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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
5章『ゼロス・パラディランス』
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聖獣騎士(13―2)

 一触即発の危機をギリギリ耐えたが礼司と凛也は食事がのどを通らなかった。


「なに、食べないの?二人とも、貰っちゃうよ?」  


 礼司の目の前に盛られた山盛りの肉を雛がかっさらう。凛也の肉は久遠がかっさらった。


「あ、久遠、それ僕のだよ」


「お前は礼司の分とったからいいだろ、これは俺の」


「「お前らなぁ」」


 礼司と凛也はまったく同じ事を言って、顔を見合わせたが、その時、先ほどの事を思い出して、二人はウォーグの方を向くと、再び悠はウォーグに何かを言っているようだった事に気が付き、礼司と凛也は立ち上がる。


「あ?どうした、肉はかえさねぇぞ」


「そんなことはどうでもいい、世界の危機だ」


 少し離れたウォーグと悠の下へと向かう。すでに何か言い争い、というか、悠が一方的に何かを言っている様だ。


「………………だから、何度も言っているだろ!俺と戦え」


 さっきの森での一件でまったく懲りていないのだろうか、悠はそう詰め寄っていて、ウォーグはすごく困っている様だ。


「だから言っているだろ?勝負にもならない。お前は凍りついて砕け散る。そんな死に方、嫌だろ?美人なんだから、もっと自分を大切にしろよ」


「ん、な…お前、俺が美人だとッ!?」


「口を開かなければ完璧だよ、あんた」


 ハハハと豪快に笑うウォーグだが、真面目な顔になる。


「そんなに死にたいのか?」


「………」


 ウォーグに睨まれる悠。さすがに悠は怯んでいる様に見える。そこに、礼司と凛也が止めに入る。


「またかよ、御影。お前いい加減にしろよ」


「お前らには関係ないだろ!」


「俺たちには関係ないが、アリーシアに、この世に存在する全ての世界に関係ある。お前の行動はそれだけの事ってことだ。自分本位の行動は辞めろ。皆に迷惑だ」


 凛也は悠にきつめに注意するが。


「じゃあ、お前が戦ってくれるのか?俺と」


「いいだろう」


 凛也は受けて立つと言うが、


「おい、辞めろ。仲間内で戦ってどうする!」


 礼司がそれを止める。


「なんだよ、ビビってんのか、お前」


「そういうのを辞めろって凛也も言ってるだろ!少しは人の話を聞けよッ!」


 悠の肩に手を置くが、即座に払いのけられる。


「もういい!」


 そう叫ぶと、悠は森に向かって走って行ってしまった。


「すぐに追え!手遅れになるぞ!この森は群れない生き物に残酷な死を与える!」


 そうの言葉にとっさに森に走って行こうとした礼司を凛也が止めた。


「何するんだ凛也、あいつも仲間だろ!?」


「あんな奴、仲間でいいのかよ、礼司」


 凛也は真顔だが、


「あんな奴でも、仲間だろ!久遠、澄也、一緒に来てくれ!」


 悠を追って、礼司達は森に入って行った。

………

……


 白い森の中に入る礼司達。日が暮れてきたからか、森は先ほどとはどこか違う。先ほどまでは穏やかな雰囲気であったが、今は侵入者に警戒しているような、何か視線の様なものを感じる。


