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夢見た君に  作者: 透義
13/13

先見の姫



「おはようございます」

「おはよ~。待たせちゃったかな?」

駅前の待ち合わせ場所で、集合時間5分前に河合さんとヨーコさんが一緒にやってきた。

その後ろから水村が走ってくる様子が見える。

「いえ、水村がラストですから」

「はよーございます……」

ぜぇぜぇと息を切らしながら手を膝に当てて休みながら水村が覇気のない声で挨拶する。

「そんなに急がなくても遅刻じゃないぞ」

「…いや、……2人の姿が見えたから…………待たしちゃいかんだろう男として!」

苦しそうにあえぎながらも言うことは一見立派である。

だが、水村の息が整うのを待つロスタイムと、普通の速さで歩いてきた場合のロスタイムは、果たしてどちらが長いだろうか。

口に出すとやぶ蛇なので心の中のみに留めておく。

「ていうかお前はいつも早すぎだろ……今日は何分前に来たんだよ」

「十五分前」

「はいはい、さすがですね内藤君……」

さすがもなにも、いつも誤解されがちなんだが、俺がいつも早く集合場所に到着するのは、別に几帳面だからってのが全てじゃない。

簡単に言えば、小心者なのである。石橋を叩いて渡るという諺があるが、ヘタをすると石橋を叩くだけ叩いて結局渡らないほど慎重になる癖があるというか。

だからこういう待ち合わせでも、ざっと所要時間を計算した後に、なにがあるかわからないから、と1分足し、2分足し、3分足し、結局家を何時に出ると決めていても、数分前に出発したりするんだ。

その分遅刻するなんてことはほぼないが、代わりに、一人でぼーっと突っ立ってる時間が長く暇になるわけで、まぁそこのところは言及しないでおこう。

「水村、そろそろ大丈夫か」

「おう。行きましょうか」

頃合を見計らって促すと、水村は立ち上がって女性陣を誘って先頭をきった。

なんとなく、所定の位置というものに収まって並んで歩き出す俺たち。

所定というのはまぁ、水村とヨーコさん、俺と河合さんがペアになるだけなんだが。

「何かいいことでもあった?」

「え?」

程なくして河合さんが聞いてくる。

「昨日と随分様子が違うなぁって」

「あ、……昨日はホント、すいませんでした」

「いえいえ。お気になさらず」

昨日の無礼を思い出して謝ってみるが、河合さんは特に気にした風もなく。

言い回しに噴出して2人で笑う。


本当に、どういうわけだか、起きたら何故か気分がすっきりしていたのである。

開き直ったとでもいうのだろうか、我ながら単純なつくりで驚くばかりだが、感謝もしている。

オンオフの切り替えはしっかり行いたいものだが、同じような例で、遊ぶ時は遊ぶ、落ち込む時はとことんまで落ち込むことが結構重要だと俺は思っている。

そうすれば余計なストレスを変なところで抱えることもなく、また日ごろの鬱憤があったとしてもこまごまとした所で発散していける。

昨日は極致まで落ち込んでしまったので、それを補う為に楽しむことへ全力投球できるように体のスイッチが勝手に切り替わったというか、おかしな表現ではあるが、そんな感じだ。

