因縁と再会(10−4)
そして、燕条邸に戻ってきた。答えを出さなければならない。 後悔しないために。
「僕たちはどうすればいいんだ!? なぁ! 白哉」
「わからない。 それぞれで考えよう。 今はその方がいいかもしれない」
そう言うと、白哉は中庭の方へ出て行った。
「私は…自分の部屋で考える」
彩も、そう言うと階段を上り、自分の部屋に向かった。
「僕は…」
瑛は居間のソファに身体を預ける。
なんともいえないこの虚無感。この世界から、自分がいなくなるという事を考える。それは、世界という大きな括りの中では気にするような出来事ではないのだろう。
だが、小さな輪。友人関係、家族関係。そんな小さな輪で言うのなら、自分という個人は重要な役割なのではないのだろうか…と。
「僕はどうすれば…」
瑛は一人ソファにうずくまった。
………
……
…
燕条邸・中庭の片隅で、白哉は一人思いに耽っていた。
「どうした? お前らしくないな白哉」
「こんなときまで俺にリーダー面しろって? お前も酷い奴だな…。アーヴェル、俺はどうするべきなんだ? あいつらのリーダーである俺が、今更迷っている………」
白哉は今の自分に対して苛立ちを感じているようだ。
「それでいいんじゃないのか?」
「え?」
聞き返す白哉。
「それでいいのではないのかと言ったんだ。 迷ってもいいだろ。お前はお前だ。リーダーだとかって言うのは関係ないだろ、違うか?」
「それは…」
それはそうだ。リーダーだとかリーダーじゃないとかは関係ない。今は迷ってもいいときなのだから。
「それに、俺はお前なら決断できると信じている。白哉は俺が『天空杯』の使い道を聞いたときに言っただろ?」
アーヴェルと出会い、この戦いについての説明をされ、『天空杯』の使い道をアーヴェルに問われ、白哉はこう応えた。
「『そんな物に込める願いはない、そんな歪んだ物は俺がぶっ壊す』…か。 俺もよくそんな事を言ったもんだ」
自分で言った事を思い返し苦笑する。
「今度はどうするんだ? 世界のルールを変えてしまった奴らを、お前はどうする」
「できることなら、俺は…世界を護りたいだが、アーヴェル、お前は」
アーヴェルは首を横に振る。
「今更だ。聞くまでもないだろ。俺は、お前についていく。 それが、俺たちNO'Sだ。白哉」
「お前の考えはわかった。俺は『アリーシア』へ行く。そこで、世界を元に戻すんだ」
白哉は結論を出した。守るべき世界の為に。 自ら犠牲になることを選んだ。
………
……
…
燕条邸二階・彩の私室。
そこでリュードはマスターである彩とどうするべきか話を始めようとしていた。
「彩、君は…」
「私は、リュードに任せます。何も知らない私が考えても脚を引っ張るだけです」
が、彩はリュードの言葉を遮るようにそう言う。
「彩も聞いていたでしょう?『アリーシア』へ行くためには自分の意思、信念が必要なんです。他人任せの思いではとても向かうことは叶いません。未だきちんとした説明をしていない私が悪いのはわかっています。申し訳ない。ですが、彩…」
「私はお兄ちゃんについて行きます! お兄ちゃんの選んだ道を行きます!」
「マスターがそれでは、私も『アリーシア』へは行けないのです、彩。 君だってもう子供じゃない 自分の考えを…」
彩に頼み込むリュードだが、彩はその言葉をまともに聞こうとはしない。
「私はまだ子供です! いけないの? 私はお兄ちゃんの選んだ道を選んではいけないの?」
彩は叫ぶようにそう言う。
「瑛さんが行かないと言ったら、君も行かないと? 君には意思はないのか? それでいいのか?」
リュードは彩に質問をぶつける。
「なら…なら私は…どうすればいいの?私は戦ったことなんかないし、お兄ちゃんや白哉さんみたいに力もないよ?その私に何ができるの!?」
彩は自分には何もできない、『アリーシア』に行っても邪魔になるだけだとそう言っているのだ。
「彩、君には知恵があるだろ?」
「そんなの役に立つかわからないよ。いっぱい本は読んだよ。偉い人の伝記や昔のお話いろんな本。 本当にいっぱい読んだ。でも、そんなの役に立たないよ」
ベッドにうつ伏せになる。そんな彩の隣に腰を掛ける。
「私の力だって、役に立つかわからない。 誰のどんな力がいつ役に立つのかはわからない物だ。戦いって言うのは力だけでするものじゃない。どんなに不利な戦いだとしても意思がしっかりしている者は、たとえ負けようとも後悔したりはしない。ところで彩は、今のこの世界が好きかい?」
急に話を変えるリュード。彩にはその思惑はわからない。
「…」
「私はね好きだよ。彩と出会えたこの素晴らしい世界がね。美しい自然、生き生きとした生物たち…」
「私も、すき…」
