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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
三章『異次元世界』
36/48

アリーシア奪還戦(11―5)

 闇の中…落ちていく、落ちていく…。


 まだ底は見えない。


 どこかへ向かっている感じがする。


 深い場所から、さらに深い場所へ…。


 何処へ向かっているのか…自分は何者なのか…。


 自分とはなんだ? 何か大切なものを忘れている気がする。


 でも、何を忘れているのかわからない。


「お前は、こんなところで終わってしまっていいのか?」


 その男の前に現れたのはシセだ。


「誰だ」


「こうして会うのは初めてか…僕はシセ」


 ここは一体何処で、シセは何をしに来たのだろう。


「ここは何処だ…お前は何をしに来たんだ」


「僕はここが何処だか知らない。 自分で考えてみれば分かるんじゃないか?」


「…」


 知っているのに教えてくれない。 なら、言われた通りにしてみよう。 目を瞑る。 何も考えないで、回りを探る。


「そうか、ここは…僕の…僕の中だ」


ここは瑛の心の世界。心象世界というものだ。


「そうか、つまりは…初期段階は成功ということか、燕条 瑛」


「えんじょう…あきら?」


「何を言っている。 お前の名だろ? 燕条」


 僕の名前…は燕条 瑛だ。僕は…


「教えてくれ、僕はなんだ、僕は…僕は一体なんだ、僕は!?」


 自分の本当の名とは何なのだろうか、自分の事を人間ではないといい続けられた瑛にはそれが疑問として纏わりついている。


「それは、僕が教えられることじゃない」


 どうしてだ。何故だ。何故教えてくれない、シセは僕に何も教えない。


「どうしてだ…どうして教えてくれない」


「さっきも言ったように、僕はお前に教えられない。 お前は、自分の事を人に聞くのか? それでいいのか? 自分の道は自分で切り開く。それがお前の歩み方ではなかったのか?」


 確かに知っている。この男は、瑛の事を知っている。


「教えろよ。 シセ」


 天翔地裂爪牙を構える瑛。


「力ずくでも知りたいか、それでこそ燕条 瑛だな、わかった。相手になろう…だが、それでも僕から教えてやれることはない。それでもいいんだな?」


「それでもいい。 それでも何かに近づけると、僕は信じている。行くぞ、シセ!!」


 天翔地裂爪牙を構え、シセに向かう瑛。対するシセもスティウ・レイヴァノンを構え、迎え撃つ。


「ハアアアアァァァ!!!」


「ふッ!!」


 天翔地裂爪牙とスティウ・レイヴァノンがぶつかり合う。


 瑛とシセの力はほぼ互角。速さはややシセの方が速いようで、瑛が少し押されて見える。


「その武器の性能は、よく知っている。僕が遅れをとることはない」


「くそ…」


 天翔地裂爪牙はシセには通じない…。瑛の中に封印されていた彼は、瑛以上に瑛の身体について詳しい。その力の使い方も、戦い方も…。


「思い描いてみろ。更なるお前の力を、出なければ…僕の剣には勝てない」


「更なる力…」


 確かあの時は誰かが僕に教えてくれた。今は思い出せない。でも大事で、大切な人だとわかる。僕はそのとき、この力を手に入れたんだ。


「僕の力は…」


 誰かを護る為の力。


 一方的な暴力ではない。誰かを護るために、僕は力を望んだんだ。


「東より来るは蒼き龍、その身は幾千の時を駆け――」


 全てを最初の段階から。 全て一説ずつだったものを一つずつまとめる。


「その爪で幾重の人を殺し、その頭は幾人の人に知識を与え――」


 全身全霊全力全開。 今この瞬間に神経の全てを使う。この身体で休めていい場所などない。


「その名は永久に継がれる物語の如く、我は唯一の意志を貫かんが為、」


 新たに願うんだ。 護るんだ。僕は…もう絶対に迷わないって誓ったんだ。


「その龍に授かりし、わが槍の名は―――天翔地裂爪牙………―蒼龍―」


 新たな龍の槍の名、カルディア・ヒュドリアルボルグ。蒼龍の名を冠する聖獣の武具。


「これなら…いけるぞ、シセ!!」


「それでこそ、燕条 瑛だ。それがお前だ。諦めない。挫けても、何があっても立ち止まらない。そして前を見続ける。そんなお前なら、道を間違えたりはしない。なら食らってみるか、僕の本気を!」


 スティウ・レイヴァノンを構えるシセ。


「ああ。 こい!」


 それを迎え撃つ瑛…。 次の一撃で、全て決まる。 絶対に受けきる…受けきってみせる。


「いくぞ。スティウ・レイヴァノン、真名開放『聖天を射抜く彗星』」


「カルディア・ヒュドリアルボルグ、真名開放『天翔地裂爪牙・蒼龍』!!」


 駆け抜ける彗星の閃光と、聖獣が降臨したかのような神々しい光。ぶつかり合う衝撃は、完全な互角。どちらも圧さず圧されずの勝負。このままでは勝負はつかづに空間を軋ませるだけだ。


