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サルビア

作者: 織る希望
掲載日:2026/05/27





審判まであと三日





エルフ。

長寿で、視力がよく長距離射程の武器を得意とする。



彼女の名はサルビア。

エルフの町の族長である。



この地位は望んで手に入れたものではなかった。



彼女には妹がいる。

名はアネモネ。

白髪ロングの女性。



母はアネモネが族長になってほしいと思っていた。

サルビアは自分のほうが族長にふさわしいのでは、と感じていた。

彼女は優秀で才能があったからだ。



結果的に彼女自身が族長になったのだが。



彼女はこの地位が欲しかったわけではない。



アネモネにはもっと自由に生きてほしかった。



今のエルフたちは、昔の保守的な体制は嫌いだった。

だからエルフたちを味方につけるべく革新的思想になった。



しかしサルビアは気づいていなかった。

エルフたちは革新的な奴は全員イかれていたことに。



そのイかれた思想のあまり、とある事件を起こしてしまった。



ある夜、この町は襲撃にあった。



襲撃の前、族長が部屋から移動しないよう、革新派の一人が睡眠薬を盛った。



襲撃の最中、警護に当たっていたアネモネを族長の前の部屋から離れさせた。

そして襲撃の音に紛れてライフルで殺した。



襲撃後、アネモネが戻ってきたタイミングを見計らい、アネモネを犯人役として仕立て上げた。



そして判決は死罪となった。



彼女は当然アネモネを処刑することに反対した。

しかし、議会は彼女を除き、すべてが賛成だった。



彼女はあらゆる手を尽くしたつもりだった。



でも彼女は、革新派の傀儡に過ぎなかった。



彼女は最悪の手段だって行使することはできた。

でもそれはアネモネにとって、幸福ではなかった。



ある日このエルフの町に旅人が訪れた。



「珍しいですね。こんにちは旅の者。何をご所望ですか?」

「え、特にプランはないですけど。」

「そうですか、景色がきれいと旅人に好評ですから。ぜひご覧になってください。」

「は、はい。」


「それとも、"死刑囚"でも見ますか?」

「死刑囚?」


彼女は希望を抱いた。

彼ならアネモネを救ってくると。

そう感じた。


「族長!何しているんですか。次の会議が始まりますよ。」

「ではこれで。ぜひ会ってください。いい機会ですよ。」


「...はい。」



会議の内容は旅人をどうするのか、というものだった。

もし真相が明かされ、国に報告された場合、少々面倒なことになるからだ。



彼女は真相が明かされることはない、と断言した。



正直この会議を終わらせたかった。

なぜならもうこの議題の答えが出ているのだから。



革新派はもし真相が明かされたら、サルビアを真犯人として仕立て上げるからだ。



彼女は革新派を信用していない。

だから信用もされていない。



信用の相互関係はお互いが信用することで初めて成立するのだ。



そして彼女はひそかに計画を企てていた。

彼がアネモネを逃がせるよう、誘導させることだ。



彼女が直接動いてしますと、革新派に感づかれる可能性が高い。

だから彼に頼むしかない。





審判まであと二日






ただアネモネの様子の変化も知りたかった。

彼と会ってどう感じたのか。



「旅人と会ったようね。」

「......なに、文句でもあんの。」


「彼をどう感じだ?」

「べつに。珍しいなと思っただけよ。」

「そう。」


「要件はそれだけ?」

「ええ。アネモネが彼に対してどう思っているか。それを知りたかっただけ。」



彼女は感じた。

何年の一緒に暮らしていたから分かる。



アネモネは彼に対して警戒心を解いていることに。



この状態は良好だった。

あとは彼をどうするか。





審判まであと一日





彼とアネモネの様子を覗いた。



とても楽しそうに会話をしている。

お互いの信頼関係も築けた頃合いだろう。



彼女はうれしい反面悲しみも感じていた。

もう彼のように楽しくアネモネと会話ができないことに。



でもこれでいい。

アネモネが幸せでいてくれたら。



あとはうまく彼をアネモネと逃がすように促せばいい。

アネモネが救われる。



「入ってもいいですか?」

「どうぞ。」


「こんばんわ。」

「どうかな、この町は?」

「楽しいですよ。」


「それはよかった。それより妹にあったと、聞きましたが。」

「あんたが勧めたんだろ。」


「どうでした?」

「とても犯罪をするようには見えなかった。」



やはり彼を信用して正解だった。



「君にはそう見えるかw。 何か悪いことを考えてはいないだろうな?」

「い、いえなにも。」