なので、今日はとことん遊ぶ日なのである。煩わしいことは忘れて思いっきり楽しんだもの勝ちというわけだ。


ジェットコースター3本、バイキング、ゴーカート、メリーゴーラウンド、オバケ屋敷。

午前10時に入園して、現在午後3時まで乗りこなし、体験したアトラクションのラインナップである。

キャラクターモチーフの遊園地なんて子供騙しのアトラクションしかないと思っていたのだが、これがなかなか、楽しめるものが多かった。

なかでも、オバケ屋敷にはどういうわけか年齢制限を設けてあり、10歳未満の子供は入場禁止だった。

これは一体どんな恐ろしいことが待ち受けているのかと期待半分恐れ半分で入り、結果、……なんというか、すごかった。

オバケの動きがとにかくハードなのだ。

半ば本気で逃げなければ追いつかれるんじゃないかという恐怖体験を味わって、ああ、これは子供は怪我をするな、と思った。

大人でも危ないんじゃないだろうか、いつか閉鎖に追い込まれる気がする、あのオバケ屋敷は。

俺と河合さんは全部一通り1回ずつアトラクションをまわっているが、その間も水村とヨーコさんのペアは何回もジェットコースターに乗っているだろう。

途中昼の時間に一度合流したが、水村は完全グロッキーで、この後も絶叫三昧だから飯は無理とまで言って気持ち悪そうにしていた。

それでもきちんとヨーコさんについていくのはさすがというかなんというか。

その根性と勇気に敬服するばかりである。

そろそろ遊ぶものもなくなってきたので、休憩を挟んでもう一度行きたいものを検討しようかという話になった。

園内のレストランに入りお茶にしようとしたのだが、どこもかしこも遊びつかれた親子連れなどでにぎわっており、やはりテイクアウトをとり外のベンチでスナックをつまんだ。

「とりあえずオバケ屋敷は決定よね。あれはすごすぎたわ。癖になる」

はしゃいだ様子で園内パンフレットを膝の上に広げた河合さんがその地点を指す。

「じゃあそこ終わったら、ヨーコさんたちヒヤカシに行きましょうか」

その近くにあるジェットコースター―ヨーコさんが熱弁していた―の地点を指し返し、俺も提案する。

「そろそろ水村がダウンしてる気がしますが」

「……そうね、まだ乗れてたら本当にすごいわ。ていうかヨーコは化け物だわ」

昼食時にすこぶる絶好調だったヨーコさんを思い出して唸る。

「なかなかの猛者ですよね……」

もはや苦笑しかでないが、とにかく元気だった。

「ん~、あとは~、この」


プルルル プルルル


「あ、私かな、ちょっとごめん」

大きめの電子音が響いて、河合さんが鞄から携帯電話を取り出した。

相手の名前を見て一瞬驚いたような、それでいて予想していたような顔をする。

通話らしく、ベンチから立ち上がろうとするのを制して俺が立つ。

「俺、ゴミ捨ててきますよ」

「待って、いいから、ここにいてくれる?」

電話をするなら、と適当な用事で離れようとしたが、引き止められた。

俺の怪訝な表情を見ただろうに、河合さんはそのまま、ほんの少しだけ距離をあけて通話をはじめる。

「もしもし、梓?どうしたの」

「!?」

たった一度、その名前を耳にしただけで、雷に打たれたように身動きができなくなった。

同時に苦い気持ちがこみあげてくる。

俺は朝から必死に、彼女のことを考えないようにしていたのに。

頭の片隅にはずっと強く存在していたけれど、それを意識の中にいれないように細心の注意を払って、俺は笑っていた。

せめて今日一日だけは、その痛みから逃れようと、あがいていたのだ。

明日からその苦しみを抱えていけるように、ほんの少しだけの休息を得ようと、していた。

それなのに…………それすらも許されない。

名前が聞けたことだけで、嬉しさと辛さがないまぜになった感情が溢れてくる。

俺は相当な末期だな……、密かに口ごちる。

「え?内藤君?一緒だけど……どうして?」

少し離れてはいたが、その声は聞こえてきた。

その中に俺の名前が出てきて驚く。つられるようにして河合さんはこちらを見て、無言になる。

「…………………………わかった。よく言えました」

河合さんは静かな口調でそう囁いて、仕方ないな、というように笑った。

なぜだかそれは、優しいマリア様のような慈愛の笑みに思えた。

「内藤君、出てもらえる?」

「?」

「早く」

携帯を差し出されてただ戸惑うばかりの俺に、河合さんは更に押し付けてくる。

