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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
三章『異次元世界』
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アリーシア奪還戦(11―3)

「これはこれは…あの状況からの奇跡的な逆転…敵ながらに見事です」


 セガリアを切り伏せたエイリークに賞賛を贈り、不敵に笑うネイティア。 その右手では紫色の水晶が禍々しく揺らめく邪悪な焔を映す。


「リオン、お前は留香と一緒に秋斗とエイリークを護ってやってくれ。そして、先に進んでいろ。 ここは俺とフェイトで抑える」


「だが!」


「大丈夫だから、な? 俺は負けたりはしない。 さぁ、行け!」


 宗をまじまじと見つめ、最後に頷きリオンは秋斗達の下へと駆けた。


「本気で私を抑えられると? これは…幾年ぶりに楽しい舞台になりそうです…。 感謝感激。 私は今、猛烈に感激しているよ。 今宵、君はこの楽しい武闘を盛り上げる最高のパートナーだと」


「抑えてみせるさ、お前はただのピエロだ。 道化は道化らしく、他人に踊らされて結果として果てる」


 宗はエストニクスを天に掲げる。すると周囲の空気が冷え始めた。元々肌寒い感じはしたがここまでではない。幾分か寒さが増したこの部屋は今からどうなるのだろうか、


「リオン! 二人を連れて早く行け! 早くだ!」


 リオンと留香はエイリークと秋斗をつれて次の部屋へと向かった。


「我が剣よ、主の命によりその力を示せ!」


 エストニクスによって集められた空気中の水分が部屋の中に氷のドームを作り上げる。


「こんな物で私を止められると?」


「ああ、とめられるさ。この氷壁は俺が死んだとしても、この場に残る。物理的な破壊はもちろん、魔術による破壊も難しい…。お前がどんなに上位のNO'Sだったとしても、抜け出すには時間がかかるだろう」  


 ネイティアは水晶に左手を乗せ、魔力を込める。 すると、水晶は形を変え、杖となった。


「それがお前の武器か…なら、行くぞ!」


 先攻をとったのは宗だった、だが…ネイティアは初撃を難なく防いだ。


「盾だと!? 馬鹿な!」


「それだけではない。 これはどうなるかな?」


 盾は瞬時に形を変え、宗に襲い掛かる。 が、宗はそれに対して瞬間時に反応し打ち払い距離をとる。


「…万能武装。 扱い手も悪くない…これはかなり長引く」


「凄腕の剣士ですね、君にも賞賛を贈ろう。これは久々に完全開放してもよさそうだ」


 そうネイティアが言うとその周囲にさらに六つの紫水晶が現れる。そして、それぞれの水晶は形を変えていく。そしてその形は、全て人の形をしていた…。そして、その中の一つに向かって話しかけるネイティア。


