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忘却の魔王と百日の夜  作者: 芍薬
1月目
5/22

第4話「リルファーリア」

「まあ、いいですけどー。主、色々と説明が足りてないと思いますよ。あの石化をといてあげてくださいよ」


ジェンが、驚きのあまり固まってしまっている少女を示した。

それに対してイェリアオークゼルヴァルドは、大真面目に言う。


「リルファーリアはどうだ」

「人の話は聞いてくださいね」

「リルファーリア、リィ」

「それって長い名前つけた意味あるんですか」


「リルファーリア……」


名前。

その響きは少女の胸にすとんと落っこちた。

別に必要ないと思っていたけれど、その音の連なりは色づいて鮮やかに聞こえた。


名前をつけようなんて、初めて言われた。

名前をつけてくれる人なんていなかったのに。


何も言えない少女に、イェリアオークゼルヴァルドが呼び掛ける。


「リィ」


私の、名前。


「……リィ?」


私だけの。


少女はゆっくりと噛み締めた。

抱いた思いは、言葉にならない。

上手く説明することなどできない。


「イェリアオークゼルヴァルド」

「ゼルでいい」

「ヴァル」


あえて許されたのとは違う略称で呼ぶ。

ちっぽけな反抗心だ。


「理由を教えてよ。どうして私を連れてきたの?」


聞いてもいいと思った。

まだ、心を許したわけではない。それでも、どこか大事なところに響いたのだ。

にこりともしないこの男が何を考えていたのか、聞いてみてもいい。


ヴァルは僅かに眉を寄せた。


「……下心だ」

「はぁ?」

「ちょーっと待った! 主、誤解を招くような言い方はやめなさい。違うでしょ」


ジェンが割って入ってきた。

慌てたように撤回する。


「主、下心じゃなくて、もっと言い方があるのでは。言葉は選んでくださいよ」

「選んでいるが」

「伝わりませんよ!」


やいのやいのと言い合いを始めた主従を尻目に、少女は「下心……」と呟く。

予想外すぎた。


「下心だ。百日も城に拘束するんだからな」


事も無げに言われた台詞の意味が一瞬わからなかった。

瞬き、少女は聞き返す。


「百日もって……どういう、こと?」

「言葉の通りだ。リィは百日の間この城から出られない」

「どう、して」

「こちらの事情で、リィに意識がないときにそういう魔術をかけた」

「だからなんで」

「必要だからだ」


さっぱり要領を得ない会話を繰り返していると、ジェンが割り込んでくる。


「それを説明するには、魔王という器についても話さなきゃだね」

「器……?」


話がよくわからない。

眉間にシワを寄せた少女を見て、主従が顔を見合わせる。

ヴァルが代表して口を開いた。


「……今夜はもう遅い。続きは後日だな」

「後日って」

「時間はあります。急ぐことはないでしょう」


もう説明する気がないらしい主従は、話をやめる。

少女はその態度に不満を抱いた。

結局後回しにされただけではないか。


今一つ納得のいかない思いを抱いたまま 、少女は部屋に追い返された。

そちらが呼んだくせに、と思ったが、部屋に戻る。

部屋のベッドには、畳まれた白い布が置いてあった。

広げてみると、洋服のようだった。着替えに使えということだろうか。

色々と説明が足りないと感じたが、思い直して服を着替える。


潜り込んだベッドは、極上の暖かさで少女をつつみこんでくれる。

こんな寝床で寝るのは初めて、と堕ちていく意識のなかで思った。

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