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空憧青春スカイラブ!  作者: ハリエンジュ
第一話『プリンス×スレイヴは走り逢う』
7/12

その7 シュガービー

空憧(くうしょう)青春(あおはる)スカイラブ! 

第一話『プリンス×スレイヴは走り逢う』

その7 シュガービー


teller(語り手)朝比奈(あさひな) (すなお)




 ロボットに向かって、走る。

 空の上を走っている有り得ない状況なのに、不思議と心が落ち着いている。


 そうだ、これ、好きなんだ。

 走っている時のペース、一定の呼吸と鼓動。

 おれの生きる証を、生きるスピードを崩さないように意識すれば、安心できる。


 鈴瀬さんのことがおれは好きだけど。

 鈴瀬さんと出会った日、おれは自分の原点を、走ることの楽しさを思い出せたけど。


 鈴瀬さんに神格化されてしまったからこそ、おれはまだ自分の在り方に自信を持てない。


 このままじゃ駄目だとずっと思ってた。

 現状を壊さなきゃって、ずっと思ってた。


 それはおれの生き方や価値観や好き嫌いを変えるとか、そんな大層な話じゃなくて。

 自信を持ちたい。

 おれはおれを、かっこいいと思えるようになりたい。

 自分の好きな生き方を、走り方を、自分なりの在り方を、胸を張って愛したい。


 それでいつか、おれの好きなおれになって、鈴瀬さんに好きだと伝えたい。

 普通の恋人になりたい。


 明らかに世界がおかしくなってる状況で、おれがこんな空を走り出した理由は、きっと。

 変わってしまった世界を全身で感じたいからだ。

 おれの意識を変える一歩を踏み出したかったからだ。


 おれは王子様になんてなりたくない。

 おれはおれの求める『おれ』を、ぶれない自分を作りたい。


 おれはただ、鈴瀬さんに恋してもらえるおれになりたい。


 その望みのヒントが、あのロボットにある予感がして。

 難なく駆け抜けてしまった空の果て、おれは蹲っていた黄色いロボットの傍に、辿り着いていた。


 がしゃん、と、蹲っていたロボットが顔を上げる。

 顔の部分のランプがびかびかと光り、機体がびっくりしたように大きく揺れた。


『に、人間様でありますか!?』


 ――喋った。声は、男声に近い。

 驚きはしたけど、そう言えばおれはこいつの泣き声に導かれてここまで来たんだ。


 諦めたくない、って声。

 ――うん。おれも、諦めたくないよ。


 ロボットが、慌てたように身を乗り出す。

 おれと見つめ合うように、頭部を近付けてくる。


『ジ、ジブンは戦闘個体【シュガービー】であります! 人間様! 説明は必ず後ほど行うでありますから、どうかジブンに乗って……ジブンを、あの【空】に、連れて行って欲しいであります!』


「……空? どうして?」


 シュガービー、と名乗ったロボットが指したのは、割れた空からぽっかりと覗く、大穴。


 訊ねたおれの声に、シュガービーの声が返ってくる。

 それは――迷いのない声で。


『ジブンは!! あの空を!! あの空に辿り着くことを!! 諦めたくないのであります!!』


 ――わからないことなら沢山あった。

 なんならわからないことしかなかった。


 だけど今のおれには、その言葉だけで充分すぎた。


 再びおれは、至近距離のシュガービーまで駆け出す。

 走り出したおれにシュガービーが狼狽えた気配があったけど。

 走った勢いでおれはシュガービーの機体の表面に手をついて、駆け上がって、そしたらコックピットのハッチが開いて。

 おれは駆け出した勢いで、シュガービーに乗り込んでいた。


「……人間様、じゃないよ。おれは (すなお)朝比奈(あさひな) (すなお)


『淳殿……で、ありますか?』


 ――わからないことなら沢山あった。

 だけど、シュガービーに乗り込んだ瞬間から、おれの心は知らない言葉を感じ取って。

 勢いのまま、おれは叫んだ。


Get set ,(準備を!)Let's(セット) set(を!)! よーい、ドン! シュガービー!! スプリント!!」


 叫んだ瞬間、コックピットにばっと眩しい灯りが灯って。

 おれの心と共鳴するかのように、シュガービーが空の向こうへ走り出す。

 シュガービー本人からは、びっくりしたようなわたわたした声が聴こえてくるけど。


 でも、立ち止まれなかった。

 おれはシュガービーを、空に連れていく。

 わからないことばっかりだけど、わからないことばっかりなのに。


 ――何かを諦めたくない気持ちだけは、よくわかるから。



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