第5話「要らないのなら」
とんでもない誤字がありました……。
修正前に読んでしまった方、すみません。
魔王は病に冒されている。
少しずつ考えることができなくなる病気なのだと彼は言った。
いつまで自分という器を保っていられるかわからない。
しかし魔王であることはやめられない。
約束があるのだと彼は言った。
それまで、魔王でいるために彼は自分に魔術をかけた。
百日の間だけ、病の進行を鈍らせる。
そのために必要な術式を組むために、魔王の分だけの魔力では足りなかったのだという。
だから彼女の魔力を借りた。
……それはおかしい。彼女には魔力なんてないはずである。
二世代目以降の混じりものが紫の瞳を持たないことは知っているか、と彼は聞いた。
彼女の遠い祖先に魔族がいるのだろう、魔力はゼロではないと言われ、彼女は微妙な顔をする。
魔術を保ち続けるために、彼女は彼のそばに居続けなければならない。
それはすなわち、魔王城で暮らし続けるということ。
魔王の器が彼にとってどれだけ大事かは知らないが、迷惑な話だと彼女は思った。
要らない命なのだろう、なら俺がもらってもよかろう。
そう魔王である彼は言う。
彼女は言い返せずにしかめ面を作る。
百日の間、魔王の魔力の糧となる。
行く場所はないから、彼女は渋々その条件を受け入れた。
彼が魔術をかけたのは、二人の出会った雪の森。
もう既に二夜が過ぎた。
残された時間は、長くて短い。