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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
4章『傷をその心に』
43/48

始まりの試練(12―3)

「どこでやるんだ? まさか、今ここでと言うわけではないだろ?」


「場所だと? そんな事、気にする必要はない。音羽!」


 久遠が音羽に何かを頼んだ。


「はいはい。わかってるって、夢中。行くよ…『鏡月-キョウゲツ-』」


 音羽が仕方なく取り出したそれは、なんとも周りを驚かせるものだった。「ッな…おまえ…それは…ぶ、武器なのか?」


 と、音羽に問う


「うん、僕の武器はこれだよ」


 と、音羽が取り戻したものとは、


「………それはないでしょ…だって、それはさ……鏡でしょ?」


 音羽に問う彩だが、武器の問題は形状ではなくその能力だ。


「そう思うなら、周りをよく見てみることだね」


「術具かこれは結界…か…」


 と、澄也はその鏡の役割とこの空間の周辺に結界が張られていることに気付く。実際のところ、これは結界ではない。


「違う。でも簡単には教えられない。それよりも、夢中、早くしないとこの異常に気づいて邪魔しに来る人がいるかもよ?」


「わかっている!俺は認めないぜ、お前みたいな奴が俺より強いなんて事をな!」


 久遠が自らの武器である剣を構える。だが、久遠の持つ剣は戦いに使うものではなく、祭事に使用する祭剣だった。


「そんなんで何ができるっていうんだ? 久遠、お前は世界を救うものとして相応しくはない! 牙刻! アイツを切り裂け!」


礼司は右腕を突き出し牙刻を五機撃ち出す。


「これしきの武装に………俺が負けるはずがない! 環時-タマキ-!」


久遠がその祭剣の名を唱えたその時、祭剣の刃先が伸びた。そしてその伸びたように見えた刃先の正体は、祭剣のはと思われた部分から光が吹き出るようにして剣を形作っている。祭剣を包むその光の色は青色だ。


「いくぞ海藤!」


 久遠が環時を振り上げ、その剣を振り下ろそうとすると、礼司と久遠の間に何者かが割って入った。


「やめろ。 お前たちは間違っている。 こんな方法で決しようとする人間が、世界を護るのに相応しいはずがない。 海藤 礼司、お前は自分本位に行動しすぎだ。 公私混同では、お前をこのアリーシアから排除しなくてはならない」


