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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
一章『龍の槍』
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その在り方を否定する(5−4)

病院の内部に侵入した紅兎 光だが、その状況に彼は驚きと激しい苛立ちを覚えた。


「胸糞悪い…結界だ」


 両手に銃を構え、結界を破壊しながら先に進む。敵に気が付かれようと関係ない。ここは敵の根城だ。どうせなら完全に破壊したいが…。


「無関係の人間が多すぎる…」


 無暗に爆破する訳にはいかないが…。


「こいつらはなんだ?」


 人形だろう…。頭部には目がなく、鼻と口だけが存在する人の形をした何か。不死体ではないが、傷の治りが早すぎる。この敵には覚えがあるが…。


「まさか………な」


 ある男を想像したが、それはないだろうと考えるが…異様にその男の存在が頭をよぎる。


「燕条おぉッ!」


 叫びをあげると、そいつらはどんどんと集まってきてしまった。


「ッち…」


 舌打ちとともに周囲に弾丸を散らせる。


「目標は何処に…獲り合えす上を目指そう」


 階段を探し、院内を走る。入ってすぐのロビーにはエレベーターしかなかった。


「階段はないのか…非常階段…」


 上を見上げると、天井から非常口の表示がぶら下がっていることに気が付いた。その表示の矢印の方向に向かって行くのだが、向かっていけば行くほど、人形の数が増えていく。 視界に入ったものから順に処理していく。


「なんだっていうんだここは…日本の病院はこんな警備体制だっていうのか?」


 そんな筈はないのだが、それにしてはこの数は異常だ。


「これじゃ、公共施設ではなく魔術要塞だ…またか…」


 周囲に湧き出した人形をまたも両手に持つ銃で一撃のもとに沈め、一息つく。


「光、なんだここは…」


 非常口表示が示した先からNO.06が走ってきた。彼も、相当数のあの人形を倒してきたのだろう。


「この先に上に行ける階段はなかったか?」


「私が入ってきた入口の近く、雑な作りですが外に階段がありました」


「よし、案内してくれ」


 さすがに、NO.06が来た道を戻っているだけに人形の姿はない。


「あれはなんだと思う?」


「人造の生命体でその失敗作…または、人体に魔術による改造を施した失敗作…そのどちらかのなれの果て…でしょうか。まったくもって悍ましい。これだから魔術使いは…いや、光は別だ」


「………」


 これが魔術使いの本能。


 自らの欲を追求し尽くさなければ気が済まないような連中。こんな人の道から外れた行為をを平然と行う外道どもが魔術使いと呼ばれる存在だ。光もそんな魔術使いの一人自分の探求する事象が目の前に起きたのだとしたら、光は自分の欲を抑えられるのだろうか。


「僕はこんなことが許せなくて魔術使いになろうとしたんだ…。お前の言ったことは事実だ。こんなことをする奴を…僕は野放しにはできない。一気にかたづける」


―――フフフ…君にできるかなぁ…NO.06のマスター君?

 おそらく、敵方…NO.01のマスターだろう。女…だろうか。年齢は20代後半…。


「NO.01のマスターか?お前、何処にいる…この院内の患者は…」


―――それは君が心配することじゃない…ここは私の領域だ…部外者が入って好き勝手暴れていい場所じゃない。


 声からはっきりと伝わってくる。この敵は光の存在に恐怖している。


「へぇ、そうか。わかったよ………お前の居場所。さぁ、僕に狩られるがいい。外道、魔術使いの面汚しがッ!」


 真上に向かって引き金を引く。その銃声に恐怖したのか、NO.01のマスターの声が消えた。


「こんな嘘につられるなんて、ちょろい奴だ。行くぞ。あいつは何処にいる?」


「ああ、敵はこの上…3階の個室にいる。個人の所有スペースの様だ」


 NO.06によってNO.01のマスターの居場所が判明した。


「面白くない敵だ…」


 あの男、燕条 瑛の方が光にとっては段違いに上物の獲物だ。今標的にした敵などは下の下、瑛の足元にも及ばない。できる事ならこの敵を蹴散らした後にすぐさま瑛を殺しに行きたい。と、そう思ってしまうくらいだ。


「ッフ…」


 自分の考えに光は笑いをこぼした。


 NO.06を先行させ、彼が来た道を戻り、非常口から一旦外に出る。先ほど彼が言ったように、雑な作り(鉄を溶接して作られた螺旋状)の階段を上っていく。


 不思議なことに、病院内にいた不可思議な人形はこの階段では姿を見せない。ということは、あの人形はNO.01のマスターによって、病院内の患者がいない空間にのみ配置されているのであろう。


 外からの侵入者対策にしては随分なものではあるのだが、光にとっては無意味の一言で片づけられる程度の代物でしかない。ただの結界の方が耐久力が高い分だけ厄介だ。


「さて、この扉を開けると3階だが、どう思う?」


「一階よりも苦戦させてくれることを願うよ。退屈すぎる」


 余裕しかない。自分の戦いに自惚れているわけではない。選ばれた魔術使いにしては、随分と仕事が雑だ。と、敵を只々低く評価してしまっているようにも思うのだが、それは間違いではない。間違いなく、この敵は光よりも程度の低い魔術使いである。そう断言せざるを得ない。