「おい、礼司なんかスゲー不気味なんだけど、お前なんとも無いのかよ」


「いや、不気味だけどビビるなよ。御影を見つけてもそんな様子だったら馬鹿にされるぞ、久遠」


「そんなこと言われてもなぁ、澄也お前はなにか感じるか?」


 澄也に話をふる久遠だが、澄也からの返事はなかった。目を瞑って、何やら探っている様だ。


「燕条さん程ではないが、探ってみよう」


 十文字槍を構え、澄也はその場で一周まわる。


「なるほど、あっちだ」


 澄也は槍の穂先で行先を示す。


「行くぞ、久遠、礼司」


 澄也が先頭で案内しながら森を突き進むが、あたりに靄がかかり始める。


「くっそ、視界が…」


「お前ら逸れるなよ、牙刻を俺たちの周りを旋回させる」


 付かず離れずの距離をとる三人の周囲を牙刻を旋回させることで離ればなれになることを避ける。


「これなら先に進める。礼司、頼りになるな」


 靄が濃くなりすぎて、近くにいる筈の澄也、久遠を認識できない。が、澄也の声は聞こえた。


「もう周りが見えないぞ礼司、澄也。御影の姿を探せもしないけど、お前には見えているのか、澄也」  


 久遠の疑問はもっともだ。


「アイツが早すぎるのか、俺たちが少しセーブしているからか?」


「おい、結構本気で走っているぞ」


「じゃあ、あいつが早すぎるんだな」


 と落ち着いた感想を言う澄也だが、


「そんな場合じゃねぇだろ!」


 と、久遠の鋭いツッコミが入る。


「それもそうだ。礼司、お前単独なら追いつくのではないか?」


「ウォーグの話だと、単独は危険とのことだ。だが、このままだとなにも事が進まなそうだ。牙刻は置いて行く、お前らは後から付いてきてくれ」


 礼司は走る速度を上げ、一気に先に行ってしまった。


「あいつ…」


「早すぎじゃね?」

………

……




 苛立ちが勝ちすぎて走ってきてしまった。


 追われている気がして、まだ走るのを止められないが


「アイツら、俺がただの戦闘狂だと思っていやがる。まぁ、そう見えても仕方ないんだろうけど、俺は…」  


 強い者と戦うことでその強さを引き出すことができる悠はより強い者との戦いを願っていた。


「まぁ、意味不明だよな…ッくっそ、失敗した」


 頭を抱えるが、悠はその走る足を止めない。どうせこの靄で前などまともに見えない。そういえば、森に入ったはずなのに、木にぶつかったり、足に当たる草の感触はない。


「なんだ?俺は確か、森に入ったはず…」


「御影!!!」


 礼司が悠を呼ぶ声が聞こえた。


「げ、よりにもよって、あいつかよ」


 悪態をつくが、丁度いいのも事実だ。


「まぁ、勢いで走ってきてしまったのは事実だし、謝って、もどるか」


 悠は足を止めた。


「何処だ!御影!」


「れッ」


―――俺、あいつの事呼んだことなかったな、なんて呼べばいいんだ?他の奴らと同じで礼司でいいのか?いや、でも、あいつの姓がわからん。


 突然そんな悩みをしだす悠。記憶をたどる。資料に目を通していたから、絶対に一回は見ている。はずだがまったく思い出せない。仕方なく、声は出すことにした。


「おい!俺はこっちだ!」


 声を上げると、すぐに、礼司が悠のところに駆けつける。


「お前なぁ、戻るぞ。御影」


「ああ、わかったよ………」


 何やら違和感を感じる。礼司、ああ、と何やら察する。


「海藤 礼司だ好きに呼べよ」


「ああ。悪かったよ。海藤悪いけど、もう少し付き合えよ。何かいる………」


 確かに、合流はしたが、この森の恐ろしさが垣間見えた。靄が一瞬ではれ、それは目の前に現れた。それは白い巨大な虎であった。


「おいおい、マジかよ。あれは…逃げれる………訳ないよな」


 諦めたその時。


―――汝の話を聴かせろ。


 頭の中に直接声が響いた。

………

……


 目の前に現れた白く巨大な身体を持つ、虎。そのものは、礼司の頭に直接語りかけてきた。


「これは…念話か?」


 精霊や思念体が意思伝達の手段として使用することがあるとなんかの本で見た覚えがあった。


「念話?俺には何も聞こえなかったぞ」


―――そこの女子には向けていなかったが、後々煩そうだから汝にも聞こえるようにしておく。


 精霊?にすらこの対応をさせる悠は凄いと礼司は感心する。


「お前すごいな(いろんな意味で)」


「なんだよ、急に褒めるな」


 褒めてないと叫びそうになったが、話がそれるからそれは辞めた。


「…で、あなたは、何ものなんだ?虎…ではないんだろ?」


―――我が名はスヴェイア。汝らの世界でいうと、白虎。であろうか。そなたの記憶を垣間見たがこの地に何をしに来た?


「この世界に協力を求めに来た………はずだ」


―――はず、か。お前は本当にそう思うか?


「わからない。でも、違和感の様なものは感じている。矛盾、と言った方がいいのかもしれない」


―――矛盾、か。それは概ね正しい。他の時間軸の汝らはこの世界に武力をもって侵攻した。これはかえられない事実として存在している。


「おいお前、何を言って…俺たちはまだこの世界に来たばかりだぞ?」


 そう、たしかに、悠の言うとおり、


「それは俺たちに関係のない世界の話じゃないのか?俺たちはこの世界でしか生きていない。別の世界の自分の事なんてわかるはずないだろ?」


 礼司達はスヴェイアの見た出来事に心当たりなどない。


―――我が言いたいことは、汝らによってこの世界が破壊されるような事が無い様に立ち回ってほしいと言うことだ。


「わかった。俺たちはそんなことは決してしない。約束する、誓うよ」


―――その誓い、忘れるなよ、海藤 礼司。その誓い破られし時、汝らの前に再び現れよう。


 そう言い残し、スヴェイアと名乗った白い虎は姿を消したのだった。



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