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傷の在処(7−2)

 病院の外に出ると、私服姿のNO.11が待っていた。なにやら機嫌が悪い。


「なんだよ、どうした」


「瑛、他のNO'Sと接触しましたね」


 誤魔化しても無駄だと言うことは百も承知なので、瑛は誤魔化さないでありのままを伝える。とても彼女は納得しないだろうけれども。そんな事は知ったことじゃない。


「ああ、NO.3と会った。 で、それがどうかしたか?」


「何故、私を呼ばなかったのですか、貴方という人は…なにかあってからでは遅いのですよッ!」


 なんでだろう。呆れられただけで腹を立てるようなことはなかったのに…。


「こんな場所で呼べるか、馬鹿か」


「ば、馬鹿とはなんですか、まったく…。 そんな事はどうでもいいんですよ、私のことを馬鹿と言うことくらいなら、それにしても、私を連れて行ってくれても良かったのではないですか?」


 そこで拗ねる理由が分からない。


「皆は、お前の事を知らないだろう」


「それは…、そうですが…」


「わかったか? 僕は帰るから」


「わかりました」


 彼は、無言のまま私をその場に残した。


 今日の瑛はどことなく腹を立たせていた気がする。


 どことなくだが、いつもと違う感じがしたのだ。


 常に一緒と言うわけではないが、先ほどの彼がおかしいと思うのは彼と話したことのある人間なら誰でも気がつくだろう。


「………」


 無言の重圧。


 町の雑音も今の二人の間では静寂そのもの、耳には入っているが、耳に入ってくるだけの唯の音にすぎない。


 戦いのときは上手くいったのに、彼に何かあったのだろうか、そんなにも心を揺さぶる出来事が…。


「NO.11」


「なんですか?」


 感情のない声にそっけなく返す。


「一人にしてくれ」


 勝手な言葉だ。


「嫌です」


 感情の篭った反論。


 その間にも瑛は歩く。歩みを進める。その速度が上がっていく。


「ついて来るな」


「何故ですか」


 問う。


「ついて来ないでくれ!!」


「!!!」


 先ほど彼は『帰るから』と言った、言ったはずだ。


「『ついて来るな』と言ったんだ!」


 振り返る。 放った声はさっきよりも荒げている。


「なぜですか?」


「僕に構わないでくれ! 戦いのときは呼ぶ、だから…ついて来るなあぁ!!!」


 さらに声を荒げ吼える。


「今の貴方は勝手すぎます。 自重しないと痛い目を見ることになりますよ」


 今のは流石に頭にきた。拳を力いっぱいまで握り締め、彼の右頬を思いっきり殴りつける。当然のことながら、彼は後ろに倒れこみ、尻餅をつくように倒れた。


「何するんだよ!」


「甘えないでください! 彼が傷ついたのは誰のせいですか?」


「…」


 痛いところをつかれる。


「答えてください、貴方にはその義務がある」


「…」


 答えたくない。答えてしまえば。認めてしまうことになる。


「答えなさい、瑛!」


 だんまりを続ける瑛にNO.11が怒鳴りつける。


「僕の……だ…」


「聴こえません」


 感情のない声で威圧する。怒りで前が見えなくなっているのではない。正しい事だと理解してもらうために聞いているのだ。


「僕のせいだ! ―――わかっていたんだ。 マスターになったってことは、皆を巻き込むかもしれないって…でも、信じられなくて…。 怖かったんだ! 戦って、わかったんだ。 僕は誰も守れないって、さ。 …守ると言った飛燕も今はどこにいるのかわからない……笑えるだろ?」