「愛しいアリエ…」


 水晶が変化した人形をいとおしむその姿は残酷な運命の存在を知らしめるかのようだ。


「アリエ、彼と踊ってくれないか? 私の変わりに」


「…」


 人形に語りかけるその姿は彼の何かを狂わせたとしか思えない。 大切なものを護れなかった悲しみで壊れてしまったその姿には、哀れすら感じる。


「こいつ…」


 宗の切っ先が鈍るその瞬間を奴は見逃さなかった。アリエは魔力で作られた鎧を身に纏い、剣を手に取ると宗に向かい、走りこむ。その最中、アリエは口を開いた。


「た、す…て…」


「え?」


「たす…けてえぇえ!!」


 そんな哀しい声に反応が遅れ、宗はアリエの攻撃をかわすことができなかった。


「っく…お前…」


「助けて…助けて…助けて…」


 救いを請うその声とは裏腹に振るう刃の勢いは増していく。だが、助けを請うその言葉にそれにのる思いに嘘は感じられない。だが、このまま何もしないわけにはいかない。


「お前…お前一体何者だ!」


「彼女は私の愛しいアリエ。私の大事な大事な実験材料。さあ、もっとだ。もっと、踊るんだよ!! さあ、可憐に儚く!優雅に舞うんだよ、アリエ!!」


「う、あっあああ!!」


 苦しむアリエ。もがくように腕を動かすが、それと同時にその手に握られた剣が危険に振る舞われる。


「っく、重い…」


 一発一発の斬撃が重く、火花を散らさせる。宗はアリエ攻撃を受け流すので精一杯だ。


「お前の体は…あいつに操られているのか?」


 だとすれば全て説明がつく。 奴が所有している水晶の一つ一つにはそれぞれ人間の魂が封じられているのだ。 そして、その呪縛から解き放たれる方法は…唯一つ。 水晶の核を砕く。そうすれば、必ず彼女は救われるはずだ。


「たす…けて、助けて、助けて」


掠れていく声。宗はエストラルニクスを解放し、アリエの腕を切り落とす。 そして、その切断箇所は既に凍り付いている。


「さすがに人形ではないのか…死者を繋ぎ留める呪術か…やはり道化らしい戦い方だ」


「腕…た、すけ…熱…助けて、わた、い…たい」


 凍り付く両腕だった物を見つめるアリエ。と、


「なるほど…形態操作ですか…これはこれは、またまた厄介な物を物を…ックック…イヒヒイィィ!! いい実験材料になりそうだあぁ!!!」


 奇声をあげ出す始末だ。こうなってはもはや、助けることは意味の無い無駄なことだ。この男に救済は必要ない。


「………」


 冷めた眼差しで、敵を見据える宗。もはや、あの敵に加減は必要ない。全力で斬り伏せる。この身を対価にしたとしても…。


「行くぞ…」


 全速で駆け抜ける。道を塞ぐアリエの胴を斬り、上半身が氷結し崩れ落ちる。これで水晶は一つ砕いた。あと水晶は六つ。


「私の実験材料が! よくも、よくも! 唯一つの成功体を!!!」


「お前はこれで!」


 宗はエストラルニクスを振りかぶり、即座に振り下ろす。 が、


「そんな刀で私を斬る? 確かに腕はいいですが…急ぎすぎです。 パルディオルム、真名解放」


 ネイティアが持っていた水晶に残りの五つが吸収され、一つになる。


「研究材料に手足は必要ない。生命活動に支障がないくらいがちょうどいい。さあ終幕だ」


「降りるのは…お前だ。 凝固せよ、かの者を成す元素よ」


 宗がネイティアに触れたその一瞬。それで呆気なく決着は着いた。


「あ―――お、前…私の身体を…」


「いくらNO'Sと言えども、元は人間だ。その身体は最早活動することすら許されない。体中の水分を氷結させられたお前は…」


 それ以上の言葉は意味がないと悟った宗は先を急ぐために


「………」


 外見に何等変化はないが…ネイティアの身体は完全に死んだ後で、もうこれ以上何も語ることはなかった。


「さて、俺も…あ―――」


 後ろを振り返ったその時、突然足が言うことをきかくなった。 それも当然、あれほどNO'Sの力を酷使したのだ、動く方がおかしい。


「仕方がないか…少しだけ…なら、いいよな?」


 誰に問うわけでもなく宗はその場に崩れるように倒れた。力尽きたといっても、過言ではない。アリーシアへ到着したそのときから全力で戦っていたのだ。いつ、限界を迎えてもおかしくはなかった。 Lost NO'Sの主要メンバーを単独で一人撃破すると言うことでも宗の力は相当なものだ。

