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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
4章『傷をその心に』
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始まりの試練(12―1)

 燃え盛る紅い大地。


 血に染まる紅い大地。


 最早その光景は地獄絵図のそれに近く、この世のものとは到底思えなかった。


 数時間前まで平穏だった街が、一瞬にして焼き尽され、生き残った人間も、逃すことなく斬り払われた。


 そんな中、生き残ることができた。


 ある種の軌跡が起こったのかも知れない。


 突然やって来たわけのわからない空想を、事実と受け入れる以外方法はなかった。


背けられない事実を突きつけられた。


 悔しかった。


 何もできない自分が…


 あの燃え盛る街が脳裏に焼きつく…。


 嫌だった。


 何もできなくて、何もかもを失った自分が…。


 当てもなく彷徨った。


 正確に言うなら当てが全てなくなった。生き残る、生きるという希望を抱いた…。


 憎かった。


 何んの力もない自分自身が…。


 そして、憎悪と後悔を糧に、俺はここにたどり着いた。ここには、俺と似たような境遇の人間が集まっているらしい。人間世界最後の安住の地、アリーシア。俺がこの地に来てから、すでに三年という月日が経とうとしていた………。


 俺の名は海藤礼司(カイドウレイジ)。第三の世界と呼ばれていた世界の生き残りだ。俺の世界は突然、日常という平和を奪われたのだ。俺があの世界で見た最後のビジョンは燃え盛る焔と、蒼い風だった。

………

……


「………」


 目が覚める。どうやら昔の記憶を夢に見たようだ。この夢を見ることは少なくない。どうやって生き残ったのかもわからないが、生き残ったからには何か意味があるはずだ。それを探すためにも俺は今も生きているに違いないんだ。そして今、俺はその意味を捜し求めるために、ここ、アリーシアに存在する組織の一員になる試験を受けようとしている。その試験は………今日だ。


「これで、これでやっと…俺は皆の仇をとることができる」


 仕度を整えて部屋を出る。一日限りのホテルの部屋に愛着を持つはずもなく、礼司はその場を後にする。


 礼司がこのアリーシアに来た当時はほとんど何もなかったこの世界も、今では数百もの世界の住人が住んでいる。だが、それはこの三年間で滅んだ世界と犠牲になった多くの命を考えさせる。


 ―――だから俺は何があってもこの試験を突破するんだ。


 自己の決意を固め、礼司は試験会場へと向かう。 試験の会場はアリーシアの中枢である世界保護機関アリーシア(この世界の名もここから来ている)は 人間の中でも特に秀でた才能の持ち主が集まっている。 礼司はその中のある人物からとどいた推薦状を持っている。 差出人の名前には記憶がなかった。  などと考えていると、試験会場の前まで到着していた。


「君も、この試験を受けるの?」


 声をかけられる。どうやら向こうも目的が同じらしい。だが、礼司はライバルと話すような人間ではない。


「………」


「………ふぅ、無愛想ね、何か言ってもいいんじゃない?」


「俺には用がない」


―――うるさい奴は嫌いだ。馴れ合いもしたくない。


 その人物を横目で見る。どうやら女のようだ。チラッと見て横を通り過ぎる。こんな奴にも信念があるのだろうか、やり遂げなければならない使命が…。  だが、所詮は他人のこと。礼司はすぐに考えるのをやめた。


「待ちなさいよ、人が話しかけているって言うのに、一体なんなのよ!」


「黙れ、俺に関わるな!」


「………?」


 礼司が突然大声をだしたため、女はきょとんとしている。そして、その女をその場に残し、礼司は会場へと急いだ。


―――俺は、孤独でいなければならないんだ。


 受付で手続きを終え、指示された場所へ向かう。


「さて、これから俺の戦いが始まるのか…頼むぜ、『牙刻-ガコク-』」


 唯一頼れる相棒の柄を握り締める。そうして、試験開始時間までゆっくりと精神を落ち着ける事にした。

………

……


「これより、試験の説明を致しますので、受付ホールに集合してください」


 放送の指示に従い、ホールへと移動する。 ホールに到着すると、礼司が最後だったようだ。


「君が、海藤 礼司か?」


「そうです」


「よし、これで全員そろったな。では、これより試験を開始する。ルールはいたってシンプル、これから君達が順番にクジを引いていく。そこに書かれている名前の人物が、君達それぞれの試験官ということになる。その試験官に自分の実力を見せつけ、認めさせることが合格の方法だ。ま、曖昧な基準になることを承知の上でこの方法を取っているが、ここを受けようと思った君達だ、各自全力を尽くすように。開始は10分後。準備するなら今のうちにな」  