 身勝手な孤独、弱い心。 それは人なら必ず持っている弱点。 それが時に災いし、判断を鈍らせ、誤らせる。 今の瑛はまさにそれだった。


「瑛、貴方にとって、私は何ですか?」


「え?」


 忘れたとは絶対に言わせない。あの日、瑛に呼び出されたあの日、彼と交わした約束。絶対に忘れたとは言わせない。 私が守ると誓った。


「お前は…僕の…な、仲間だ。 一緒に戦って、背中を預けられるような仲間だ」


「あの日、私に誓ってくれたことを覚えていますか?」


 彼はハッとした顔をする。 そして、彼は言ってくれた。


「僕達が生き残って勝つと言うことだ…」


 少しの間、瑛が落ち着くまでNO.11は黙っていた。


「落ち着きましたか?」


「ごめん。 いや、すまない。自分勝手に、ただ振り回したような苛立ちをぶつけたりして」


 きちんと向き合ってくれる。今の彼こそ私のマスターだと、そう実感できる。本当によいマスターにめぐり合えた。 私は幸福なのかもしれない。


「いえ、それは誰もが体験すえる人生の苦難です。 これで、瑛も人として、また成長したのでしょう」


 出会った時の瑛と今の瑛は、違う。 今の彼は、出会ったときよりも精神面で成長し、頼りになるまでになっている。


「一緒に帰ろう。今度は、お前が嫌だと言っても僕が連れて行くからな」


「貴方らしいですね、瑛」


「それはどーも、行くぞ。ほら」


 瑛が私の手をとる。


 私の手よりも少しだけ大きくて、暖かい手。


 一緒にいると、少しだけ…私を騎士ではない、少女の私に戻す。


「………」


 私も彼の手をとる。


 すると、彼は頷き、


「帰ろうか、」


「はい、」


 そして、私達は進む。


 道は長くて…、


 険しくて…、


 挫けそうになるような道のりの旅だとしても、貴方となら、私は大丈夫な気がします。


―――瑛。


………

……


―――瑛が出て行った直後の病室での出来事…。


「はぁ…アイツどうしたんだろうな」


 白哉はため息をついた。迷いがあるのは当然だとわかってはいるが、納得がいかない。


「さぁ? そんな事、俺は知らないぜ」


 イスに乱暴に座った宗は病室にまだ残っている少女に気がついた。


「ん…? 彩ちゃんも、もう帰りなよ。瑛も疲れていたみたいだからさ、話…聞いてやってくれよ」


「はい、それではお邪魔させてもらいました。 あ、皆さん仲良くしてくださいよ、お兄ちゃん、友達少ないんですから。それでは失礼します。 お大事に、白哉さん」


「ああ。 じゃあね、彩ちゃん」


 宗は彩を病室から送り出す。


 扉を閉め、気配が遠のいていくのを確認し、剣崎 宗は口を開いた。


「さて…で、本当は何があったんだ?白哉」


「結果から先に言うと、紅兎 光が瑛を銃で撃った。それを庇って俺がこの有様っていうことだよ、宗。情けないだろ?」


 ハハハと、笑って見せる白哉。だが、この男には聞いておかなければならないことがある。


「白哉、お前は瑛が狙われた理由を知っているか?」


「理由?確かに、本物の銃で狙われるなんて非常識、考えろって言われてすぐに答えられるかよ」


 流石に飛燕の様に直球の質問をぶつける訳にはいかない。


「同じモノを狙っているとか…か?」


 瑛と光が狙っているもの、あの病院での様子から察するに、光が狙っているモノは天空杯。瑛も、飛燕と共に天空杯を狙っていた。と、上手く白哉が引っかかってくれるといいんだが…。