勢いで受け取ってしまってから、焦って、通話口をふさいで小声で確認をとる。

「あのっ、う、上田さん、なんですよね……?」

「そうよ、梓。私の妹。あなたの隣の部屋に住んでる子」

くどいくらいに言い換えて、河合さんは俺の慌てぶりを面白そうに眺めている。

「どういうことですか?!上田さんが俺に代わってくれって言ったんですか?」

「そうよ、いいから、早く出てあげて」

「…………………………………」

いまやパニックは最高潮である、促されるままに電話を耳に当てた。

俺はもう考えることを放棄した。なるようになりやがれ。

「もし、もし……お電話かわりました……」

『内藤正さん』

「は、はい……」

初めて名前を呼ばれて驚く。おかしな話だ、これだけ面識をもちながら名前を呼ばれたことがなかったなんて。

『あなたはとてもいい加減な人ね』

「……は…………?」

いきなり電話で指名されたことで動転している頭でもわかった、なにかとても理不尽な言いがかりをつけられていることくらいは。

「どういう、意味ですか」

『お姉ちゃんとデートなんてして、どういうつもりだって聞いてるの』

「…………はい?」

『私を好きって言ったのは嘘で、やっぱりお姉ちゃんがよかったっていうことなの?』

「………………………………」

『黙って、ないで、なんとか言いなさいよ……っ』

そこで上田さんの声が途切れがちになる。雑音が、まざる。

いや、これは、雑音などではなく…………。

「上田さん、……泣いてるんですか」

『………っ、……今そんなこと聞いて、ないでしょ……』

声の震える頻度が上がって、息を必死で止める音があって、涙をこらえるような間があった。

「どうしたんですか…………俺が気に入らないなら好きなだけ文句言っていいですから、無理しないでください」

彼女の泣き顔を想像して、切なくなる。

何があったんだろう、彼女の身に、何が。

泣くのを堪えないでほしい。堪えた分、一層悲しさが伝わってくるから。

『文句なん、て、ない……私が、馬鹿な、だけ、なの……』

「上田さん…………?どうしたんですか……。俺、どうしたらいいですか」

教えてくれ。君の悲しさはどうしたら和らぐのか。俺に何ができるのか。俺にできることなのか。

じゃなければ、こんなやり取りは拷問にしかならない。

俺のせいで君が泣くことになってるなら、俺は……。

『来て。ここに。……今すぐ。お姉ちゃんなんか放っておいて!』

慟哭。泣きじゃくる声はそう叫んだ。そしてすぐに通話が切れる。


ツー、ツー、ツー、ツー、ツー、


切れた電話を見下ろしてから、河合さんを見る。

視線が合って、ずっと見られていた事を知る。

「すみません…………お先に失礼します」

電話を返して、俺は短くそれだけを告げた。

「内藤君。あの子のこと、お願いね」

走り出した俺の背後に、大きくもなく、小さくもない河合さんの声がかかった。


急いで駆けつけた部屋の玄関に鍵はかかっておらず、すんなりと入ることができた。

その時仕事部屋の方で微かな物音がした気がして、そっとそのドアをノックする。

「上田さん……?」

返事がないのはわかりきっていたから、そのまま押し開ける。

黒いカーテンの隙間から夕陽が少しだけ射す暗がりの中、押し殺した声で泣き続ける上田さんがいた。

少しだけ迷って、その背中を抱きしめて髪に頬を当てる。

こんなわけのわからない状況だというのに、その時香った髪の香りにクラクラした。

ここに来るまで、上田さんが電話で言ったことを考えていた。

『あなたはとてもいい加減な人ね』『お姉ちゃんとデートなんてしてどういうつもり』

彼女は俺のした軽率な振る舞いに怒っている、のだと思う。

俺の思いあがりでなければいいのだが。

そう切に願いながら彼女に許しを請う。

「不誠実な行いだった。自分が恥ずかしい」

自己嫌悪でおかしくなりそうだ。

思いが届かなくて、気分転換に、だなんていい訳にもならない。

それも気になっていた女性とだなんて、ふざけてるとしかいえない。

「ごめ…………なさぃ……」

「上田さんが謝ることはなにもないでしょう。俺が悪かったんだから」

「ちがう…………わかってるの。悪いのは私だって……あなたの言葉を突っぱねたのは私。なのに、今更何を偉そうにって、思ってるでしょ…………」

「そんなことは思ってない。俺は君が好きだってことを撤回したつもりはないんだから。でも……それより、どうして俺をここへ呼び出したことの方が、聞きたいな」

