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忘却の魔王と百日の夜  作者: 芍薬
1月目
2/22

第1話「目覚めたいと、思ってはいなかったのに」

 真っ白の布団。

 ふかふかの毛布。


 ……私は夢を見ているのだろうか。


 真っ白な天涯つきのベッドで身を起こした少女は、状況がわからずに呆けた。


 ここは何処だ。


 少女の知らない場所であった。

 壁も床も天井も、黒一色に塗り潰された部屋に、目にも鮮やかな白色の家具。

 一瞬、世界から色がなくなったかと思ったが、暖炉には紅い火が点っている。


 おかしい。雪の森にいたはずなのに。


 凍えていたはずの自身の手に目を落とす。

 赤くひび割れ霜焼けした手を確認して、夢ではないと悟る。

 服は、所々ひっかけて裂けた元の服のまま。清潔な寝床に汚れた自分の姿があまりにも不釣り合いだ。


 意識を失っている間に何が起こったのか、掴みかねて少女は首を捻る。

 状況がわからない。


 一番最後の記憶は、森の中で凍えていたことだ。

 ……いや、その後に何かあったような……?

 よく思い出せない。


 少女が頭を抱えていると、不意にがちゃりと部屋の戸が空いた。

 びくりと少女は身を震わせた。

 警戒して窺い見れば、入ってきた人物は少女を見て、ぱちくりと瞬いた。


「おや、起きてる」


 まだ若い男性に見える彼は面白そうな顔をした。

 少女が無言で見返すと、彼は口許を笑みのかたちに歪める。


「そう警戒しないでほしいなあ、人間のお嬢さん。取って食いやしないよ」


 彼は魔族だ。少女の勘がそう告げていた。

 魔族とは人間とは違い、魔力を持つ種族だ。

 姿かたちはよく似ているけれども、両者は別物である。

 相容れない種族として、お互いのことには深く干渉しないのが鉄則であった。


「目覚めたなら、一緒に来てほしいんだけど。お嬢さんを呼んでる人がいる」


 少女がうろんな眼差しを向けたままでいると、彼は溜め息をついた。

 ベッドに歩み寄ると、聞き分けのない子供を見るように目線を合わせる。


「あのね、聞きたいこと、あるでしょう? 俺はあくまでお使いだから、本人に聞いて欲しいんだけど?」


 少々ムッとした少女は逡順の末、布団を抜け出した。

 別に今さら何も怖くない。


 裸足で床に降り立てば、足元に履き物が差し出されていた。

 少女の持ち物ではない。

 面白みのない白色の布靴だ。


「足元が汚れるからね」


 飄々と嘯く彼を、彼女はやはり信用ならない思いで眺めるのだった。









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