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夢見た君に  作者: 透義
5/13

評判占い師


いつもより少し遅めの朝食をとっている土曜の朝。

滅多に使うことのない家の電話が鳴った。

「もしもし」

【正?お母さんだけど】

「ああ、何?」

【直純ちゃんが、沖縄土産たくさん持ってきてくれたから、取りにいらっしゃいな】

「……あいつらこの前は北海道土産持ってこなかったか?」

【そう。今度は沖縄。次は大阪だってー】

「へぇ……。わかった行くよ。えーっと昼くらいになるから飯あてにしていい?」

【冷やし中華でいいならね~】

「ああ。じゃ、あとで」

夏からしばらく続く手抜きシリーズか、とは言わずにおいて、通話を切った。

直純、というのは俺の従兄妹である。

一人の名前のように見せかけて、兄の直、妹のじゅんの双子のことを親戚ではまとめてそう呼んでいる。

二人は今大学二年生で休暇の度にあちこち飛び回っているようだ。

俺は一人っ子だから、そういう兄妹仲を見るにつけ羨ましく思う。

とは言え、一番年が近いあいつらと俺は傍から見たら兄弟みたいなもんなんだろうが。

実家に行く前に、掃除やら洗濯やらのたまりものを片付けることにするか。


***


電車とバスを乗り継いで、一時間半の実家に到着したのは、一時頃だった。

「おかえりー。冷やし中華冷蔵庫にはいってるから。自分でやんなさーい」

「はいはい……靴なかったけど、親父は?」

「林さんと釣りに行ったわよ」

TVから視線をはずさないままおふくろが返事をする。

これはしばらく放っておいた方がよさそうだ。

台所のテーブルについて、冷やし中華を食べながら、俺も同じようにリビングのTVをしばらく眺める。


「あ、そうそう」

番組がひとつ終わったところで食器を片付けていると、背後から思い出したと声が上がった。

「あんたの近所に有名な占い師さんいない?」

「は?占い師?」

なにを唐突に、と振り返ると、思ったよりおふくろはすぐ近くに来ていた。

俺が洗い終わった食器を拭こうとふきんを取り出している。

「そう。メディアには出ないけど、かなり凄腕らしいの。どこかの小ぢんまりとした家で営業してるみたいなんだけど、その近所の写真があんたの家の近くっぽかったのよ。ほら、スーパーのあたり」

「勘違いじゃないのか?写真ってなんのだよ」

「ネット。あ、なんなら今見る?」


おふくろは、かなりのネット人である。

俺は必要時以外あまりパソコンには触らないからわからないが、それなりに、いや、50代に突入した主婦とは思えない使いこなしぶりである。

ヘタしたら俺より知識は上かもしれない。

親父は初め、それに対して『若者かぶれだ。みっともない』とあまりいい顔をしていなかったが、ある日ネットの懸賞か何かでグアム・ペア旅行を当ててきてからは何も言わなくなった。

~詐欺だとかそういうトラブルにならなければ実益を得られるものだとわかったらしい。

今や丸くなった親父は、趣味の釣りをサポート―ネット通販やオークションでいい釣り用具をゲットだとか―してもらって毎日楽しそうである。

心置きなくパソコンに向かえるようになったおふくろは言うまでもなく、だ。


パソコンを立ち上げたおふくろは、目的のページにたどり着いたらしく、俺を手招きした。

画面を覗きこむ。


[今日、かねてから打診していた占い師さんのところへ行ってきました。

本当にこの人はすごいです。

1を言う前から10を当てられる感じ。

怖いくらいに私のことを知っていました。

肝心の、悩みの種のことも、わかっていて、道をいくつか示してくれました。

こうしなさい、ああしなさい、っていうTVに出てくる占い師たちより、万倍、頼りになる人でした。

(占いに依存する人にとっては、不満でしょうが)

相応の支払いはしましたが、感謝の気持ちとしては足りないくらいでした。

私は、偶然にも縁あって、こういう機会に恵まれましたが、伝手がないと、この人に会うのは相当難しそう。

申し訳ないですが、私では渡りはつけられませんのでご了承ください。

ただ、このブログ中にいくつかヒントは隠してあります、とだけ書きます。

最後に、この方の近所を撮影したので、載せておきます。

占い師さん、本当にありがとうございました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

追記:写真はNGとの通達がありましたので、下げさせていただきます。

ご迷惑おかけしまして申し訳ありませんでしたm(_ _)m]


「写真、なくなってるみたいだぞ」

「え、ホント!?」

俺をどかして画面をさらったおふくろは残念そうに肩を落とした。

「ホントだ~……。でもカンガルーのマークの歯科医看板があったのよ?住所まではつぶれてて見えなかったけど」

確かに、近所のスーパーの駐車場付近にはカンガルーマークの看板がある、が、

「そんなの、全国探せばたくさんあるんじゃないか?それに、占い師なんて探してどうするんだよ」

言外に、『今悩みなんてないだろ』と含める。

「それは~、近くにすごい人がいるなら是非見てみたいっていうか~、別にいいじゃない。占い好きなのは女の性よ!」

女性でくくったら色んな方面から苦情が来そうだと思ったが、それを言うとまたキャンキャン文句が返ってくるとわかっているので、流しておく。

「とにかく。俺は知らない。占い看板が出ているわけじゃないんだろ?近所だとしても、それじゃわかんないだろ」

「う~ん……それもそうね。でも!もしいたら教えなさいね!」

「はいはい。んで、沖縄土産どこ」

「あら、もう帰るの?」

「買い物してくから」

「そう。階段のとこにあるから全部持ってっちゃって」

言われて、取りにいくと、大きめの箱が二つ。

「え、これ二つともか?」

「うん。お父さんの会社にも持って行ったし、うちの分もとってあるし」

「あいつら、なんでこんな量……」

「それが、笑っちゃうんだけど、現地別行動してた時に、それぞれ同じ物を同じ数買っちゃったんだって!双子恐るべしよねぇ」

だから二つずつ、というわけか。

「二卵性って、そういうの関係あるんだっけか…………」

「知らないけど、それはあんたの担当。余った分は会社とかご近所で配ればいいじゃない」

そういわれ、明日の合コンに持っていくか、と思う。

ああいう場で土産を配るのはなんだかシュールのような気もするが、別にかまわないだろう。

近所、という言葉に上田さんが浮かんだ。

渡さなきゃダメだよなぁ……。

「わかった。もらってく」

苦い気持ちになりながらまとめて渡された紙袋につっこんだ。




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