「お姉ちゃんと、一緒にいてほしく……なかったから。だから、あんな風、に、わざと…………」

そこまで言ってしゃくり出してしまった梓ちゃんの頭を撫でる。

「落ち着いて。確かにびっくりしたけど、いやいや来たわけじゃない。大丈夫だよ」

「でも、あなたはお姉ちゃんが好きだった……から、来てくれるなんて思わなかった」

「……っ、好きだよ。君にわかってもらえるまで、何十回でも、何百回でも言うよ」

河合さんへの思いは、【気になっている】程度だったことは既に説明した、というより彼女は見たはず。

なのにまだそんなことを言うのかと、半ば腹立たしい思いを抱きながら繰り返す。

「俺は、あなたが、好きだ」

「ぅ…………っく………私も、………好き、なの。嘘ついて、ごめんなさい…………」

顔を覆った両手越しに、くぐもった声が、確かにそう言った。

信じられなくて、それこそ、拒絶の言葉よりも信じることは難しくて、でも信じたくて、何度もその言葉をかみ締める。

「…………すごく……、嬉しいよ」

泣きじゃくって苦しそうにしている上田さんの背中をさすって、濡れてくしゃくしゃになった長い前髪を梳かす。

しばらくそうやって、彼女が泣きやむのを待っていた。


***


俺が座った足の間に上田さんが大人しく小さく収まっている。

この光景が信じられない上に、間が持たない…………。

聞きたいことだけはいっぱいあるのに、どれから尋ねていったらいいのかわからない。

「え、と、その、上田さん」

「名字、やめて……あんまり、好きじゃないの」

意を決して切り出すと、少し掠れた声がこぼれおちた。

「あ、梓、ちゃん……?」

「うん……」

どうしよう、ひとつひとつのやり取りに感動がこみあげてきてしょうがない。

ああ、そうだ、そうではなくて、ダメだ、俺も大分混乱している。

とりあえず軽い質問から崩していこう。

「えーと、俺が引越してきた時に出てきた人は誰かな、とずっと思ってたんだけど。梓、ちゃんも、あの時住んでたんだよね?」

「あれは・・・・・・、母親」

「・・・そんな、まさか……あんなに若く…………見えるのに?」

コクン、と頷く梓ちゃん。

「正真正銘、実母」

「へ、へ~、そうなんだ……」

ま、待てよ。

梓ちゃんの母親ってことはつまり河合さんのお母さんでもあるわけだろ?

26と、19の子供がいて、30代の外見!?化け物か!?

口には出さず、びっくり家族の存在に唖然とした。

こんなこと言ってはなんだが、河合さんが唯一マトモだったということだろうか。

「じゃあ、次、昨日まで行っていた場所は、○×山寺、でいいのかな」

「……なんで知ってるの?」

「あ、ああ、いや、おふ、母がさ、ネットで見たみたいで」

「そう……。○×山寺は、私が一時期お世話になってたところなの。恩があって、頼まれたから行ってきた」

「そっか」

一時期世話になってたっていうのはどういうことだろう。

また聞きたいことが増えてしまったけれど、とりあえず先へ進む。

「えぇと、嘘をついた、ってさっき言ったよね。それはなんでかな……それがなかったらもっとスムーズにいってたってことだよね」

「ごめん、なさい……」

「あ、ああ!違う、ごめん、梓ちゃんを責めてるわけじゃなくって、なんでかなと」

「力が消えるのが、恐かったの……」

ぼそぼそと呟く。

「夢で、あなたと一緒にいる未来を見た。でもその私は、力がなくなってた……未来を見ることも、誰かの考えを読むことも…………。だからあなたが原因だと思って、認めたら、力がなくなると思って、」

「それで、離れようとしたんだね…………。でも、こうやって打ち明けてくれた」

「お姉ちゃんと一緒にいるあなたを、さっき、見たの。そしたら、もう、無理だった。自分を偽るのも。あなたを傷つけるのも。もう、辛かったの……」

その時の感情がまたぶり返したのか、鼻をすすって顔をうつぶせる。

俺は頭をそっと撫でて言う。

「ありがとう…………。最後の質問、いいかな」

コクン、とゆっくり頭が上下したのを見届けてから、いよいよ核心に迫ってみる。

「俺のこと、いつから好きになってくれてたの?」

「…………はじめから」

「はじめって、えーっと……あの、初めて会った時、かな」

はじめと言えば、ゴミ出しを止めた現場……だとしか思い出せないんだが。

まさかそんな時から?

