その9 空憧青春、第一話
★ 空憧青春スカイラブ!
第一話『プリンス×スレイヴは走り逢う』
その9 空憧青春、第一話
teller:朝比奈 淳
◆
「い、いてて……」
空の果てに飛び込んだ際、最後の最後にシュガービーのコックピットから投げ出されて、何回か転がる形でぶつかるように倒れて。
痛む頭を押さえて、のろのろと顔を上げる。
その場には、シュガービーと、先程見た二体の人型ロボット。
――と、知らない四人が居た。
全員、おれと同じ高校の制服は着ているけど。
「いった~……真広先輩、無事ですかぁ……?」
「う……って、望月おいコラ。どさくさに紛れて抱きついてんじゃねえ。邪魔」
「えー、接近チャンスかと思ったんですけど」
『真広』と呼ばれた色素が薄い髪に三白眼の青年と、そんな真広さんに密着して抱きつく『望月』と言うらしい黒髪の大人っぽい女の子。
靴の色から察するに真広さんはうちの高校の三年生で、望月さんはおれと同学年だ。
別方向に倒れている、もう二人を見る。
「ぅ……、あ、っ、児玉! 怪我ないか――って、うわあごめん!?!? お、オレ、こんな近いつもりじゃ……!?」
「んん……? あれれ、十倉くん……? わたし、なんで……? って、あわ、十倉くんすっごく顔真っ赤。だいじょぶ? 具合悪い?」
「へ!? お、オレならその、全然……っ手!?!? て、て、て……!?」
『児玉』と言うらしいふわふわの髪の女の子を守るように抱き締めていた『十倉』と呼ばれた茶髪の青年。
靴の色を見ると――十倉さんも児玉さんも、うちの高校の二年生。
怪我がないか確かめたかったらしい児玉さんにそっと髪を撫でられ頬に触れられ、十倉さんは声をひっくり返らせて相当動揺しているようだった。
真広さんと望月さんの関係はまだよくわからないけど、十倉さんの児玉さんへの感情は……ちょっとわかりやすい、かも。
おれと同じようにこの四人が倒れているってことは。
経緯はわからないけど、この四人は二人ずつ、シュガービーではない二体のロボットに乗ってここまで来たんじゃないだろうか。
そして、この空に辿り着いた時、おれと同じようにコックピットから投げ出されて――。
――そうだ、空。
おれたちは割れた空の果てに来たはずだけど、空の果てって、一体。
そこでようやくおれは辺りを、景色を見回し、愕然とした。
なんだ、これ。
辺りが、ごてごてした鉄の壁で囲まれている。
無機質なバリケードが何重にも重ねられているような、狭っ苦しい空間。
空の果てに来た筈なのに、天井がある。
窓のない壁に全てが囲まれている。
空の、その先の景色が封じられているみたいだ。
空でもない。
宇宙でもない。
此処は、なんだ。
そもそも空が割れる現象自体、おれはまだ何もわかっていない。
『……やはり……封印は、まだ解けない、のでありますね……』
暗く沈んだ、声。
シュガービーの声だ。
天井を、壁を向いて立ち尽くしていたシュガービーが、おれの方に振り返る。
騎士が跪くように、彼はおれの前で膝をついた。
それでも目線が合わないくらいにはシュガービーのサイズ感は大きいのだけれど。
『淳殿……此処までジブンを連れて来てくださったことに感謝を。次は、ジブンが約束を果たす時であります』
「約束……?」
『状況を説明すると、事前にジブンは淳殿に誓った身であります』
シュガービーはちら、と二体の人型ロボットを見やる。
彼らはシュガービーの視線を受け、頷いた。
四人を此処に連れて来たあの二体のロボットも、シュガービーと同じく意思があるってことなのか。
シュガービーが、今度は全体を見回す。
おれ、真広さんと望月さん、十倉さんと児玉さん。
『……戦闘個体を代表して、ジブン、シュガービーが説明させていただくであります。皆様の名前はデータに入れたであります。朝比奈 淳殿。石守 真広殿、望月 少葉殿。十倉 叶殿、児玉 詩桜殿……」
そして、神妙な声でシュガービーは。
何の因果かここに集まってしまったおれたち五人に、『世界の真実』を語り始めた。
『……今のこの世界から、【空】は失われているであります。皆様が今まで空だと思っていたものは、空の姿をした高い壁。偽物の空であります』
「……は……?」
『皆様が認識している世界は、世界のほんの一部であります。……かつて一つだった世界は、この星は――遠い昔にバラバラに切り裂かれました。切り裂かれた欠片はそれぞれこのように空を奪われ、封印された形で宇宙に放逐されているのであります。……皆様の世界は謂わば、宇宙を漂う小さな箱庭なのであります』
シュガービーの、『説明』に。
今度は声すら出なかった。
おれたち五人全員が、黙ってしまった。
空が、奪われてる?
おれたちの世界が、箱庭?
『箱庭の規模は、一つの町程度。封印された段階で、箱庭の住人は暗示をかけられているであります。皆様が気付いてないだけで……皆様の町の外には、何も無いのであります。皆様にとっての実際の『他の町』は、全て遠い別の宇宙に、この箱庭と同じように放逐されているのであります。……今この箱庭でそれに気付いている人間様は、貴殿ら六人だけなのであります』
暗示、って。
おれたちはずっと、嘘っこの世界に、嘘っこの空の下に生きてたって言うのか?
宇宙に放逐って、一つだった世界がバラバラにされたって、空が無いって。
それを、おれたちはどうすれば。
ふと、シュガービーが声のトーンを落とす。
『それでもジブンは……空を……失われた空を取り戻すことを、広い空を一つにすることを……諦めたくない、のであります……』
諦めたくない。
それは、おれの心をも強く揺るがし震わせる言葉。
おれは混乱しながらも、シュガービーに手を伸ばしかけて。
でもその前に、一つ違和感に気づいて。
「六人だけ、気づいた……? でもさシュガービー、ここには五人しか……」
『空が割れ、淳殿たちが偽物の空の果てに飛び込んだ際――終始を目に焼き付けた目撃者が、あと一人居たのであります。そこで彼女の暗示も解けたようであります』
かのじょ。
何故だろう。
なんだか、胸騒ぎがした。
『ん……データ確認、完了であります。目撃者の名は、鈴瀬 椿。……世界に空を取り戻す為には、鈴瀬殿も含めた貴殿ら六人の人間様の協力が、必要なのであります……!』
――なんでこんな。
胸騒ぎが、当たるんだ。
「鈴瀬、さんが……?」
◆
おれは、知らなかったんだ。
おれがシュガービーと、空の果てへの全力疾走の旅を遂げたその時。
遥か離れた地上で、割れた空をずっと見上げている女の子が居て。
その子の瞳が、生身のおれを見逃さなくて。
「……ぇ……あ、朝比奈、くん……?」
その目撃者が、おれの為なら本当に何でもしかねない、おれへの隷属に生涯を捧げてる女の子で。
――つまりはおれが恋してる鈴瀬 椿さんだったなんて、その時のおれは知らなかったんだ。
◆
世界は、空を失っていた。
その日、おれたち六人だけが気づいた。
気づいてしまった。
空を取り戻す為の戦いが。
空に憧れる、物語が。
そんな物騒な中でも、まだ高校生のおれたちの青春が。
この時、宇宙の辺境のほんの小さな箱庭から、ゆっくりでも始まろうとしてたんだ――。
◆




