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螺旋の世界ー終焉に至る者ー  作者: 姫御護来兎
一章『龍の槍』
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その在り方を否定する(5−1)

 放課後、寄り道せずにまっすぐに部屋に戻り、しばらくの間(二時間くらい)飛燕の帰宅を待ったが、帰ってくることはなかった。


「待っていても仕方がない。NO.11、僕たちだけで行くぞ」


 光と戦うことになったあの日と同様、胸当てと、槍を装備し、前回とは別の道を見回ることにした。


「準備はいいか?」


「はい、いつでも。 今回はNO.09の探索、感知はありませんので、敵の奇襲があった場合はこちらが一歩遅れますので、マスターいつも以上に警戒は怠らないでください」


 わかった、と一言返し、玄関の扉を開け、左右の通路に人気がないことを確認すると、一息に3階の階段室まで走る。


「ここはいつでも余裕だな」


「瑛、1階に人の気配です。 2階にて緊急離脱を」


 2階から1階への飛び降りを普通に進言してくるあたり、瑛の運動能力を信用しているのだろう。この前の光との戦いは悪いことばかりではなかったようだ。


「了解、次、右に曲がる」


「なにッ!? 瑛、2階に人の気配です。こんな突然に………」


 NO'Sの感知能力を逃れるとは…いったい誰だ? だが、こんなところで足止めをされるわけにはいかない。


「NO.11は戻って3階から外に出ていてくれ。僕は対象をやり過ごした後に予定どおり、2階から出る」


「わかりました。では、先に行って待っています」


 NO.11は降りてきていた階段を再び上り、少し離れたところから1階に下りるのだろう。気配がどんどん離れていくのを感じる。さて


「いったい誰だ? こんな時間に…」


 走って階段を下りるのはかえって怪しまれるだろう、と判断し息を整え、歩く速度で階段を下りはじめ、2階に下り右に曲がると、


「瑛…こんな時間に何をしている」


「なんだ、円陣か。お前こそ、こんな時間に何をしている」


 そこにいたのは優菜の友達の円陣 留香が、なぜわざわざ気配を消していたのにもかかわらず、急に現れたのか。


「私は、優菜の家に遊びに行った帰りだよ。 瑛はこんな時間に何処に行くんだ? キミは剣崎の様に夜遊びに興じる様な奴だったかい?」


「僕はただ、売店に行くだけだよ」


 と言って、その場を後にしようとしたが、


「その割には随分と急いでいた様だけれど?」


 足音はキッチリと聞いていた様だ。NO.11の存在にも気が付いていたのだろうか…。


「そういうお前も、気配を消していた様だけれど?それは僕の気のせいか?」


 それを言うか、という様に留香は目を細める。その目つきは何処かにらんでいる様に見えるが、そういう訳ではない。


「それは…お前の勘違いだろ。じゃ、また明日。お休み、瑛」


「ああ、お休み」


 留香と別れ、瑛は1階に降りて行った。


「今夜も、また何かありそうだ………そうだね? NO.3」

………

……


 1階に降りた瑛はすぐに寮から抜け出す裏口へ向かい、すぐに学院の敷地から外に出る。


「待たせたね。あたりの様子はどうだ?」


「私の感知できる範囲にNO'Sの反応は感じられません」


 NO.11は周辺に異常はないという。


「今日は病院の方に行ってみよう」


「病院…医療施設ですか、敵が拠点とする可能性は無い様に思えますが…瑛の指示に従いましょう」


 一言余計だと思ったが、口には出さずに、病院のある方へと向かう。


「飛燕は一体どうしたのでしょうね?理由も言わずに来ない様な人には見えなかったのですが…」


「そんなこと言われても、わからないよ」


 二言、三言話すと会話が途切れる。こんな時に飛燕のありがたみがよくわかる…飛燕は何処に行ったのか、瑛の中にはその真相のつかめない謎がもどかしく感じさせる。長い沈黙のせいか、思いの他早くたどり着いてしまった。


「このあたりは病院のある方面だ。何かわかるか?」


 NO.11の感知能力の範囲はおよそ学院の敷地内全域程度の広さ(半径4キロ程度)だという。近くに誰かがいればそれはすぐにわかるだろう。


「そうですね…NO'Sと思わしき気配は感じませんが、学院の中で感じた一際強い気配を感じます」


「それを、早く言ってくれ!」


 学院の人間にばれたらただ事では済まないだろう。こんな時に相手が宗ならどうということはないのだが………。NO.11は相手がどんどん近づいてきているという、病院の敷地内に入り、身を隠せる場所を探し、背丈よりも少し低い草木が生い茂る一角があったのでそこに飛び込む。


