は魔力探知できないのだったわね…この先にいるはずよ。 貴方の魂塊を盗んだ奴がね」


 あのNO'Sが、NO'8がいるんだろう…。 会いたくないが、会わなければとりもどせないと言う事はわかっていた。 そうして、瑛は扉を開け放った。


「ちょ、ちょっと瑛!? なにやっているのよ!」


 瑛の行動を止めようとしたが、もう遅かったようだ。今の瑛にそんな余裕は残されてはいない。


「止めないでくれ。 これは、僕の戦いだ」


 とは言った物の武器は持ってきていないから丸腰だ。 棒でも持ってくれば良かったと後悔している。

 瓦礫の山の上にそいつ(NO.8)は座っていた。その姿は漆黒の鎧を纏った騎士の様だ。その堂々たる振る舞いは何処か威厳なのか威圧なのか、自分が圧倒的上位の存在だと証明しているようであった。


「侵入者がいるようだったが…まさか貴様か…まだ生きていたとは俺の思惑が外れることもあるのか。 抜き取ってから気がついたが、見かけによる物ではないと思ってしまったくらいだ。 だからこその魔力量とも言えるのかな? あの美しさ…納得がいったぞ」


「意味がわからない事を言っていないで…さっさと返せ! NO.8!」


 いきなり笑いだすNO.8。 こいつの考え…まったくわからない。


「俺がNO'Sだと知っているか………だが、返す? 何を?」


――元は僕のだろうが!


「今、元々は自分のだという顔をしたな。 気に食わぬ!」


 そう言うや否や、NO.8は剣を抜き放ち、瑛に襲い掛かった。


「…………って、ちょ、ちょっと!!」


 丸腰。 かくなる上は武器の現地調達。 と甘い考えをしていたものの、回りにあるのは瓦礫の山、山、山。 走りにくい事この上ない。 走りながら武器を探すことよりも、逃げることでで精一杯だ。


「塵となるがいい!」


 NO.8の強烈な斬撃を無防備な態勢で受け、吹き飛ばされる。


「っつう」


 つい、反射的に声がでたものの痛みはみはない。 先ほどのNO.4との戦闘を思い出す。


――痛みがない!?


「…死んだか?」


 NO.8は吹き飛ばされて壁に激突した瑛を嘲るかのように見ていた。

――腕は動く、身体も、欠損箇所は何処にもない。全て打撲程度だ………これ…は…鉄パイプ?

 瓦礫の山の中、丸い鉄パイプを掴み、立ち上がる。


「ま、まだだ!」


「ほぅ…信じられん。 俺の攻撃を受けて立ち上がるとは」


 NO.8は意地の悪い笑みを浮かべると、再び口を開いた。


「それほどまでにこの魂塊を返して欲しいか? 貴様の強靭さには心を打たれた。 ここまで来られれば返してやろう」


「やられっぱなしって言うのはさ、僕としては嫌だからね…」


 独特な構え。 二年と短い歳月に編み出し必殺の構え。 本来は槍を用いるのだが今は緊急事態。 警戒するに越した事はないだろう。


「それでこそ俺が見込んだ男だ。 来い!」


 本来、この構えは相手の攻撃に対してのカウンターを想定した物。 攻めの型はまだ実践で使えるような物じゃない。 しかも命を賭けた戦いでなんて。 攻めは瑛の得意とするところではない。 でも、殺らなければこっちが殺られる。 必死な思い。 ただ、生きていたいと言う生命の…心の叫び。


「いやああああ!!」


 鉄パイプを拾い上げて構えると、瑛はNO.8へと突進した。 普通に考えれば死んでいてもおかしくないほどの攻撃を受けたはずなのに、かえって調子が良い気がする。 あと数メートル――というところまで来たとき、NO.8の口元が歪んだ。


「馬鹿が。 取って来い!」


 NO.8の手から拳大の宝石のようなものが飛び出した。 その宝石は瑛の頭上を飛び越えると、先ほど叩きつけられた場所へと飛んでゆく。


「ああ!くそ!間に合わない!」


 後方の瓦礫が崩れた。その場所から出てきたのは。 飛燕だった。


「間に合って!」


 こそこそと瓦礫の山の陰を移動していたのか、飛燕は魂塊を掴もうと手を伸ばし、瓦礫の山に飛び込んだ。 まさにダイビングキャッチ。

 その始終を見ていたNO.8は不敵な笑みを浮かべた。


「馬鹿が…それはただのガラス球よ。本物はここにある」


 NO.8の手中で、拳大の宝石が輝いていた。


「悪魔みたいな奴だ…」


「まったくよ」


「興が削がれた。 こんなものはこうしてくれる」


 NO.8は宝石を頭上へ放り投げた。


 死にたくない! 日常を取り戻すんだ…だから!