その人物は礼司が射出した牙刻を全て叩いて地面に突き刺し、その後に久遠の環時を自分の手で受けている。


「女…だよな、あいつ」


「そのようだな、城山 凛也。それにしても音羽、君の武器の能力が解かれているな」


「………そんなことはわかっているよ。それより、あの女、誰?」


 予想に反してこの場で一番頭にきているのが礼司でも久遠でもなく、音羽であることに凛也は驚いていた。


「お前…人の勝負邪魔しといていい度胸だな、名を名乗れ。女」


 久遠がその女に刃を向ける。どうやら礼司に興味がなくなったようだ。


「俺は御影 悠。お前たちと同じだ。わかったら剣を納めてくないか? 久遠 夢中」


「御影………悠? お前がか?」


 礼司は本当か?と視線で彩に聞く。彩の返答は首を縦に振るという物、つまりYESということだ。


「間違いなく本人ですよ。これで後2人です」


「そうか、じゃあここら辺にいる理由もないわけだ。他を探そう」


凛也の提案に賛成する。そして、凛也は彩に道案内を頼み先導して道を歩く。


「って…ちょっと待てよ! おまえら、俺の用がまだ済んじゃいない。 う…」


「夢中!」


急にその場に倒れる夢中。その夢中を庇おうと音羽が夢中を支える。


「おい、大丈夫かよ! おい! 久遠」


「え…な、なにが? 俺は…一体………」


と、さっきまでの言葉使い、もとい性格はどこに行ったのかと感じさせるような口調に変わった。どうやら、久遠 夢中は世間一般でいう二重人格という奴らしい。


「二重人格とはまた面倒な…これが久遠 夢中か。 これは面白い。なぁ、音羽」


「ック…浅井、少し黙っていてくれないかな…僕、怒るよ」


「わかった。 これでも多少は手当てできる。協力し…」


 澄也が久遠に触れようとした瞬間、澄也の手を音羽の手が思いっきり払った。


「やめてよね! 夢中は大丈夫だからそっとしておいてよ!」


 彼女の叫びが木霊した。残響は広がり、それはまとまりの悪いこの状況では、あまり聞きたくない叫び声だった…。

………

……


「とりあえず、久遠を医務室に運ぼう」


「僕が運ぶんだ………」


 音羽が久遠を抱えようとするが、体格に差があるせいか、持ち上げられずにいる。


「無理するな、音羽。礼司、手伝ってくれ」


 と、凛也が音羽の支えていない方を支える。


「ああ、変われ」


「勝手なこと言わないで、夢中は僕が………」


 それでも強情に一人で運ぼうとする音羽だが………。


「無理するなよ。俺たちはこれから一緒に戦っていく仲間だぞ?」


「仲間………でも」


 一瞬音羽は礼司の仲間という言葉に揺れたが、それでも音羽はかたくなに譲らない。


「意識はあるが…これでは不安だ。さっさと運ぶぞ」  


 と、音羽が支えていたところに礼司が割ってはいる。


「あ、ちょっと。 なにするんだ!」


「音羽…彼は、大丈夫だ」


「夢中…わかったよ」


 音羽は仕方がなく久遠を預ける。


「さぁ、行こう」


 凛也と礼司は久遠を医務室に運ぶために久遠を支える。礼司と凛也の体格は久遠とさほど変わらないせいか、難なく運ぶことができた。

………

……


 医務室を離れ、ここアリーシア作戦中枢部で行われる会議に出席するために、龍閃 白哉はアーヴェル・ケテル・マストリカと共に向かっていた。


「アーヴェル、凛也と礼司どちらが強いと思う?」


「それは城山 凛也だろう…俺は白哉に三発も当てられる人間を三人位しか知ないぜ?」


「まぁ…三発は当ててもらわないと困るのはこっちだったんだがな、力をセーブしていたんだぞ? アーヴェル」


 白哉は自分のネックレスに触れる。


「そうだな…だが礼司の実力を俺は見ていないから凛也の方が強いとも言い切れないのが事実だがな、開けるぞ」


アーヴェルが扉を開く。


「遅かったじゃないか、白哉」


「悪い、なかなかに大変だったものでね。光」


「僕のせいだって言うんならお門違いだね、悪いのはあいつさ」


 と自分を挑発した礼司が悪いのだと言い張る光だが…。


「はい、はい。責任を擦り付けない。光、いい加減に自分の責任くらい認めなさい」


「…わかったよ。 僕が悪かった、雫」


 なぜか雫に誤る光。


「まぁ、俺は別にいいんだが、今ここに残っているのはこれだけか?」


「そうだ。 不満か? それとも不安か?」


 ヘルシンが白哉に問う。この場にいるのは5人。世界一つ守るというのに数の上では少ないのではないだろうか。


「両方だ。俺に、光、雫にヘルシン、アーヴェル。で、もうすぐで帰ってくる飛燕と宗にリュードか…」


「大丈夫だ。ここはそう簡単には抜かれはしない。第一、向こうはここの位置を掴めていないだろうが、白哉」


 光がホルダーから銃を抜き、壁に向かって構える。


「なぁ、光。 そういえばだが…シセはどこへ行った?」


「さぁな。シセも最近誰かさんみたいに行動がつかめなくなってきた。 」


 光は愚痴を零す。その誰かさんというのは当然、 「瑛の奴は今どこをうろうろしているのやら…。まったく、自分の身体を考えろって言ってやりたいもんだよ」


「言ったとしても、聞かないことはわかっているでしょ?」


 それはそうだと頷く光と、白哉。


「で…話っていうのはなんだ?」


「そうそう。ヘルシン、お願い」


「ようやく本題か、待ちくたびれたぞ」


 ヘルシンはそう言って手元のパネルを操作する。するとモニターに数名の顔が映し出される。


「彼らは…おい、雫!」


「『聖獣騎士』よ。知っているでしょ? 単刀直入に言うと、私は彼らを仲間にしたいと思っているの。上層部は反対しているみたいだけどね」


と、とんでもないことを簡単に言ってしまう雫。


「おいおい」


「ちょっと待て! 雫! お前…あちらとは互いに不干渉との取り決めがあるはずだろう?」


 反応する白哉と光を横目に、


「不満?それとも不安?」


 先程のヘルシンの問と同じものを向ける雫だが、そんな簡単な疑問で済まされるものではない。


「不満とか不安とか言う問題じゃない!!『聖獣騎士』だぁ!?俺たちアリーシアの次に神無威に対抗できる奴らじゃないか。何故、彼らと戦う必要がある!」


と、反論する白哉。それも当然、アリーシアは積極的に世界を守るために他世界に干渉している。現に、今ここにいるメンバーは少数。まともに戦える人間は光、白哉、ヘルシン、アーヴェルの四名のみだ。


