因縁と再会(10−1)
「流希、悪い失敗した。NO.10のマスターに断られた」
とある教会の中、先に白哉に接触を試みた者が帰ってくる。
「ある意味、天才よねそう思わない? ヘルシン」
「貴様はどのような考えがあってそうしているのだ、マサムネ」
イスに堂々と座るNO.08ヘルシンとその後ろで文書を書く女、神谷 流希NO.8ヘルシンのマスター。そして…、
「なに、燕条 瑛の下に向かわせるという目的は果したからいいだろ?」
この男こそ、白哉に近づき、情報を与えた男。神谷 正宗。NO.2のマスター。
「マスターがこうだと大変ね、パーン」
「そうでもないさ。優秀な男だ。お前もそう思うだろ? ヘルシン」
NO.2パーン・バークライト 「気に入らんがな、ところでルキ。 次はどうするんだ? NO.12と合流するか?」
「その必要はないわ。 おそらく」
と、ドアが開く。数人を引き連れ、群青の騎士が先頭を歩いてくる。
「NO.8のマスター神谷 流希、NO.2のマスター神谷 正宗」
口を開いたのは先頭の騎士、NO.12群青の彗星エイリーク・レイジング。
「何をしに来た。貴様、許しも得ずにここへ来るとは」
「ヘルシン、いいわ。 用件はわかっているから…NO.12。私たちと合流しに来たのでしょう?」
「はい。そうですが…何か問題でも?もはや『天空杯』もなく、私たちは同一の敵を得た…。ならば何を成すか、貴方ならわかるでしょうに」
「そうね、でも私たちはまだ『アリーシア』に行く気はないわよ」
流希はエイリークの言葉を拒否する。
「お前たちはこの期に及んで協力しないと言うのか?」
NO.4フェイトが問う。
「貴様らに、何故我が力を貸さねばならぬ」
「なぁに、頑なに拒否する道理はないだろ? どうだい、俺たちを信用しろよ、仲間だろ?」
リオンが軽い拍子で流希に近づくと、リオンの背後に回りこんだパーンが短剣をリオンの首筋に当てていた。
「近づくな…紅髮」
「んなっ! おい、火傷したくなかったら…俺から離れな」
「貴様程度の燭では私どころか…あの男、カルバス・レイムダイには遠く及ばないだろう」
リオンを挑発するパーン。これでは仲間に引き入れることも難しいだろう。
「燭だと! 俺が『紅蓮の貴公子』だと知っていてか!」
パーンの挑発にのるリオン。 だが、
「落ち着くんだリオン。乗せられているよ」
間に留香が割ってはいる。
「お前たちは何を考えている。ここにマスター達を集めたのはお前たちだろ?」
宗が流希に尋ねる。
「考え、そうね…ないとは言わないわよ。でもね、貴方たちに協力することはできないの、剣崎 宗」
流希はヘルシンの後ろに立つ。
「俺はお前たちが気に食わん、特に…NO.3、NO.4お前たち二人は俺の嫌いな種だ…さっさと消えろ」
「そう言う訳には行きません。ヘルシン、もう貴方一人の言葉が優先されるような状況ではありません」
食い下がるエイリークだが、
「女、いい加減に身分を弁えろ。 俺は五賢の一人だぞ? 貴様のような戦うしか能のない者とは立場が違うのだ貴様も、さっさと立ち去れ。なんなら、この俺がじきじきに相手をしてやってもいいんだが?」
その剣とはとても言いがたい物をその手に持つヘルシン。 その気迫に圧されるエイリーク。
「ちょっと、さっきから聞いていたら、マスターの意思も、NO'Sの足並みも揃っていないみたいね…リーダーが不在なだけでそうなの?」
始めからそこにいたのかはわからない。だが、この教会内の一番端に堂々とイスに座っている彼女の名は、聖零 雫。彼女は確か、NO'Sとはなんのかかわりもなかったはずではなかったか? なのに、どうして彼女がこの教会にいるのだろうか…。
「何故お前が…!!!とは驚いてみたが、今更って事か?」
「そうか、雫も来てたのか」
留香はやっぱりねと言う。
「そうね宗。貴方のような半端者がマスターであるのに、純血のこの私がマスターではない道理はないわ。ヘルシン、貴方…わかっていないみたいね」