 瑛はNO.8が放り投げた魂塊を掴もうと跳ぶ。


「どこまでもおめでたい奴だ」


 NO.8は地面を蹴ると、悠々と宝石に追いつき、手で掴んだ。 そして重力の力を利用して瑛に蹴りを浴びせた。 瑛の身体が地面に激しく叩きつけられる。


「ったぁあ」


 肺の空気が抜ける。 斬りつけられた痛みや刺された痛みは感じないのに、体の内側には痛みが響く。 なんとも矛盾した身体だ。


「瑛!」


「うつけが。 本当に返すとでも思っていたのか」


「いいえ。 返してもらいます!」


 瓦礫を四方八方に弾き飛ばし、NO.9が魔術を放つ。


NO.8はそれを軽々とかわし、瓦礫の上に降り立った。


「気をつけるんだな、女。 誤ってコイツに当たるかもしれないぞ?」


「こんな最初からは使いたくはありませんでしたが…仕方がありませんね、せいぜい当たらないように避けるんですね」


 そう言うとローブから1本のナイフを取り出し、NO.8目掛けて投げる。 また取り出して投げる。 1本、2本と数がどんどん増えていく。


「投げているだけじゃないのか?」


 瑛はまったくわかっていない。 このナイフ、そんな程度の代物ではない。 NO.9の投げている短剣は彼女の………。


「くらいなさい、拡散する魔斬弾、真名解放『アヴィシテーター』!!」


 標的と定めた物に命中するまで方向を変えて襲いかかり、が命中した場合、その者から魔力を吸出し、その魔力は『アヴィシテーター』の持ち主に送られる。


「ふん、その程度で俺を倒せると思ったか。 愚かな………」


 NO.8は細剣を目にも留まらぬ速度で降るって短剣を弾き落としてゆく弾き落としながらも、徐々にNO.9との距離を詰めてゆく。


「かかりましたね」


「なんだと!」


 不敵に笑うNO.9。 そして、NO.8の足元からは無数の鎖が現れ、その足を封じる。


「くっくっく。 小癪な」


 弾き落とされた短剣は、NO.8目掛け飛来する。


「面白い。 今回はこれくらいにしておいてやろう、小僧、受け取るがよい。 座興としては申し分なかったぞ」


 そういうや、NO.8は魂塊を瑛に投げてよこした。 次の瞬間、NO.8の身体から禍々しいオーラが立ち昇る。


「さらばだ!」


 視界が白く輝いて激しい爆風が巻き起こった。


「いなくなったのか?」


「その方がいいでしょう。 やっと落ち着いたわ」


 と、その場に座り込む飛燕。


「ですが、明らかに手加減されていました」


 NO.8から返された魂塊を手に、どうやって元に戻すのか考える。


「魂塊ですね…貸して下さい、瑛」


 NO.9に魂塊を手渡す。


「一体、どうするんだ?」


「簡単ですよ」


 魂塊を軽く握り、NO.9は瑛の鳩尾付近に狙いを定め、瑛の身体に勢いよく魂塊を叩きつける。


「ごふっ」


 血が吹き出るかと思うほどの勢いだった。 でも、身体に何かが戻ってきた。 そんな感じがする。

 完全に身体に広がっていく魂塊の感覚。


「あ、あーーなんか戻ったみたい…だよ?」


 目の前に光の渦が現れ、地面に線を描いていく。 それは、飛燕が描いた召喚陣に限りなく近いものだった。


「瑛。 貴方…まさか天才!?」


「ぼ、ぼ、僕は何もしていないぞ!」


 ついついテンパってしまった。 それよりも、今はこれから現れるであろう11番目のNO'Sが気になる。

「わかっているわよ。 それより…」


 飛燕が指差した土煙の向こうに、人影が見える。 土煙は徐々に薄くなり、影の正体は………。

………

……


「ここは…」


 彼女と目が合う。


「君は?」


 綺麗な、アイスブルーの瞳が瑛を見つめる。


「私はNO'S、NO.11。『聖痕の守護者』召喚に応じ、参上いたしました」


 透き通った。よく通る声。


 目の前に現われたのは、またしても少女だった。


 飛燕とは違う種類の強さを秘めた感じがした。 その身体を覆うのは真紅の鎧。 見惚れるほど美しい造形の双剣とその鞘、両腕に固定されたミドルシールド。整った顔つき。金のセミロングヘアー…。 彼女はまさに、そう。 その存在そのものが芸術のようだった。


