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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
4章『傷をその心に』
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始まりの試練(12―4)

「白哉、ホントにいいのか? 俺からも雫に言ってやれるぜ?」


 と白哉の隣に座る宗。その外見は四年前とほとんど変わっていない。


「お前は変わらないな、宗」


「白哉、毎回毎回俺と会う度におっさんみたいに言うなよ。俺だけじゃないだろ? 飛燕だって瑛だって、あの頃から変わっていないNO'Sの皆もな」


 そう、NO'Sと特殊な形で接触した飛燕と宗は四年前から肉体の成長の変化が見られていない。


「でも、白哉は男前よ、光もね、宗は…」


「っておい、俺はどうなんだよ!」


 飛燕の言葉がそんなに引っ掛かったのか、宗がものすごく食いつく。


「安心するべきかどうか、私にはわからないけど宗はあのときのままで、よかったんじゃない?」


「………そ、そうか?」


 自分で聞いておいてこの男は恥ずかしがっている。


「受け取り方は自由よ。ところで白哉、私が試験した娘は受かった?」


「ああ。能力の方もまったく問題がなかったからな、俺も雫に推薦した」


「そう。ありがと、白哉」


 素直に礼を言う飛燕。雫と飛燕の最大の違いは感情の出し方だ。雫は喜怒哀楽でいう後半の二つの感情を表に出しやすく、飛燕は前半の二つの感情を表に出しやすいということだろう。


「どういたしまして。で、リュードは? 一体どこに行ったんだ?」


「雫が無茶な事を言ったから、リュードはシセを探しに行ったわ」


 飛燕は仕方がないけどね、と付け加える。確かに雫の言うとおりに戦力を補充することができれば今のこの状態を打開できるだろう。だが、ここで誰か一人でもランクSが削られてしまったらこの世界を守ることは夢のまた夢になってしまう…。


「それで、メンツは誰なんだよ」


「俺、宗、飛燕に…光、リュード、シセ、アーヴェル、リオン、エイリーク、ヘルシンの10人にスラスト、キット」


「へ?………おいおい、スラストとキットだぁ!?」  


 すっとんきょんな声を上げる宗。


「スラストとキットは…実力は認めるけど、実戦経験なんてほとんどないでしょ?」


「あいつらはまだいい。 問題は、今年の新人全員つれて行くって雫の奴が言っている。俺も止めたんだが…ダメだった」


「あいつ、まさか自棄か?」


 そう言う宗は笑っているが、実際笑えることではない。


「雫にしては焦りすぎているのは確かだ。誰の目から見ても明白だがな」


 目の前の壁にもたれかかっていた人物が話しに入ってくる。その人物が誰なのかというと………、


「暁…さん。まさか、貴方が絡んでいるわけではないですよね?」


 この男は日向 暁。雫の兄、元々いた世界では光や流希と同じく協会という組織にいたが、今ではアリーシアで実戦担当教官として、ここで働いている。


「まさか…、あれは雫の独断にヘルシンが加担しただけのことだ。俺は一切知らない。さっきまでは…な」


「それで、暁は雫を手伝うの?この戦いを…得るものがほとんどない戦いよ?」


 そう暁に問う飛燕。飛燕とてわかっている。彼女がここにいて、なおかつ雫が新人を連れて行くといっているんだ。暁も当然わかっているはずだ。


「わかってる。本当に何かあるんだろう。例えそれがくだらない理由だとしても、俺はアイツを助けてやる。たった一人の家族だからな」


 さ、行こうかと白哉達についていく暁。

………

……

「おい、本当に久遠と音羽をおいていって良かったのか? 礼司」


「あれは仕方がないだろ。事実として、俺たちには何もできなかったんだ待つしかない」


 礼司は淡々と予め伝えられていた集合場所へと向かう。白哉の言うとおりにしなくても、特に問題はなかったようだ。


「そうだけど、何かできたかもしれないじゃないか、礼司は無理だと決め付けているよ」


「その意見に、僕も賛成だ。海藤 礼司、何かできるかもしれないと考えるのと、誰かを助けられるかもしれない。と、言うのは………同義なのではないか?」


 確かに、澄也の言う通りだ。


「だが!医者でもなければあいつを別の方法で治療できるわけでもないだろ!」


「相変わらず固い考え方だなぁ、なぁ、礼司」


「スラスト!」


 礼司にしては嬉しそうな声をあげている。始めて見る礼司の表情に、凛也を始めとする皆が驚いている。


「そちらさんは誰だ?」


 凛也が礼司に問う。


「俺の兄貴みたいな人だ。この人のおかげで、俺はここでの生活に不自由しなかったんだ。で、スラストはどうしてここに?」


「お前も知っている通り、俺は去年ここに入った。 つまり、お前たちの先輩だ。さ、ついて来てくれ。 あ、そうそう。 後の2人は心配いらないからな、ちゃんと見つけてあるから。 多分今頃キットが説明してる頃だろう」