「よくやった。僕の負けだ。燕条 瑛、武器を下ろそう」


「不意打ちするなよ」


 不機嫌そうな顔をするシセ。その表情の作り方を以前どこかで見たことがある気がする。


「お前は、自分に対してでもそういう事を言うんだな。 ある意味、凄い奴だよ」


「自分? お前の何処が僕だ。似ても似つかないじゃないか」


「………」


 シセは少し呆れている。やっぱり、この表情の作り方はどこかで見たことがある。

………

……


「よかったですね、私たちまだ敵に会ってなくて」


 バラバラにされたメンバーは各々で行動していた。

「いいや、彩ちゃん。俺たちがまだ戦っていないってことは、瑛達が戦っている可能性があるってことだ。あまり喜べることじゃない」


「それはそうですが、正直、敵らしい敵に出会っていないのは幸いでしょう」


 リュード達の到着地点は宗たちが最初に到着した場所の付近だったため、ネイティアの作った人形を壊すのに時間がかかった以外では、戦闘らしい戦闘はしていない。


「アーヴェル。そこまで探る必要はない。このあたりは安全だ」


「だが、何があるかわからない」


 アーヴェルがあたりを見回し、ある部分で目を留めた。


「リュード、あれを見てくれ」


 アーヴェルは壁にこびり付いているその紅い染みを発見する。


「これは…まだ新しい血痕のようですね。 誰かが怪我をしている」


「探そう。 リュードどうする、バラバラになって探すか?」


「いいえ、このまま集団で探しましょう。そういう策かもしれません」


 リュードの至極真っ当な意見に全員賛同する。戦力を分けるのはそれだけで危険が増えるのだが、


「リュード、俺はその意見には従えない先行する。すまない」


 そう言って白哉は手首の宝石と首のネックレスを外した。


「白哉さん…わかりました。お任せします」


「白哉、俺は…」


白哉について行こうとするが、


「アーヴェルは、二人を護って後から来てくれないか?頼む…」  


 白哉は最後に一度だけ振り向くと、その通路の方向へ走っていってしまった。


「…白哉」


 アーヴェルにすまないと思いながらも、白哉は先を急いだ。魔力残留を感じる。この先で戦闘があった、今の白哉にならはっきりとわかる。


「この先に…宗が、待っていろ!」


 走る、長い通路を走り抜ける。何も考えずに、唯先にいるであろう宗の存在を信じて…。


「これは…」


 目の前に広がる光景に足を止める。通路を抜け、広がっていたその空間は、地は削られ、いまだ目の前に広がるのは氷河の壁…。


「宗…宗!!!」


 その氷河の前まで走った。中の様子はまるでわからない。氷の壁を殴りつける。とても硬く、そして冷たい。長時間この中にいたら、普通の人間だと凍死してしまうだろう…。


「宗、待ってろ。 今俺が…」


 閃覇を構える。い合い抜きの体勢…


「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 気合と共に閃覇を鞘から抜き取り、その速度を利用し氷河の壁を斬りつける。いあい抜きは通常の斬撃よりも高威力だといわれているが…。


「くそ…どうして…」


「そんなんじゃ、フェイトの氷は溶けないぜ。龍閃の兄ちゃん」


「そうそう、リオンの炎でもびくともしないんだ」


 そこにいたのは留香とリオンだった。


「NO'Sの本部はエイリークが…NO.12が制圧した」


「お前は…NO.03か」


「お、一瞬だったのに覚えていてくれたか、これはありがたい。フェイトもいけ好かないが、大事な仲間だ。どいてな、イルマリオン、真名開放『焦がす炎天の紅蓮』」


 リオンのハンマーが氷河に叩き付けられる。


「やはりこんなもんか………」


「何か手はないかい?」


「ないとは言わないが…わかった。考えている暇はない。リオン、離れていてくれ」


 白哉は目を瞑り、精神を集中する。「砕く、穿つ、斬る、裂く、刃をこの手に、覇王の刃を――閃覇、真名開放『閃く覇王の太刀』」


 閃覇はそのフォルムを変え、刀ではなく斬馬刀のように分厚い刀身に変化した。


「貫け、我が刃よ!」


 変化した閃覇を氷河に突きさす白哉。閃覇は先ほどとは違い、難なくその刃が突き刺さる。


「凄いものだね」


 感心する留香に答えながら、白哉はリオンに指示を出す。


「リオン、ここを思いっきり殴ってみろ」


「わかった。 まってろよ、宗…フェイト!!」


 リオンは再びイルマリオンで氷河を打ち付ける。


「砕けろおおぉぉ!!!」


 渾身の一撃をその鎚に込め、叩きつける。氷河はその一部分に巨大な穴を開けた。


「宗、何処だ。 いたら返事をしろ!!」


 その巨大な穴の中に入り、大声で宗の名を叫ぶ。


「宗!?」


 近くまで駆け寄る。


「俺は幻覚まで見るようになったのか?夢幻のおかげで俺にはその手のものは効かないはずなのに…」


「馬鹿野郎が心配ばかりかけやがって。今は喋るな、宗」


 抱え上げたその身体はぐったりとしていてとても重たい。


「たとえ幻覚でも…白哉…すまない、俺は…俺は…」


「わかっているから話すな。 リオン、NO.12のいる場所を教えてくれ。俺もそっちに向かうから、リオンはリュードを迎えに行ってやってくれ」


「わかった。 まかせろ」


 リオンは白哉が来た道に向かっていった。


「宗、運んでやるから暴れるなよ。NO.04、いるのなら手伝ってくれないか?」 「俺は俺で不味い状態だ。悪いが手は貸せない。少し同調しすぎた」


「そうか、ならでてくるなよ。邪魔だから」


 フェイトに邪魔だと言ってすたすたと宗を運ぶ白哉。


「邪魔………俺が……初めてだ………以外に傷つく……」  


 フェイトは意外にナイーブだった。


「NO.04、NO.12の場所はわかるか?」


「案内する。あっちだ」


 フェイトの指示に従い通路を進む事になった。これでアリーシアのコントロールを取り戻せる。これで、世界を護ったんだ、俺たちは………。

………

……

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