………

……


「異常なし。…ここまで何もないと、逆に不気味です」


 通路の壁にもたれかかるNO.11。 少し疲れの色が見受けられる。先頭で常に神経を使い敵の攻撃を予知するべく集中しているからだろう。


「少し休もう。気張っていてもどうにもならない」  光の指示でしばしの間休息することになった。


「光、お前は何を知っている」


「何も知りはしないさ。これでも普通な人間でね、君とは違う」


 光の言葉使いには慣れてきたが、一言一言に余計な物がくっついてくる。


「わかっているさ。 この身体はまともな人間の物ではないってことは」


 自分でも気味が悪い。 自分自身、18年間共に歩んだこの身体が、いつの間にか人の物ではなくなっていた。 瑛の身体の秘密を知っている者もここにいるのかもしれない。


「違う。 燕条、君の身体の事を言ったわけじゃない。僕が気になっているのは君の魂魄だ。ヘルシンが言っていた。燕条の魂魄は変わっていると、」


「魂魄だって? ああ、あれの事か…懐かしいな」  


 二週間。


 時間にしてみればあまり前のことではないのだが、ずいぶん懐かしい出来事のように感じる。最初は目的も、何もなかった戦いも飛燕と出会って意味を見出し、一人になってから誰かを護りたい、救いたいって思うようになった。そして、今は世界を救い、飛燕の罪を浄化する。


「燕条、何を思いに耽っている。 僕たちにはそんな暇はない。こちら側から犠牲が出ていないとも限らない」


「ヒカル、貴方はこの戦いが終わったらどうするのですか?」


「それは、燕条がお前に聞きたいんじゃないのか? 僕のことはどうでもいい。戦いが終わったらNO'Sにでも雇ってもらう」


 光はNO'Sになるつもりらしい。


「瑛が私に? そうなのですか?」


「………そ、その…なんだ…」


 それとこれとは別な気がする。


「はっきりしない奴だ。そんなことではこの先、何があるかわからないぞ。燕条、迷うなよ…。さて、行こうか」


 光の合図で行動を再開する。


「別れ…道」


 少し歩くと、道が二つに分かれていた。


「どうする? 光」


 光はおもむろに銃をホルダーから抜き…。


 その引き金を別々の方向に二度引いた。


「なっなにしてんだよ」


「こっちだ」


 光は右の道へ進んだので英もその後に進む。


「なんでこっちなんだ?」


「燕条、くだらない事を言っていると、その頭ぶち抜くぞ」


「………」


 ホルスターから銃を抜き、額にその特殊な銃の刃先が当たる。


「っと、す、すまん。 いつもの癖で…」


「その癖は直した方が良くないか?」


 どうやら頭に血が上ると頭をぶち抜きたくなるらしい。 あまり変な質問はしないことにしよう。


「わかっているんだが…直らないものはしょうがない。さっきの方法だが、音の反響だ。かなりの確率でこっちの道は大きな部屋に通じている」


「へぇ。 そんなことまで知っているのか」


 感心するばかりだ。

………

……


「完全にばらされたわね、サミュエル」


「そうでもない。私の能力は味方にも見せていいものかどうか…」


 サミュエルはそう言って一冊の本を取り出す。


「それはなに、サミュエル?」


「これは絶対なる法典書『シャンバルディア』この書に記されている法は彼の楽園に存在した法律。絶対遵守の法」


 サミュエルはその本を懐へと仕舞う。


「ということは貴方は無敵?」


「いいや。この本はそんな自由の利く代物ではない。この本の攻撃対象は文字道理全体。所有者の私ですら入っている」


 サミュエルのシャンバルディアはそこら辺の神器とは格が明らかに違う。


「それって使っていいの? 凄い危険じゃないの」


「だが、うまく使えば無傷で勝てる…。そんなに上手くはいかないとは思うが」


 サミュエルはマスターの雫に従い歩く。雫の迷いのない足取りは罠があったらとっくに引っ掛かっているくらいに適当すぎている。


「雫、もう少し慎重に進んだらどうだ?」


「それもそうだけれど、私たちにはもう時間がないの。迷ってなんていられない」


 雫の覚悟は相当のもののようだが。


「雫、ひとつだけ守って欲しいことがある。自分の事を軽く扱うな。お前は、お前たちの気持ちは私もよくわかる」


「支配者って他人に共感する者だったの?」


「………する場合だってあるさ。もういい。それだけ守ってくれれば、私はこれ以上君に何も言わない。さぁ、私たちの最初の敵は誰か…」


 進んだ先の道に待っていたのは、懐かしい日の友人だろうとは思いもしなかった。

………

……

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