「もっと、ずっと前」

わけがわからなくて、返事すら返せずに思案をめぐらせる。

それ以前に梓ちゃんと面識を持ったことなんてあっただろうか。

こんなに印象的な人は、後にも先にも梓ちゃんくらいなものだが……まっくろ装備と美少女、だなんて。

これを思い出せないとなると俺は記憶障害を疑わなければならなくなる。

「夢で、見たの。2,3年前くらいに。もうその時に、どんな人かはわかって、その日から、好きに、なってた。まだ会ってもいないあなたを」

じわりじわりと、言葉を咀嚼して脳に浸透させる必要があった。

だって俺には梓ちゃんのいう【力】なんてないわけだし、それを自分の身に引き寄せて考えるまでには少しだけ時間がかかった。

「そんな、前から」

「こんなに馬鹿正直で、ストレートで、純粋な人、いるわけない、って思ってた。

夢の中のその人はただの夢の中の人だと思いこんでて、だからあなたが隣に引っ越してくることを知った時は本当にびっくりした。

本来は、自分の未来の夢はあまり見ないものだったから。

それでもたまたま見た目が一緒なだけで、そんな人間いるわけないって疑って、観察して、……でも、やっぱりそのままだった。

私にとってあなたは、私がはじめて驚いたプレゼントだったの。それも最高の」

淡々と、戻ってきたいつもの調子で語られる長い独白の内容が愛の告白だなんて、見た目からではわからないだろう。

そして俺は今、天にも昇る気持ちだった。

その思いのまま、梓ちゃんを抱きしめる。

もうこうする他、俺の感動は伝わらないと思った。言葉じゃ全然足りないんだ。


世の中には俺の知らないことがまだまだあって、その中の一つが、梓ちゃんの持っている【力】。

人智の及ばない不思議な能力について、俺は今まで全く知らないで生きてきた。23年間。

その力で苦しんできた梓ちゃんが、その力で生計をたてるようになって、その力で俺を知った。引き合わせてくれた。

おかげで俺は最愛の人を得ることができたわけで、なにかわからない不思議なものも、この世に存在するのは意味があるんだなと思った。

むしろ、不思議な力サマサマだ。俺は今多いに感謝している。梓ちゃんにその力を授けてくれたどこぞの神様か何か、ありがとう。


リリリリリン リリリリリン


突然なり響いた俺の電話に、梓ちゃんがびくりとする。

まぁ驚いたのは俺も同じだが。

切ろうと思って取り出した電話だったが、相手の名前を見て取ることに決める。

「ごめん、ちょっと出るね」

梓ちゃんに断ってから通話ボタンを押す。

『正兄~!明日からの○×山旅行だけど、何時から行く~?』

「悪い、純、旅行はキャンセルだ」

『え、えー!?嘘ー!?』

「悪いな、探し物は、見つかったから」

簡潔に告げると、すぐ近くにいたらしい直に大きな声であてつけの愚痴を叫んでいる。

『も~!!今度は絶対どっか連れてってよ!?』

「はいはい、今とりこんでるから、切るな」

通話を切って携帯をまたしまうと、梓ちゃんがおずおずとこちらを見上げる。子犬のような視線が可愛い。

「誰か、聞いてもいい?」

「愛すべきいとこたち。いちいちテンションが高くて面白いんだ」

ふ~ん、とそれだけの感想をついている。面白さは【見て】もらえばすぐわかると思うんだけど、まぁそれは今度でもいいか。

親戚にはまだ面白いのがいるし。例えば、

「梓ちゃん、今度俺の母に会ってやってくれない?」

「え?」

「評判の占い師にすごく会いたがってたんだ。ダメ?」

「……会うだけ、なら、…うん」

「占いはダメってこと?多分喜ぶと思うんだけど」

「それは…………わからないの。今は」

なんだか聞いているこちらもわからないが、梓ちゃんが言うならそうなんだろう。

それはともかく、善は急げ、明日の予定は決まった。

おふくろの下へ梓ちゃんを連れて行き、こう言ってやろう。


「俺の好きな人、上田梓さん。おふくろが会いたがってた評判の、俺の、隣の占い師、だよ」と………………。




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