雫はその座っていたイスから立ち上がり、ヘルシンの方に向かって歩き出す。
「何がわかっていないと言うのだ? 女」
「わかっていないじゃない。私が誰のマスターかって言うのがわかっていないのよ」
「たいした事はない。俺以上の存在はNO.1のリュード以外には………まさか! お前のNO'Sは!」
急にたじろぐヘルシン。その姿はいささか滑稽ではあるが、ヘルシンを脅かすほどの存在だ。決して気を抜ける存在ではない。
「そうよ。私はNO.13のマスター。サミュエル、出てきて」
「久しいな、ヘルシン。またしばらく会わないうちにどうしてそう勝手ばかりをする様になる?」
サミュエルと名乗る男の出現を察し、ヘルシンはその態度を急変させ、おどおどしている。
「そ、そうだな。 サミュエル…それで、なんだ?何の用だ?」
「とぼけるとはお前らしくもない。決まっているだろ? マスターとNO'Sの意見を一致させる。あと、反しているのはお前だけのようだが? ヘルシン」
サミュエルに攻められ、更にたじろぐヘルシン。
「そのくらいにしてくれないか」
女神像によしかかり、影で顔がよく見えないが、その者が姿を見せる。
「聖零、君がここに来ているとは思わなかったが…そっちも、僕が生きているとは思わなかったようだね、その顔から察するにさ」
その男の正体は紅兎 光。 学院の屋上から転落をしたものの、その死は確認されていなかったが、まさか生きていようとは誰も思わなかっただろう。
「光!?俺はてっきり死んだとばかり思っていたよ。それで?どうしてお前がここにいるんだ?」
宗は雫の時とは違い、心底驚いている様子だ。
「どうしてってさ。 君は馬鹿かい? 僕は最初からこっちの人間なんだよ? 流希だって正宗だってそうさ、僕達は僕達の意思に沿うだけだ…ルールになんかには従わない。 第一、『カルバス・レイムダイ』は僕が倒す」
光の魔力に怯むも、宗は歩む。
「『カルバス・レイムダイ』? 誰だ、それは! 第一、そんなものは関係ないだろ。 それが敵だと言うのなら、それは俺たちの敵って事だろ? お前だけの敵じゃない」
「確かにそうだけど、それくらいの意気込みがないと奴には勝てない。自分が倒すってね」
先ほどとは口調が多少異なる光。何かが吹っ切れたのか、学院へ潜入していたときよりもトゲトゲしてはいない。
「気合だよ。君たちさえよければ、ヘルシンの事を無視してでも僕は『アリーシア』へ行って話しをしようと思っていたところだよ。そうだな、良ければだけどさ、剣崎。燕条に伝えては貰えないか?」
光の提案だが、それは受けることができない。 瑛のところには恐らく、白哉が向かっただろう。 あの後だ白哉がNO'Sの事で事情が変わったと知っている筈はない…。
「すまないがそれは無理だ。お前が直接行ったらどうだ? 光」
「それこそ無茶だね。燕条に喧嘩売ったのは僕の方なんだ、その僕がぬけぬけと目の前に現れて良い道理はない」
それもそうか、と思い引き下がる宗。 だが、これでは瑛に伝える手段がない。
「大丈夫よ、あの二人には彩がついているわ」
「燕条の妹に何ができる。そもそも、マスターですらないだろうが」
雫の言葉に颯爽と釘を刺す光だったが、
「その燕条 彩はNO.1のマスターだ。 つい先ほど判明したことだがな」
と、サミュエルが口を挟む。と、光と宗は嘘だろうと言いたげな顔をしている。
「嘘ではない。 そもそも、お前たち二人が気にしている点も、恐らく大丈夫だろう。 リュードがついているのだ、万が一と言うことはあるまい。 違うか? リオン」
「ああ、リュードなら大丈夫だ。恐らく一番身をもって体験しただろうからな」
突然振られたのにもかかわらず、リオンはびくりとすることなくサミュエルの問いに返す。どうやら、ヘルシンが特別に苦手としているだけのようだ。
「そこまで心配だと言うのなら、私が行こう。どうせ、ここにいる面々は全員交渉できない理由を抱えているのだろうからな」