「ああ。でも、このままだとこの世界が滅ぼされてしまうかもしれない。彩、私たちと一緒に戦ってくれないか、君の思いが私たちに力をくれる。 君の言葉が皆を動かすんだ。例え、力がなくったって一緒に戦うことができるんだ」
「私も…いく。まも…る」
彩は頭の中がぐちゃぐちゃになるまで考えた。涙が出るくらい、考えた。リュードと一緒に行こう。 もし、瑛が行かないと言ったら、自分が説得しようと心に決めて。
「ありがとう」
そういってリュードは彩の頭を撫でた。
………
……
…
今までの自分の痕跡が全て消えてしまう。
何よりも瑛が恐れたのはそのことだった。
親がどうとか言う不安はない。
瑛の家族は、妹の彩一人。
彩も必死に今を考えている最中だろう。
「瑛、」
NO.13によってその召喚を強制的に無効化されたレアラが姿を現していた。
「瑛、何をそんなに悩んでいるのです?」
「僕がいなかった事になるんだって。その…『アリーシア』に行ったらさ」
「私も、元々は普通の人間だった。私のいた世界の歴史に残ってもいいくらいの働きはしていた………と記憶しています。名前は思い出せないのに、そんなことは憶えているようです」
「でも。『アリーシア』に行って、歴史に登場しなかったことになった…か。NO.11、君は怖くなかったのか?少し前まで友達だった奴らが誰も自分の事を覚えていないんだ」
「すいません、おおまかな事しか思い出せない」
NO.11が困った顔をしている。
「はは、なんだよ。それ」
「いま、笑いましたね!」
怒った。 でも、彼女も笑っている。
「辛いのですよね…。 瑛は」
そう言って隣に座る。
「辛くないって言ったら、嘘になる。僕は…ここが好きなんだ、優奈と雫と一緒に買い物に言ったり、学院で宗と一緒に学食行って、白哉と一緒に部活をした、この街が。護りたいって気持ちは…ある。でも…忘れられるのが怖いんだよな…。NO.11は僕に言ったろ? 強くなったって、精神的にも、肉体的にも、確かに強くなったよ。でもさ…弱気になってもいいんだよな? 結論を出すのを渋ってもさ」
この街で過ごした日々を思い返す。楽しかったこと、哀しかったこと、嬉しかったこと…思い出。かけがえない出会い…。思い出せば出すほど、迷いが生まれる。
「瑛…」
「僕は、どうすればいいのかな…このまま残っても…いいとは思うんだ。それも一つの選択として、僕が進む可能性としてはありえることだ。それでもさ…なぁ…教えてくれ。僕は…どうすればいいんだ?」
「それは…私が言えることではありません。 瑛は迷っている。『アリーシア』へ行き、この世界を護るために戦うのか、『アリーシア』へは行かずに、元の日常へと戻るのか…」
「…」
瑛はうつむく。自分は何をすればいいのか…どうすればいいのか…。
「貴方は、迷ってもいい。 私はそう思いますよ、瑛。よく考えてもみてください。貴方は少し前までは、何の変哲もない普通の人だった。でも、今ではこんなわけのわからない事態に巻き込まれている…迷うのは当然です。」
レアラは、当然だという。でも、世界の危機なんだ。そんな自分の意見で動いてはいけないといわれた…。
「意思のない人間の行動なんて、決してつりあうことのない天秤のようなもの。貴方は貴方の意思に従ってください。 私は、貴方の意思に従います。瑛」
「僕は…」
例え、この先にどんな困難が待っていたとしても、
「ぼ、くは…」
例え、どんなに納得できない結果になろうとも
「僕は………」
絶対に後悔はしない。絶対に、やり遂げてみせる。この大好きな世界を…僕は元の形に戻す。
「迷うのは辞めだ、僕は行くよ。『アリーシア』へ。もう、迷わないで前を見る。 進むんだ。誰に何を言われようとも、僕の意思は揺るがない。絶対に彼女も救わないとならないから」
思うのは彼女の顔。飛燕・アーヴィング、彼女の罪を浄化しなければならない。
瑛が結論を口にした時、白哉が居間に戻ってきていた。
「結論は…出したみたいだな、瑛」
「白哉は…」
瑛が心配し聞くこともつかの間、はっきりとした口調で白哉は告げる。
「道は同じだ。俺も行く。お前だけだと、頼りないからな。なんたって世界がかかっている」
そんなことを口にした。
「お前らしいよ 後は彩だな」
「…白哉さんも、決めたんですね」
後ろを振り返る。そこにはリュードと彩が立っていた。
「彩?」
「瑛さん。私たちも、決めました。 行きましょう、『アリーシア』へ!」
リュードが拳を上に突き出しながらそういう。
「リュードには似合いませんね、そういう熱いのは」
NO.11がリュードを見て笑う。「まぁ、いいじゃないか。 さ、教会へ行こう。 そして、それから『アリーシア』へと向かうんだ」
………
……
…