 準備しろといわれて、今からできることはほとんどない。準備なら、この三年間を全力で駆け抜けた日々が告げている。クジを引きに向かい、元いた場所に戻り、クジを開く。


「俺の対戦相手は…」


 礼司はクジの紙を開く。そこには、


「紅兎 光?誰だ」


一体誰のことだろうか、礼司にはわかるはずもない。第一、名前だけ書いてあったところでわかるはずもない。


「どんな奴が敵だろうと関係ないか、勝てばいいんだ…」


「勝つ…か、ずいぶん敵との勝負に勝つということを軽視しているんだな」


 後ろから声をかけられる。 小言だったが聞こえたのかもしれない。


「あんたは誰だ?」


「僕が、紅兎 光だ。ついて来い、海藤 礼司」


 甘く見てはいけないようだ。あの紅兎という男、どこから現れたかわからない。後ろから声をかけられるまで全く気配を感じることができなかった。今まで戦った誰よりもレベルが高いということだけは確かだ。


「………」


 無言でついて行く。どうやら使われていない区域に行くようだ。暗い廊下を歩く。


「もう少しで到着するが質問はあるか?」


「………」


 光の言葉に耳を貸さずに歩き続ける。


「おい、聞いているのか? 質問は…」


「聞くことはない。これから戦う相手と悠長に話すことはない。さっさと案内しろよ」


 振り返る光を睨みつけ、光の前に出る。


「………そうか、いいだろう。多少手加減しろと言われていたが、僕は少々頭に血が上りやすくてね、……決めたよ。僕は君をぶち抜く。気がついていないようだが、お前がさっきからいる場所は死地だ。気を抜きすぎだぞお前」


 光はホルダーから銃を抜き、構える。それを合図としていたのか、廊下と思っていたが照明から白い光が放たれ、あたりが照らされる。


「銃か、張り合いがない武器で助かったぜ。あんた、試験官なのに受験者の経歴も見てないのか?」


「何を言うかと思えば…、自分を過信しすぎだよ、君は…見たところ、アタッカーだな」


「………」


 何故わかったのだろうか…まだ構えてすらいない。 一体何が光を悟らせたのだろうか。


「そうか、残念だが………俺はディフェンダーだ!」


「わざわざ敵に教えるとはね、案外抜けているところもあるようだ。僕だけ知っているというのはいささか気分が悪い。僕はオールラウンダーだ!」


 銃の引き金に指を乗せて引き金を引く。銃弾を撃ちだす反動で光の肘が軽く曲がる。打ち出された弾丸は二発。このくらいなら…と、


「弾くまでもない!」


 余裕を見せ、礼司は銃弾を走力のみで躱わす。


「これは………速い!」


 礼司の速度に度肝を抜かれた光は多少驚いて見せたものの、その動きを冷静に分析しようとするが、その軌道を探ることができずに礼司の位置をつかめずにいる。


「ぶち抜くんじゃなかったのか? 教官!」


 自分の脚と体力に相当の自信がある礼司だったが…。


「僕を…僕を本気で怒らせたか、お前………死ぬ覚悟はできているんだろうな!?」


 光は銃をホルダーに戻すと、どこからか取り出した弓をその手に持っていた。


「おいおい、そんな旧暦時代の武器を…」


 光は矢を持たずに空に向かって弦を引き、何かを撃ちだす動作をした。


「流星雨-ミーティア・レイン-! 降り注げ!」  


 光がそう叫ぶと、空から無数の光り輝く何かが迫ってくる。


「あれは…」


「避けるか弾くかしないのか?まだ始まったばかり、お前が最初の脱落者になるのか?大口をたたいた割りに、たいしたことない」


 光は言いたいだけ言った後、姿を消した。


「さぁ、この試練を突破してみろ!」


 声だけが響き渡る。この空間に何か仕掛けがあったのだろうか、あったとしても全く不思議ではない。 ここは最初から光のテリトリーなのだから…。


―――なら、今の俺にできることは!!