「我が主は何処にいるか?」


「あ、ああ」


 これならこの戦い、僕は死なないだろう。


「ああ。それは僕だ」


 だって、こんなにも力強い魔力を、力を感じるんだ。彼女と一緒なら、


「僕が――君のマスターだ」


 死ぬことはおろか、負けることもないだろう。だって彼女は、戦神の様にも、女神のようにも見えたのだから


 彼女が顔を上げた瞬間に瑛と目が遇った瞬間に。


「それで、マスターそちらの二人は? 何者ですか…?」


 黒いローブを被っている方。 つまりはNO.9を睨み。


「NO'Sッ!」


 と同時にその身体とは不釣合いな大きな剣を構える真紅の守護者。


「貴方は何をしているのですかマスター!」


 NO.9と飛燕。 両方に襲いかかれるように構えるNO.11。


 ――って。


「待ってくれ」


「何を待つ必要があると言うのですか、マスター」


 飛燕はNO.11と戦う気はない。 ないのに何故?


「私たちは貴女たちと戦う気なんてないのよ? NO.11」


「それは私が判断する事です」

 ――なんて…


「敵であるあなたに何を言われようとも」

 ――なんて…


「私がその言葉に耳を傾ける事はありえません」

 ――なんて、物分かりが悪い奴なんだ!!!


 瑛は、憤りを押さえつける事ができなかった。


「だから! 彼女たちは僕の協力者、仲間なんだよ!」


 夜道で突然襲いかかった他人を助けるような奴だけれど。


「残念だがこの戦い、僕は他のNO'Sと戦う」


「それは当然でしょう」


 コイツは相当の頑固者だ。


「ならわかるだろ? 僕だけじゃ勝てないんだ!」


「何を言いますか、貴方は一人ではない。私というNO'Sがいるのですよ?それにです、私一人いれば他の全てのNO'Sを倒すことが可能です。 ですが、一応マスターの意見を聞いておきましょう。 それは何故ですか? NO.9を引き入れる利益を教えてください」


「確実に勝つためだ。 そこで、NO.9は活躍する。 絶対だ」


 説明になっていないのはわかっている。 でも、僕じゃ説明できない。


「魔術使い、風情に何ができると言うのですか!」


「戦場を征するのは何か知っているわよね? 騎士様」


「それは当然、強い力です。 力なくして戦場を征する事は絶対にない」


 どうやら力こそ全てと思っていらっしゃる。


「違いますわ騎士様。 戦場を有利にするのは実際は力なのかもしれませんですが、もっと根元があるでしょう。」


「???」


 まったくわからないようだ。 よほど強かったのだろう。 でもこの戦い、万が一と言うことも考えられる。 力のないものは頭を使って戦い、強者を蹴落とす。そういった例は歴史の教科書にも載っているし、前例など数えられない。


「戦場を有利にするのは戦場を知る事。 敵兵を知る情報の力。 私、NO.9のそういった調査、感知能力が役には立ちませんと?」


「そうは言っていない。 確かに私には有能な知恵者がいた。 だからこそ無敗を誇っていた。 NO.9、貴女が…彼の代わりしてくれると言うのですか?」


 やっと話が通じたらしい。 多少の食い違いは仕方ないとしてだが…。


「だから始めからそう言っていたではありませんか騎士様」


 一礼するNO.9。 礼には礼を、NO.11も一礼する。 戦力が増えた事は申し分ない。 だが…


「これからどうするんだ?」


 もっともな疑問だ。 今夜だけでも二度の戦闘。


 NO.4、NO.8どちらのNO'Sも明らかに手を抜いていた…その2人のNO'Sを相手に手も足もでなかったのだ。 もっと経験と鍛錬の不足を感じる瑛。


「今日のところは解散しましょう、瑛」


「それもそうだ」


 これでやっと、死ぬことはない。 これで多少なりとも瑛は前に進んだ。 明日を掴んだ。 明日を得た代わりの代償は、この先を生き抜くための試練の旅路だ。 この戦い、死んだものは敗者で、生き残ったものが勝者だ。 そして、現時点での敗者はいない。 戦いは始まり、役者はそろい始めていた。

………

……

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