異母妹から「王子様と婚約して、あたしに譲って」と言われました。
ロバータはロバートソン家の跡取りとして、幼い頃から教育を受けていた。
五歳の時には外国語を一つマスターし、母親が亡くなった10歳の頃には3ヶ国語をマスターしていた。
順調に当主として必要な教育を受けていたロバータだったが、その母親の死によって、人生が大きく狂うこととなる。
ロバータの母親が亡くなった翌日、父親は継母となる女性と異母妹を連れて来た。
ロバータにとっては、大きな衝撃だった。仲が良いとは言えない両親だったが、まさか、父親がロバータと歳の変わらない異母妹がいるとは思わなかった。
「ここが、これからあたしの家になるのね!」
大喜びの異母妹。
「お母様とは呼ばないで。あの女の娘の母親にはなりたくないから」
拒絶する継母。
「お前の部屋はボボに譲るように」
「・・・はい」
部屋を取り上げる父親。
ロバータは嫌な予感がした。自分の部屋を譲らされるということは、母親が使っていた当主夫人の部屋は継母が使うということになる。まだ、母親の物が残っている部屋が。
「ボボにあの娘の部屋を使わせるなら、わたしはあの女の部屋を使わないといけないの? 嫌だわ、そんなの。あの女が使った物なんか、使いたくないわ」
継母は心底、嫌そうにそう言って、別の部屋を要求した。
その言葉にロバータは安堵した。
「わかった。わかった。あいつの使った物は倉庫に入れて、お前の好きな家具を入れよう」
「ありがとう、ロビー」
安堵はしたものの、父親が母親以外の女とイチャ付いている姿にロバータは嫌悪感から吐き気が止まらなかった。
◇◆◇
以前の部屋からかなり離れた、大勢の客が来ない限りは使われない、日当たりの悪い客室がロバータの部屋になった。
家具は異母妹が使うことになり、持ってこれたのはドレスやジュエリーボックスなど、私物だけだ。
日当たりの良い客室から、数年に一度、使われるかどうかの日当たりの悪い客室に移され、ロバータはこれからのことが怖くなった。部屋だけでなく、家督も異母妹に奪われるのではないか、と。
母親の死を悼むよりも、地位が不安定になった自分のこれからが心配だった。
人としては、それは薄情と言われるかもしれない。
だが、当主としては正しかった。身内の不幸に悩まされている間も、下の者の生活を守らなければいけない者は、実務や人間関係を疎かにできない。
疎かにした結果が没落だ。
だから、ロバータの思考は正しい。
ドアをノックする音と共に「お姉様!」という声がして、無遠慮に開けられる。
「!!」
「何、この辛気臭い部屋。王子様の婚約者がこんな部屋に住んじゃダメよ」
「え?! 王子様の婚約者?! 私、婚約者なんていないわよ。それも、王子様って、私がこの家の跡継ぎなのに?」
「お姉様は王子様の婚約者になって、あたしに王子様を譲ってくれないといけないんだから!」
「?! 王子様の婚約者になって、譲るですって?!」
「そうよ! それがお姉様がすることよ!」
「私はこの家の跡継ぎなのよ?!」
「だから、王子様はあたしに譲って、お姉様はこの家を継ぐのよ!」
「?!?!」
婚約者を譲れ、ならまだわかるが、ロバータにはまだ婚約者はおらず、王子の婚約者になって譲れ、と言われて、ロバータは驚愕した。
異母妹とこれ以上、話しても埒が明かないと思ったロバータは父親のもとに行った。
異母妹に言われたことを言ったら、
「ボボが望んでいることだ。譲ってやれ」
と言われた。
「譲るも何も、王子様の婚約者ではありません」
「王子の婚約者になれば良いだけだろ。当主教育をしているんだ。それくらいはできるはずだ」
「そんな! 当主教育は終わっていません!」
「当主教育は王子と婚約してからやれ。最悪、婚約解消後にやれば良い」
「お父様!」
「お前はボボの為に王子の婚約者になって、譲れば良いんだ!」
ショックだったのはそれだけではない。
異母妹の部屋の隣りの客室をロバータ用に異母妹が改装の指示を出したのだが、それはもう目が痛いほどのショッキングピンク一色で、ロバータはこの部屋にいたら頭痛が止まらないと思ったくらいだ。
ロバータは正直に言った。
私にはこの部屋は無理、と。
異母妹は「王子の婚約者でも、王子妃にならないお姉様では、無理なのかも」と自分で使うことにした。
そんな訳でロバータは元の部屋に戻ることができた。
◇◇◆
当主教育をしているだけあって、ロバータは優秀な令嬢だと、王子の婚約者候補になり、異母妹の希望通り婚約者の座を手に入れた。
だが、王子はロバータのことを嫌っていた。
王宮でおこなわれる交流を図るお茶会はすっぽかされた。
ロバートソン家でおこなわれる交流のお茶会は異母妹が同席して、異母妹と王子の交流の場になった。
これなら異母妹の希望通りになると、ロバータは思ったが、問題は王立学校に入学してから起きた。
王子が庶子の男爵令嬢を恋人にしたのだ。
異母妹は翌年、入学予定だったので、ロバータに泥棒猫を追っ払わせたかったが、ロバータはロバータで王宮で婚約者の仕事を代わりにさせられていて、王子と交流する時間が全くなかった。
むしろ、王子と話すぐらいなら、机に突っ伏して眠りたいくらいだ。
そんな訳で、異母妹は自分と楽しく話しておきながら、男爵令嬢を恋人にした王子に幻滅した。浮気王子など、異母妹の欲しい王子様ではないのだ。
異母妹は「あんなのいらない」と父親に言い、ロバータの婚約は解消された。
にもかかわらず、その年の終わりの学校のパーティーで、ロバータは婚約破棄をされた。
なんやかんや言われたが、「既に婚約は解消済みで、嫉妬に狂う必要もなかった」と言って、ロバータは帰宅した。
何故なら、ロバータはロバートソン家の当主教育があるから。
婚約破棄を叫んだ王子は、婚約解消されてから溜まりに溜まった書類仕事に追われる日々が待っていたそうだ。
それを聞いた異母妹は、優秀なお姉様が婚約者に選ばれたのも、王子の尻拭いをさせる為だったのね、と呆れたそうだ。
王子妃になれなかった異母妹は部屋をまた改装して、今度は前に住んでいた部屋を再現した。
「だって、王子妃になれなかったんだし、あの部屋にする意味がないんだもん」
王子妃の部屋が何故、ショッキングピンクだったのか。それは異母妹の王子妃のイメージだったのだろうが、よくもまあ、何年もあんな部屋に住めたものだと、ロバータは感心すらしている。
異母妹や継母とは、決して仲が良いとは言えないが、ロバータは二人を嫌いになれなかった。きつい言葉や我が儘を言われても、母親の遺品には手を出さないし、ロバータの持ち物にも手を出さない。
微妙な距離感での同居。
それはロバータが結婚するまで続いた。
結婚したロバータは別宅で暮らし、日中は父親の仕事を手伝う。
異母妹はほどほどの相手と結婚。
父親が亡くなってからも、継母や異母妹との関係は微妙な距離感のまま、みんな幸せになったそうな。