「私はきみが何かを企てているのか、検討の余地もない。ただ、遅かれ早かれあと2日後には君の足取りをつかめるだろう。」


「ど、どういう意味ですか?」


「つまりいずれ君はアネモネと同じように死罪になる、というわけだよ。」

「っ!」


「それでは、引き続きこのエルフの町を楽しんでください。」



これでいい。

これで少なくとも今日、明日中には逃げ出すだろう。



これが最後の仕事だ。





審判の日





「サルビア様!死刑囚が逃げ出しました。」

「そうか。」



守衛が彼女の部屋に飛び込んできた。



彼女は、アネモネが捕まっているところの警備を薄くするよう指示をしていた。



安堵した。

これでアネモネは自由になれると。



「そうかって何ですか!あなたのせいで死刑囚が逃げたんですよ!」

「私も今から追う。」

「いや、あなたはここにいてください。私たちが追跡します。必ず死刑囚を殺す。」



笑った。

彼女の生涯で一番うれしかったのかもしれない。



最後に家族としての姉としての役目を果たせて。



おそらくサルビアは何らかの責任に問われ、最悪の場合死罪になだろう。



それでもいい。

なぜならアネモネの幸せは彼女の幸せだからだ。

これが贖罪というなら彼女は喜んで受け入れるだろう。



「サルビア様、あなたを連行します。」

「ふwどうぞ。」



朝方。

ほかの議員たちが起きてきたころ、彼女の処遇についての議論が始まった。



「仮にも族長だ。殺すのはマズい。」

「隠ぺいすればいいだろう?」

「いや前族長のようにはいかないだろう。」

「ならどうする?」

「これまで通り、操り人形として生きてもらおう。」



「好きにしてください。」



そろそろ彼女の処遇が決まりそうになった時、一人の守衛が入ってきた。



そして守衛は彼らに耳打ちをした後去っていった。



「朗報だ、サルビア様。死刑囚の死体が見つかった。」

「えっ。」



彼女の思考が止まった。

残された唯一の家族が、愛してやまない妹が死んだ。



「ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛!」



涙がこぼれなかった。

怒りが湧かなかった。



湧き出たのはまとまりのない感情だった。



この感情は誰に向ければいいのだろうか?



革新派?それとも自分?



この事態を間接的に引き起こしたのは彼女だ。

救われない。



誰も彼女の味方がいない。



誰も信用できる人はいない。



「さて、醜態を見に行きましょうか。サルビア様。」



どうやら森の奥地に、いや報告ではアネモネを囲うように森がなくなっていたらしい。



ただ一人、赤く染まった死体がそこに横たわっていた。



表情はとても幸せそうだった。



「アネ、モネ?」

「さぁ、これがあなたの妹、アネモネですよ。」



膝が崩れた。

彼女は這うようにして妹の傍らに近づき、冷たくなった頰に触れた。

まだ柔らかい。温もりが、ほんの少しだけ残っている気がした。



しかし彼女は現実を受け入れられなかった。



一緒に助け合う友人も、恋人も、そして家族さえいなかった。



「お前か、こいつを殺したのは。」



知らない男の声がした。



旅人ではなかった。

いやそんなことはどうでもいい。



「お前たちのせいで、俺の計画がパーになった。死をもって罪を滅ぼせ。」



言葉は短く、しかしその一言一言が、死の宣告のように重かった。



一瞬の光景だった。

周りの首が飛び、血が噴き、悲鳴が上がる。



それでもサルビアは動かなかった。妹の亡骸を抱いたまま、ただぼんやりとその光景を見つめていた。


「最後に、お前はどうしてあいつらと逃げなかった。」



息が詰まる。



「お前は臆病者だ。結局は自分が死ぬのが怖かったのだろう。自分だけ安全圏にいて、最終的には旅人任せ。」



呼吸が早まる。



「お前は本当に家族を愛していたのか?」

「ちが、」

「死をもって実感しろ。」



気づいたときには世界が逆転していた。



誰も看取らない。

誰も泣かない。

誰も、彼女の死を悼まない。



家族を愛そうとしたあまり、逆に家族を殺す結果となってしまった。



白いアネモネの意味は、希望。

そして赤いアネモネの意味は、君を愛す。



彼女にとっての希望はアネモネであった。

そして愛していた。



ついにはエルフの町の族長、サルビアは、誰にも看取られることなく、ただ一人、妹の傍らで息絶えた。


サルビアの花言葉:家族愛


よかったら評価や感想を書いてくださるとありがたいです。


あとこちらの作品も読んでいただけると、より一層面白味が増すと思います。

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