「っな!? あの女もここにいるのか!?」


 驚いた風な声をあげる礼司。


「あの女呼ばわりとは、キットもずいぶんと礼司に嫌われたもんだな、まぁ………仕方がないな」


 なにか一人で考え、終らせてしまった。一体何を言おうとしていたのだろうか、わからない。


「………ん? いいから、さ、着いて来いよ。礼司」


「あ、ああ」

………

……


 礼司達が着いていった先、試験に合格した礼司達は、実力を試させることなく、このような事になろうとは知らずに、スラストに連れられ作戦室に集合した。


「ようこそ、アリーシアへ。早速用件を言うから、聞いて」


「………」


 有無を言わさず目の前の女は礼司達に命令する。 とてもよく通る声だ。


「ここへ来てもらったのは他でもなく、貴方たちにも来てもらう為よ」


「どこへですか?」


と、その女の話に割り込んだのは澄也だった。


「聖獣騎士領、『ゼロス・パラディランス』。 そこへ行って、判明しているだけで8人の聖獣騎士を仲間に迎える」


 澄也の質問に光が応える。


「聖獣騎士? それは…なんだ?」


「我々アリーシアと同じく、奔走する者たちだよ」  


 凛也の質問に白哉が応える。


「おい、なんで同業者に喧嘩ふっかけるんだ?」


「それはね、私たちだけではもう間に合わないと思ったからよ。貴方たちも知っているでしょ? 神無威が私たち人間に提示した世界の期限。私たちの時間の呼び方だと、あと一年。三年間で色々と世界を守るために奔走してきたけど…光、後の説明お願い」  


 雫がそこまで言うと、光に用件の説明を託し部屋を出て行った。


「わかったよ。 ………っと、圧倒的に戦力が足りない。ってのはわかってもらえるだろ? 僕達が敵に回したのはこの世を支配する神だ」


「神…!?」


 何かの間違いだと、礼司は思ったのだが…。


「悪いが、事実だ、そして……もう一つ。凶報がある」


「凶報?」


「伝えるべきか怪しいけどね、僕らがこれから向かう先の彼ら聖獣騎士は全員EXランク相当の能力。 ………正直、僕たちよりも強い」


 目をそらす光。その態度が告げている。自分たちすら生き残れる確証はないということを…そんな戦いに、今まさに送り込まれようとしている。


「ま、まさか………雫さんがそんなところに私たちを連れて行くわけがないじゃないですか。ね、そうでしょう? 白哉さん」


 四年前から雫と一緒だった彩がそう言うが…。


「残念だが…事実だ。今のところ招集されたメンバーは俺に宗、飛燕、光、リュード、リオン、シセ、ヘルシン、エイリーク。これだけそろってもまだ戦力に欠ける」


「それで………」


礼司が白哉に問う。


「それで、俺たちは何をすればいいんだ?」


 正直なところ、いく行かないに関わらず何か役割があるはずだ。目的が決まっているのなら、直のこと。 知っておかねばならないことがある。


「『ゼロス・パラディランス』そこへ行って、聖獣騎士との戦闘………それが、俺たちに与えられた任務だ」


「………」

「………」


空気が重くなる。知っていなかった方がよかったのかそれとも、知らない方がよかったのかはわからない。 でも、一つだけ言える事がある。


「この中の誰が死んでも不思議ではない。自分は大丈夫だとか言う甘ったれた考えがあるのなら………今、ここで捨てろ!!!」


 白哉の声が響く。もちろんのこと、白哉もわかっている。こんな事を言わなくても、今自分が置かれた状況がどのようなものなのかを、彼らもわかっている。だが、戦いが間近に迫っているということを知っているのは、彼らだけではなかった………。

………

……


 薄暗い部屋の中、机を囲むように数名が座っている。 名が机上に置かれている蝋燭の焔が揺らめく。 その焔に照らされた男が口を開いた。


「アリーシアの連中が、なにやら我々に探りを入れているようだ」


 部屋の中に若い男の声が響く。


「探っているって言うなら、勝手に探らせておけばいいだろ?何をお前はそんなに気にしているんだ?キアヌ」


 なにやら生意気そうな男がそう男に問う。


「違うわよ、ウォーグ。キアヌが気になっているのは向こうの布陣。そうでしょ?キアヌ」


「キエラ………そうだ。俺が気になっているのは向こうの陣営。アリーシア奪還時のメンバーが多数そろっている」


「所詮はランクSS。我々の敵ではない」


「アレクセイ、油断は禁物だ」


 厳つく筋肉質な男がそう言う。


「そんな事はない。我らは『聖獣騎士』。 本気を出せば神無威ですら敵では………」


「アレクセイ!! いい加減にしろ」


 机の一番端に座っている男が思いっきり机を叩く。


「俺たちが今しなければならないことは、この『ゼロス・パラディランス』の民を守らなければならないということだ。事実上、俺たちはEXランクだが………該当しているだけであって………」


「私たちがEXランクであるとは言いきれない。守りを固めようじゃないですか、アルスラン」


 キアヌが机の一番端にいる男、アルスランに進言する。


「エイジは、どう思っている?」


 蒼い髪の男アルスラン・ガルムが、仮面の男エイジ・ランバル・コーギスに問う。


「アルスラン悪いが、迎え撃たせてもらう。守る? まさか…我々が本当にやらねばならないこと、それは奴らを打ち滅ぼすことだ!!敵も本気で来る。生き残るために必死で我々を組み伏せようとするだろう。 敵が本気で来るというのに、我々が守りに徹すると? 馬鹿げた策だ! アルスラン、お前がキアヌの策をとるのなら、こちらにも考えがある」


「待った、内輪揉めはごめんだぜ。アルスラン、守ってばかりじゃ俺たちは本当にやられちまうかもしれないぜ?」


 エイジの意見も、ウォーグの意見も、どれも間違ってはいない。


「わかった。キアヌ、攻めることも守ることと同じだ。この『ゼロス・パラディランス』はいかなる外敵の侵入も許しはしない! いいな!!」


 アルスランの号令に残りの七人が立ち上がり、各々で別の方向へと進んでいった。戦いに向け、それぞれに考えがあるのだろう。

………

……

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