 全力で流星雨を避ける普通では考えられない速さで礼司は駆ける。


「なにぃ!? 避けていると言うのか!」


「このくらい、避けれなくてやっていけるかよ!!」  


 礼司はこう言うが、このどうしようもない圧迫感を切り抜けられる精神の持ち主はそうはいない。


「そうか、なら…これならどうだ!」


「くぅ………」


 突如背後から現れた光は礼司の脇腹に蹴りを叩き込む。


「畜生、オールラウンダーってのは本当に何でもありだな!」


「ックックック…」


 光の笑い声に腹を立たせるも、湧き上がる戦いの衝動が礼司を奮い立たせる。


「戦いの中だ、どんな理不尽だろうが通用する。だからこそ! 俺はその逆境を越えなくてはならない! 俺自身のために!」


「証明してみろ! それができるのならな!」


「やってやるさ! 行くぞ、これが俺の戦いだ! 行け! 『牙刻-ガコク-』!」


 礼司の突き出した右腕から六つの刃物が飛び出し、光に向かって飛び出す。


「なんだこれは!?」


 巧みなコンビネーションで迫る牙刻を打ち払う光だが、牙刻は打ち払われるたび、撥ね返るように戻り再び光を襲う。


「打ち返していても、意味がないって事か…。僕を殺す気か、それにしてもいい武器だ。だが…これならどうだい?」


 光が弓を構える。今回も矢を持っていない。弓を最大まで引き、何かを撃ち出した。弓の風切音が聞こえる少し前にそれは見えた。閃光が駆け抜ける。 見えた瞬間に避けようとしたが、少し間に合わずに熱さを感じた。


「なんだよ………これは!?」


 光は牙刻の本体を貫く。本体を壊された途端、牙刻はコントロールを失い。光から逸れて壁や地面に突き刺さる。


「武器を壊してもそれほどダメージを負っていない………。概念武装を持っているとは…まだ若いって言うのに特殊スキル持ちか。だが、当たりが悪かったな。他の奴ならどうにかなったかもしれないが、僕にそれは通じない」


 光は再び銃を握ると、礼司に向かって走る。


「接近戦か!?」


まさかそんなはずはないと頭で考えても、身体がいう事を聞かない。この場から逃げないと危険だと訴えかけてくる。


「さて………君はここで終わりだ。僕が終わらせる」


「………」


 絶体絶命だ。まだ礼司は光に攻撃を当ててすらいない。このままでは本当に終わってしまう。


「嫌だ!!」


 また、あの燃え盛る大地を走り回るのか…何もない世界で恐怖に怯えるのか?


「俺は…俺はまだ! 抗わなければならないんだ! 俺自身のために!」


 礼司は自らの武器を具現化する。


「また面白い物を見せてくれるな、白い虎か…。それとよく似た力を持った奴を知っているよ。これは十分合格点だが………まだやり足りないって感じだね、いいだろう。最後まで付き合ってやるよ」


 光は礼司に向かってヴェルノローラノス、その弓を構える。


「ちょっと待て! アンタそれは本気か!?さっきの広範囲弓とは比較にならないくらいの威力だろそれ!」


「嘘偽りがあって、武器を向けるほど馬鹿じゃないさ。 さっきからの償いをしろ、ふざけた態度を帳消しにしてやる」


 光は溜まったストレスを解消させろと言わんばかりに礼司に狙いを定める。


「さて、そろそろ逝っておこうか、海藤 礼司。合格にはしておいてやる」


「なにぃ!?」


「だから、合格にしてやるって言ってるんだ。素直に受け取れ、この分からずやが!」


 光はまたもや何かを撃ち放つ動作をしたが、それは礼司に当たることなく弾けてとんだ。


「………」


 光の攻撃は礼司に当たりはしなかったが、礼司はその衝撃で気を失った。


「光、一体何をしようとしたんですか?」


「………リュード、すまない。つい、頭に血が上って………だが、こいつも悪い。僕が自ら教えてやったって言うのにさ」


 光は右手をひらひら動かしている。「それで、彼の実力は? 資料と大体一致していましたか?」


「それが全然。あんな物は全く役に立たないくらい、こいつは凄い潜在能力を秘めているよ。燕条並みのね」


 真面目な表情に切り替えて光はそう告げる。


「今回は期待できそうですね、前回の採用組に入れても問題はないと思いますか? 光」


「そうだな、問題はない。 と言っても、ガーディッシュとハミルトンだからな…どうなるかわからないぞ、リュード」


「それなら、それでいいじゃないですか。面白くなりますよ、今年の新人は全員ね」


 リュードは意味ありげな言葉を言い、礼司の顔を眺める。 その表情は、希望を得たと言わんばかりに暖かいものに見えた。

………

……

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