察したようにそう言い出すサミュエル。つまりは、燕条邸へ向かうのは雫と言うことになる。
「教会の連中はここで待機していろ。リオン、お前たちは先攻し『アリーシア』へ向かってくれ」
「構わないぜ。 サミュエルそれでは、『アリーシア』で会おうか、エイリーク。 行くぞ」
「わ、わかりました。 では、失礼します。サミュエル・カーティス」
エイリークはそう言うとなにやら空間が裂かれその中に吸い込まれるように、エイリークたちは姿を消した。そして裂かれていた空間が元に戻っていく。何事もなかったかのように。
「さて、彼らはアリーシアへ向かったか。口が上手いね、NO'Sのサブリーダーはさ」
「何が言いたい、神谷 正宗」
エイリークたちがいなくなった途端、サミュエルに話しかける正宗。
「事実だろ、彼らを今どうなっているかもわからない未知の『アリーシア』へと向かわせたんだ、罪悪感の一つでも在っては不思議じゃないんでね…だがサミュエル、君からはその罪悪感って言うのが感じられないんだよ、俺はさ」
「罪の意識がないわけではない。私は彼らに先鋒を託したんだ。戦いの指揮は私が執る。逆に聞くが、策はあるのか?」
「そんな大それた物はない。だが、期と言うものは仕損じては意味は無い。違うか?」
「わかった口を…。 よし、では私も向かうとするか。 雫、君が高評価与えた燕条と言う男、いかなる器か確かめに向かう。 構わないな?」
雫に問うサミュエル。先ほどと目的が変わっている気がするのだが恐らく気のせいだろう。
「サミュエル、目的が変わっているわよ。でも、私の評価は間違っていないはず。白哉なんか目じゃないわよ、瑛の真の実力はね」
そういうと、雫はサミュエルをつれて教会を後にした。
「流希、何処へ行く」
雫が出て行くのを確認し、流希が出口へ向かおうとするとヘルシンが流希のその脚を止めさせるように問う。
「私も会ってみたくなっただけです。燕条 瑛と、龍閃 白哉、彼ら二人に…行っては行けない? 兄さん」
「流希が行きたいのなら行けばいい。俺は止めないさ。 ヘルシン、別に構わないだろ」
「勝手にするがいい、ルキ」
了承を得ると流希は出口へ向かって駆けて行った。流希が教会から出て行くのを確認するとヘルシンはヒカルに歩み寄る。
「お前は、このような所にいる器ではないだろうに…何故俺たちと共にいる?」
ヘルシンは光を問う、が
「お前も同じだろ、マスターの指示に従いもしないNO’Sが何を」
「指示されないからな、それ故、俺は自由」
「僕の邪魔だけはするなよ、ヘルシン」
「ああ、お前もだヒカル」
………
……
…
雫の後をつけて、燕条邸へ向かおうとしたものの、その雫を見失ってしまい流希は困り果てていた。
「何故です。私は確実に彼女の後を確実に追跡していたはずなのに…見失うとは」
見失った直後に行った方向もわからないままに、適当に歩けばそれは道に迷うのも必然。流希は右往左往している。
「一体何処に? これでは教会にも帰れない………」
「お前、確か…正宗さんの妹の…流希だったか?」
唐突に声をかけられる。 目の前にいる男は確か…流希は記憶を辿り、一致する人物を記憶の中から発見する。
「貴方は確か…霧夜 桐吾」
「そうだ。何処へ行こうとしている?見たところ、道に迷ったか?」
図星を突かれ、何も言い返す事ができないが、
「燕条 瑛という人物に会いに行こうとしていて、道に迷ったのです」
「そうか、奇遇だな。俺も野暮用で燕条のところに行くところだ。流希、君も…なのか?燕条に用があるということは」
君も、と言うことは目の前のこの男もマスターということで間違いないだろう。
一度会ったというだけの奇怪な縁という物も、稀に役に立つものだと流希は感心する。
「そうです。 察するところ、桐吾さんも…」
「それより先の話は燕条の家に着いてからにしないか? ここではなんだろう」
と、着いて来いと言わんばかりにその背中は堂々としていた。 流希は迷うことなく桐吾の後を着いていく事にした。
………
……
…