「さて、楽しませてもらおうか」

………

……


「侵入者か…NO.03お前と戦っている場合ではなくなった…そろそろ退場してもらえないかな?」


 NO.01の体を自分の体の様に操るそのマスター城山 凛華。は、侵入者に対してこのNO.01を当てようとしていたが、彼は病院内で防衛せずに、外にうって出てしまったためにその計画が崩れてしまった。


「断る。俺はリュードを取り戻す。お前のもとに向かっているのはNO.06のマスターだろ?奴がお前の本体を叩くというのなら、俺はここでお前を足止めするぜ」


「そういうだろうと思ったよ。真名解放は所有者しかすることができないが…武器自体の特殊能力は勝手に発動する…私でもこの体があれば君と戦えるというわけだ…。そろそろこの体にも慣れてきたころだ。君をうち滅ぼす」


 武器を構えるその姿はNO.01のもの。彼を殺める攻撃はできない。かといって、一手で行動を封じる手段はリオンには無い…。


「俺一人では…」


 素手NO.01の武器、ラングラッドを受け止めるのは不可能。仕方なく、リオンもイルマリオンを構え彼の突撃に備える。


「そうそう邪魔は入らないだろう…これでもくらえ…伸びろ!」


 凛華が一歩も動くことなく、その場から突きを放つと、ラングラッドはそれに呼応し、その切っ先がリオン目がけて伸びる。


「お前よりもその武器の事は俺の方が知っている。お前が俺に決定打を放つことはできない」


「やれやれ、苦戦している様だね、リオン君」


 ようやくリオンに追いついた彼のマスターが到着したようだが…。


「留香、お前はついてくるなといっただろ!」


 凛華の猛攻を退けながら、リオンは彼女の呼びかけに答える。


「その女…お前のマスターだな?NO.03」


「そうそう。そういうキミは………違うね。違う………まったく、退屈な存在だよ。君の魔術は…そうだな、例えるならばザル…スカスカで、術者の精神をそのまま表しているかのようで………」


 留香は凛華に向けて指を指す。


「脆弱そのものだ」


「黙れ…黙れ…黙れ黙れ黙れッ!貴様に私の何がわかる!」


「わかりたくないね、キミすごく格好悪いよ。可哀そうな魔術使いさん…自分の体に戻りなさい。戻らないというのなら…私からの贈り物だ…」


 留香はそういうと指を指すのをやめ、姿を消した。


「私に…何をした…何をしたッ!」


 NO.03に問いかけるが、NO.03は凛華を睨みつけている。


「なんだ…その顔はなんだッ!」


 NO.03に向けてラングラッドを放つが、先ほどとは違い、彼は武器を落としてしまった。


「これは…」


「いやいや、武器を構えた段階で気が付くと思ったけど…二流以下の三流だったか…私の見立てもまだまだだね…」


 再び姿を現す留香。


「留香、何をしたんだ?NO.01の体に何かしたんじゃないだろうな」


 大鎚で攻撃を繰り返していた人物が気にすることではないと思うのだが、今はそこが論点ではない。


「何をしたか、それにこたえるのは簡単だよ。彼の意識を呼び戻してあげたのと、君の彼とのリンクをより強くした。さっきまでの君は自分の意思だけで彼の体を動かしていたが、今は君の意思と君自身が動かすっていう感覚が必要なんだ…でも、そんなことできるわけないよね。だって、私が彼の意識を呼び戻したということは、君はブレーキを掛けながらペダルを回している様なものなんだからね…リオン、いまなら君の素手の攻撃でも十分だと思うよ」


「お、おい、やめろ、やめろ!やめろ!やめてくれ!」


 叫び声をあげる凛華だが、その返答はすでに決まっている。


「断るッ!!!」


リオンが武器を捨てたその瞬間に凛華の顔がひきつる。


 紅い残像が、瞬く間に凛華の懐まで近づき、


 ボディに一発、二発、三発…続く、続く、続く、続く。


 身体が左右に揺れ動くが、殴られる反動で反対側に動く。その拳による猛攻はさらに勢いをつける。感覚がつながったままの凛華はNO.01の体が感じている痛みを人間の体で感じ取っているような状態、リオンの放つその一撃一撃は乗用車による追突時の様な衝撃だ。最初の三発目には凛華の意識は途絶えていたが、リオンはそれに気が付いていなかった。


 紅蓮に染まるその拳を身体に叩き込まれる。 鎧などは砕け、その一撃がNO.01の体に叩き込まれる。


「もう…そこらへんで勘弁してくれないかな…リオン…思い出した…私は…なんて事を…」


 意識を取り戻した、NO.01は、リオンの拳を受け止めたあと、膝をつく。


「いいから。 アンタは俺が安全なところへ運ぶ」


「よかったね、リオン。君の大事な人を取り戻せたみたいだ」


「ああ、ありがとう、留香。君のおかげで取り戻せた…感謝してもしきれない。俺は…何としても君を守ろう」


 リオンは留香の顔を見つめながらそんなセリフを放つと、留香が顔をそむける。


「そ、そうかい?私はキミのマスターだ。キミのしたいことを私が助けることがあっても不思議じゃないだろ?私たちはそういう関係…絆でいい。帰ろう、リオン。その人は私の実家に一時隠そう。事情を話せばわかってくれるさ」


 ここに一つの戦いが終わった。だが、リオンの戦いはまだ始まったばかりだ。他のNO'Sに伝えなければならないことがある。信じてもらわなければならないことがある。だから、それをなすまで彼の戦いは終わらない。

………

……

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