「ここまでくれば大丈夫だろう………さっきの奴はどうだ?」


「順調に追いかけてきますね。瑛と同等以上の身体能力の様です」


 そんなことまでわかるなら気配を察知したのならすぐに教えてほしいものだ。


「何処まで来ている?」


「すぐそこに、もう少しで姿が見えます」


 草木の間からその相手の様子をうかがう。


「あいつか?」


 瑛にとって、いや学院に関わる者でこの者と争おうとする者は決していない。この者の存在は対する者にとっては両極端な評価となる存在であった。

………

……


 学院から遠ざかろうとする存在を感知し、学院最強の男、霧夜 桐吾はその者達を追うように自室のドアを開いた。


 その者達を必要のない危険から守るように、また、町の危険を排除するために。


「全部で5人か、おそらくだが、常習犯の剣崎、燕条(瑛)は確定だな。あとは、素行の良くない転校生(紅兎 光)に…まぁ、ここで待っていればわかることだが、そんな猶予は与えてやらん」


 最強の男の狩り(制裁活動)が始まった。桐吾の部屋は寮の5階にある彼はそこから早歩きで階段を降りていく。


「さて、まずは、情報を集めるか…」


 寮の廊下、やその周辺にいる生徒の気配は数人…。


「消灯時間前だから見過ごしてやろう…さて」


 4階の廊下に学院生を発見できずに、3階に降りる途中、2階から3階に常人ならざる速さで駆け上がる気配を感知し、桐吾は急ぎ、その者の姿を視認しようとするが、捉えられたのはその影だけだった。


「ほぉ、龍閃、剣崎以上の身体能力か…発見次第、勧誘(拘束)するか…さて、このまま奴を追ってもいいが、下に降りるか…誰かいるようだ」


 窓から姿を消した何者かをそのまま追わずに、桐吾はひとまず2階に降りた。


「神宮寺か、こんな時間に何をしている?」


「貴方を待っていたんですよ。 探しているんでしょ?抜け出した愚か者を…」


 自分以外を屑だとでも思っている様なこの男、神宮寺烈(ジングウジ レツ)、彼は桐吾の好む種類の人間ではない。


「俺が聞く前に他人を売るような奴の言葉に俺が耳を貸すとでも思っているのか?」


 睨みながら、烈に警告する様に問う。先ほどの影も追おうと思えば追えたのだ。わざわざ時間をとって聞く必要はない。


「いいえ、そうは思いませんよ、ですが…知りたくはないですか?」


 桐吾の視線に臆さずに話を続けようとする烈に、


「しつこいぞ、神宮寺。お前には聞かない。3人は知り得ている。後2人いると思うが、それは俺が自分で見つける。お前はさっさと部屋に戻れ」


 最終警告を言い放ち、桐吾は烈をその場に残し、2階から1階に降り。


「さて…では、行くとしよう…」


 不思議なことに、学院を抜け出した者たちが向かった方向は同じであった。


「病院方面か…あちらに何があるというのか、それは俺の知り得るところではないな」


 病院の方へと向かう。


 途中、何事かあるかとも思ったが特に何も起こらず、期待していた様なアクシデントは発生しなかった。


 霧夜 桐吾は飢えている。今の退屈な現実に嫌気がさしているといっても過言ではない。


 町の危険を排除するだとか、学院生徒を守るだとか、そんなことを彼が進んで行おうと思って行っているわけではない。

 彼は待っている。


 現実が外れるその時を、自らそちらの方向へと進もうとしているのだ。


 現実から外れたその時は彼が彼の知りうる手段でそれを解決するであろう。


「―――ここら辺から病院の区画だな。やはり、このあたりにいるな…。あいつら…」


 あいつら、というのは燕条 瑛、剣崎 宗の両名の事である。気配だけで感知できるあたり、霧夜 桐吾という存在が常人の規格から外れてしまっているということは間違いようのない事実である。


「分かりやすいのは―――こっちだな…2人いるようだ…」


 はっきりととらえられた気配の方へと歩いていく。 向こうもこちらの気配に感知したのであろう。


「このあたりにいるのはわかっているッ。無駄な抵抗はせずに出てこいッ!」


 声を張り上げ、身を隠している奴らに自分の存在を知らしめる。だが、それに対する応答はなかった。

………

……

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