「飛燕か…」


「そっちじゃねぇよ―――あ」


 飛燕・アーヴィング…彼女の事が全てに起因しているのだとしたら、確かに天空杯よりもこの二人が獲り合う理由にはなるが…思わず口を滑らせてしまった。


「あ………ってお前、俺を試そうとしていないか?理由は知らないが止めておけ。俺は何も知らないよ。この怪我は単純に瑛を守っただけだ」


 白哉は何も知らない様だ。なら、これ以上普通に問いただしても言葉を引き出すのは無理だ。ここは日を改めよう。


「そうかよ、白哉。それじゃ、俺もまた来るわ………瑛にも言った言葉だが『気いつけろよ』最近何かと物騒だからな」


「ああ、身に染みているよ、宗。それじゃ」


 宗がドアを開けると、そこには同じクラスの円陣 留香が立っていた。


「あれ、円陣…お前も見舞か?なら、俺たちと一緒に来ればよかったのに…」


「さっきまで少し用事が合ったんだよ。見舞いに来るだけまだクラスメイト思いだと思ってほしいね。キミは帰るんだろ? 宗」


 と、忙しかったんだから仕方ないだろっと睨まれるが…これが彼女のデフォルトだ。この事は都橋 優菜から聞いた瑛に聞いたことだ。


「ああ。それじゃな」


 宗は白哉の病室を後にした。


「やぁ、龍閃 白哉君」


「何故わざわざフルネームで呼ぶんだ…というか俺、円陣さんと話すのほぼ初めてなんだけど…」


 少し戸惑う白哉とは反対に留香はそういうのは気にしない性質なのだろう。


「そうだね、私が優菜について行ったときに君達もいた時に数回会った程度…それに驚いたことに私がキミと直接話すのはこれが本当に初めてだよ。驚きだね、龍閃 白哉君」

 以外にも饒舌な留香に驚く白哉。だが、わざわざここにきて無言で居られるよりはいいだろう。


「名前か苗字で呼んでくれないか?俺は苗字で呼んでいるんだし」


「そうだね。それじゃ、白哉。本題に入ってもいいかな?」


「いきなり名前…それも呼び捨てか…まぁいいがで?本題ってなんだよ」


 わざわざここにきた理由が知りたい。なにか重要なことがあるはずだ。


「さっき出て行った彼の事なんだけど…」


 白哉は驚いた表情をする。わざわざここに聞きに来ることではないような気もするし、その手の話は都橋に聞くものだと思っていたのだが…。


「宗? 円陣は宗の事が気になるのか?」


「え?ち、ちがうよ。馬鹿じゃないのッ!?」


 白哉の勘違いだったらしい。慌てた留香は息を整え、咳払いを一回する。


「そんなこと初めて話す人に聞くわけないだろ?」


「それじゃなんだよ」


 確かに失礼な質問をしてしまった様だと心のなかで謝罪したが、次の留香の言葉に白哉は驚きを隠せなかった。


「キミがNO'Sのマスターであると断定して話をさせてもらうよ」


 何だって?と表情を作る。


「キミ、瑛、雫、桐吾さん、私の誰か、或いは全員が剣崎 宗に狙われている」


 と、そんな事を言われる。


「俺達が宗に狙われている?って、そんなバカなことはないよ。それにな円陣さん、NO'Sのマスター…ていうのはどういうことだ?」


 まったく知らない。というよりも、知っていたがそれを消し去ったような返答をする。


「あれ…とぼけちゃうのかい? 白哉。私は君と共闘を望んでいるんだ、決して悪い話じゃないと思うんだけれど?」


 白哉が当事者側だと決めつけているのか、留香はペースを乱さずに白哉に質問を続ける。


「いやいや、円陣さん。俺はただの武術部の主将だ。お前たち…さっきの話だと、宗もそうなのかはわからないが…、俺はそんな物騒な事には関わっていないよ…」


「やれやれ。キミがその調子なら、今は無駄みたいだね…わかった。またの機会にするよ…ただ、これは受け取ってほしい。強く思うだけでいい。それで私にキミの危険が伝わる。必要ないかもしれないけれどね」


 と、留香から御守りの様なものを白哉は受け取った。


「御守りか…円陣さんの神社の御守りかな…ありがとう」


「そう、家の御守り。それ自体にも御利益はあると思うよ、それじゃあまた会う時までだ。白哉」


 小さく手を振ると、留香は白哉の病室から出て行った。


「さて、物騒な話を聞いてしまったな…」


 できることなら全てが終わるまで黙していようと思っていたが、どうやらその願は叶わないらしいが

 ことが起こるまではまだ暫しの猶予があるようだそれまではおとなしくしていよう。


 病室の窓から外を眺める。やることがないというのはむず痒い。


 窓の外は夕暮れの残滓がちょうど地平線に消えていくところで、その光景に何処か儚さを感じた。

………

……


「さて、これで白哉の事は大丈夫。現状を少し整理しておこうか」


 私、円陣 留香にはリオンが付いている。


 聖零 雫には彼女を守る者がついているらしい。


 燕条 瑛にはNO.11がついている。


「はぁ、」


 ため息をつく。優菜の友達である瑛、雫は何があろうとも守らなくてはならない。


 病院から出て、一休みするためにベンチを探し、そこに座る。


「さっきの男と、あのNO.11のマスターを監視するのか?留香」


 リオンは姿を現すと、留香の隣に座る。現代風の格好に違和感はない。少し年上のお兄さんくらいにしか見えないだろう。


「そうだよ。雫の内情を調べるのは不可能に近い。 話し合いにならない桐吾先輩を守るのは私たちにとってはリスクしかない。残るのは自然と君の言う通り、瑛を守るってことに落ち着いてしまうんだけど。でも、どうしようかな…私が彼に接触すること自体は問題ないのだけれど、優菜がね…」


「留香の親友の男なのか、あいつ…思いのほかやるな…」


 留香の言葉をどう受け取ったのか、リオンはそんな言葉を呟きながら、一人、頷いている。


「リオン、君は何を感心しているんだ?今はそんなことは関係ない…私は悩んでいるんだから。少しは私の手助けになるような助言をもらえないかい?」


「俺にそれができると思っているのか?留香。俺がその手の事を得意としている様に見えるか?」


 とてもそんな風には見えないが、それは重要なことじゃない。今重要なことは、剣崎 宗から燕条 瑛を守ることだ。


「リオン、主旨がずれているよ」


「わかっているよ」


 リオンは留香の隣に座ると、どこかを見据えながら、


「後手に回るしかないだろ…あちらの動向が読めない以上はな…留香、俺はNO'Sの中では随一とは言わないが速さはそれなりだ。後手にまわったとしても、それが直接遅れをとるという結果にはならない。俺の目的は仲間を守ることだ」


「それを聞いて安心したよ。瑛もだけど、白哉のことも私が守るよ…守って見せる」


 空を見上げ、留香はそう呟いた。


「留香、一つ聞いてもいいか?君は………」


「リオン、聞かれても答えないよ。ただ一つ言えるのはね、私は知っている。結末が変わりつつある未来をね…さ、夜まで待とう」


 夕暮れに夜の闇が差し込もうとしていた。

………

……

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