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きらきら

 いつからか心が動かなくなった。そしてことあるごとにあの頃を思い出してはなんとも言えない気持ちになる。

 あの頃の私は一日三~四時間しか眠っていなかった。五時間眠れた日には、なんて贅沢なんだろうと思ってしまうほどに。仕事で早番を担当していたから、朝は四時半に起きて六時には家を出る生活。その分退勤も早く、十七時すぎには家に帰ってきていたけれど、なんやかんややっているうちに二十三時をまわり、気づくと日付が変わっていた。それでも毎日が楽しかった。眠れないことに不満を持たなかった。それであたりまえだったのだ。

 退勤したあと知人とご飯を食べに行ったり、ときには夜が深まるのを待って首都高速道路へ向かい、知人が運転する車の助手席で夜景を楽しんだりした。もちろん翌朝も早番の仕事が待っているので、睡眠時間はさらに短くなる。家に帰ってきてから翌朝家を出るまでの時間がツーウィークコンタクトの消毒時間より短くて、眼鏡で仕事へ行った日もあるほどだ。でも、楽しかった。

 あの頃の私はエネルギーに溢れていた。疲れているとは思わなかった。いや、少しくらいは疲れを感じていたかもしれないけれど、それすらも充実感という名の輝きによってほとんど視界に入らない。

 片思いをしていた。毎日毎日メッセージを送った。鬱陶しがられても懲りずに話しかけ続けた。少しずつ相手の心がこちらへ向き始めるのを感じ、胸が高鳴った。メイクも、髪型も服装も、何もかもに最大限の気を配った。自分がきらきらしている自覚があり、それが嬉しかった。

 今は、どうだろう。

 今は毎日八~十時間眠っている。あの頃よりも勤務時間は毎日三十分少ないし、週にたった四日しか出勤していない。そして片思いしていたあの人と結婚し、共に暮らしている。

 あの頃と比べると今の方が格段に心も身体も満たされている。けれどきらきらが、ない。

 今の生活に何も不満はない。過不足なく幸福ななのだ。けれど、けれどなぜか満ちない。どうしてだろう。毎日毎日仕事のことを考え憂鬱な気持ちになる。勤務中は常に、後何時間で帰れるなとカウントダウンを繰り返している。なぜこんなことになっているのだろう。

 あの頃働いていた場所をいろいろあって退職したあと、病院や薬局などで働いた末、やっぱりあの頃と同じ業界で働きたいと思い、戻ってきたのだ。アパレルという職種に。

 やりたかったことをやっている。毎日おしゃれをして店頭に立ち、綺麗な洋服を売る。汚れ仕事は一つもないし、頭を使うような難しいことも何もない。楽で簡単な仕事だ。けれど、私は毎日「何をやっているんだろう」という気持ちで店頭に立っている。おかしいのではないか。どうして楽しくないのだろう。

 仕事が終われば電車のホームまで走り、一分でも早く帰ろうと必死になる。退勤後どこかへ寄るなんてもってのほか。早く帰らねば、明日も仕事なのだから。そんな風に考えてしまい、常に余裕がない。

 家に帰ると大好きな人がカギを開けて待っていてくれる。温かい夜ご飯を作ってくれる。私はそれを食べてお風呂に入って、二十二時には布団に入る。翌日の仕事は十一時からだから九時に起きれば問題ない。けれど、明日も仕事か。明日もあれを七時間半も繰り返すのかと心が鬱。せっかく大好きな人が隣で眠っているのに、鬱。

 休みの日は何もすることがなく、時間を無駄にしている気がする。何もしないまま休みが終わり、また仕事へ行かなくては。鬱。どうしてこんな風になってしまったのだろう。

 そんなに今の仕事が嫌なのだろうか。楽で、簡単な仕事が。時給もいい。今まで働いたどの場所よりも時給がいい。タスク量も過去一少ない。なのに、どうして。何が嫌なんだろう。皆同じような気持ちで毎日をやり過ごしているのだろうか。だとしたら、あの頃の私の充実感はなんだったのだろう。どうしてあんなに活力にあふれていたのか。どうして、どうしてあんなに何もかもがきらきらしていたのだろうか。

 どうすればあの頃のように、毎日を一生懸命に楽しくきらきらと生きる私に戻れるのだろうか。

 休みの日は何をしたらいいのだろうか。お金に余裕もないのに休んでいる場合ではないのではないか。けれどこれ以上働きたくない。皆どうしているのだろうか。

 来年末に引っ越しを控えている。だから今の仕事は長くてもあと一年と半年くらいしか続けないだろう。であればたったあと一年半年をなんとかやり過ごせないのだろうか。どうしてこんなにも日々が退屈に、仕事が鬱になってしまったのだろう。

 私の気力は、熱量は一体どこへ吸収されてしまっているのか。

 空しい、虚しい、ムナシイ。

 こんな鬱になりたくない。毎日を楽しみで埋め尽くしてきらきらしていたいのに。あの頃は一体なんだったのだろうか。どうすれば。

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