「雫、お前は何を考えている?」


「別に…彼らの力を借りたいと思っただけよ。安心して、リオンとエイリークも呼んであるわ。戦力は十分なはずよ」


さ、行きましょう。と言う雫だが…。


「俺は反対だ。奴らはどうするつもりだ」


「連れて行けばいいでしょ。実戦で試すのが一番。 そうでしょ?」


 と無茶苦茶なことを言う。


「光、お前も何か言ったらどうなんだ」


「僕はむしろその話を聞いて安心したよ。雫はここで上層部に釘を撃っておきたいわけだ。だが、そのためには確実に奴らをこっちの物にする必要がある。 問題は…『聖獣騎士』のリーダー。アルスラン・ガルム」


 光は画面の左上に映っている男を睨みつける。 「奴だけじゃない。 『聖獣騎士』は全員俺たちと同等以上の力を有しているという話だ。 シセや瑛を抜きで勝てるような相手じゃない。わかっているだろ!?」


 聖獣騎士は全員がランクEX相当の実力を有していると言われている。その情報が事実だとしたら、誰が勝てるだろう…。


「俺は…お前らだけで行かせるわけには行かない。瑛と宗に約束している。雫、わかっているんだろうな、無理だとわかったら…」


「わかっているわ、無理はしない。それは約束する」


 それならいいと言い、白哉は出て行った。


「そこまで無理して仲間にする価値はあるのは僕もわかるが…危なくなったら僕は逃げる」


「それは無理ね、光。貴方自分の性格わかって言っているの?」


「わかっているさ、でも。本気の奴相手に無理だと思ったら僕でも逃げるよ…流石にね、それじゃ僕も…ね。本気で行くんだったら、呼んでくれ」


 と、光も出て行く。


「ヘルシン、わかっているんでしょうね…」


「わかっている。俺はお前に協力してやる。サミュエルとの事もあるからな、俺の力…使うがいい」  


 と、何か意味深な事を言うヘルシンを横目に雫は不敵に笑う。


「覚えてなさいよ、あの爺供に一泡拭かせてやるんだから」


 雫は机を思いっきり叩く。雫には、何か強い思いがあるようだ。それは、彼女にしかわからない。想いは心に秘められる。心の扉。開ける人間は偉大で、とても大きな人間だ。

………

……


「で、お前。大丈夫か?」


「とても心配している人間の言葉には聞こえないんだが…?」


 と、久遠をベッドに寝かせ、その様子を窺っている。


「俺は…音羽 俺はどうしてこんなところに?」


「あの、その…これは…」


 音羽は何か後ろめたいことがあるかのように顔を伏せる。


「おい…音羽、何かあるのか?」


「う…ちょっと来てくれるかな、凛也もあと…彩」  


 音羽に呼ばれ、礼司と凛也、それに彩が医務室の外に連れ出される。


「それで、アイツは何なんだ?」


「浅井が言っていたように、夢中は二重人格だよ。それも、今は大人しいけど、だけど…あっちの夢中に戻ったら…僕は…」


「困ると言うことだよね? 二重人格ということは、何か人格が変わる鍵があるんでしょ?」


と聞く彩だが…。


「あっちの夢中は出てきたいときに出てくるから…そういうものはないんだよ…」


「ご、ごめんなさい」


 悲しげに語る音羽。


何か不味い事を言ったと思った彩が頭を下げる。


「おい……音羽」


 ベッドから起き上がりこちらに向かってくる夢中。


「俺をここに運んだのは誰だ?」


周りを睨みながら問う。


「誰だ!」


「ぼ…」

「俺だ」


 音羽が名乗り出ようとしたとき、礼司が名乗りを上げた。


「おい、なぜお前が俺を助ける。その必要はないだろ」


 この口調、明らかに人格が変わっている。


「誰かが困っていた。それだけだ。凛也、後2人探しに行くぞ」


「おい、待ちやがれ!」


礼司に掴みかかる久遠。


「俺は急いでいる。話しなら後で聞いてやる…どけよ」


「そうはいかねぇ…俺は助けを求めた覚えはない!!」


「夢中!」


 音羽が鏡月を久遠に向ける。すると、久遠の動きが止まる。


「さ、早く行って。みんな…僕は後で夢中を連れて行く。だから、早く!」


 音羽の言葉を聞いたその場の人間は立ち去る。


「音羽…私も…」


「おい、行くぞ」


 彩が残ろうとするが礼司がそれを邪魔する。


「何をするんですか!」


「あいつの行為を邪魔してやるな」


 その言葉を彩は渋々受け入れ、その場を去る。


「夢中、僕はこんなこと…本当は…したくないし戦ってほしくないんだ…だから、ごめん」


 止まっている夢中の額にキスをする。だが、その頬には涙の雫がつたっていた。

………

……

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