その4 オレは王子様になりたいが!?
その4は今作における最後の主人公視点のプロローグです。
その5からは、第一話は最後までメイン主人公の朝比奈 淳の視点です。
★ 空憧青春スカイラブ!
第一話『プリンス×スレイヴは走り逢う』
その4 オレは王子様になりたいが!?
teller: 十倉 叶
◆
きっかけ自体は、ほんの些細なことだった。
去年、まだオレたちが新入生だった頃。
あいつとオレの席は前後で。
前後の席となると、プリントを回す時に一瞬の交流があるわけだが。
その日のオレは眠気がピークに達していて、うつらうつらと船漕ぎながら授業を受けていて、時々我慢できずにこっそり机に突っ伏して。
そんな日に前の席から回ってくるプリントは、中学時代だと雑に机の上に積まれたり、ふざけて頭の上に乗せられたり、周りがふざけた末に結果的に教師に居眠りがバレたり、なんて経験しかなかったのだが。
その日、目が覚めて机の上に置かれてあった見慣れないプリントには、これまた見慣れない付箋が貼ってあった。
付箋には、プリントが必要になる教科書の範囲、授業中に難しかった要注意問題の番号が簡潔にメモされていて。
もう一枚、付箋があった。
ゆるキャラのマスコットの落書きと共に可愛らしい丸文字でメッセージ。
『実はわたしも理系科目は結構眠くなります。ナイショだよ!』
突然の、秘密の共有。
これを書いたのは前の席の女子になるわけだが。
彼女の背中を見つめると、栗色のウェーブがかったふわふわの髪をふわりと靡かせながら、丁度彼女が振り返って、オレが付箋を確認したのを見て。
ーーにこりと笑って、人差し指を自身の口元に当てて。
ーーそれだけ。
それだけ、だ。
それだけの、いつもと違う日常だけで――オレは、とんでもない初恋に落ちてしまった。
◆
十倉 叶、高校2年生。
時間帯、放課後。
現在地、最近オープンしたばかりの駅前のクレープ屋付近の物陰。
オレは今、一週間かけて慎重にしたためたラブレターを手に、好きな女の子への告白チャンスを窺っている。
好きな女の子。
児玉 詩桜。
ふわふわおっとりした性格の、癒し系の可愛い女の子。
高校1年生の頃から、児玉はオレと 同じクラスだ。
ついでにオレの児玉への片想いも、高校1年生の頃からスタートしている。
長いことヘタレてしまったので、今日こそ告白しようと思い立った、のだが。
……普通にタイミングを逃した。
学校じゃ児玉は女友達とずーっと一緒にいて、声をかける隙がなくて。
女子ってなんであんなに常に数人で行動しがちなんだろうか。
オレはオレで、告白の決意は友達にバレてたから今日は一日、もだもだする度に周りにヤジを飛ばされ喝を入れられたり、まあ色々あった。
『叶は、恋愛絡まなけりゃ割とかっこいいのになあ』
友人から言われた言葉だ。
まあ確かに、児玉が関係しないところだとオレはもう少し冷静な気がする。
児玉のことを考えると緊張して真っ赤になって全部台無しになるが。
オレの理性を無視して恋心が暴走して、オレのパラメータを全て下げてしまう。
そんな毎日を過ごしすぎた。
結局学校ではラブレターを渡せなくて、ならば放課後、と思ったがどうやら児玉は友達と寄り道をするようで。
そんなわけで、こんなクレープ屋までついてきてしまった。
まずい、ストーカーと言われても言い逃れできない。
ただ児玉と真っ当に恋がしたいだけなのに。
「ねえねえ、そういえば知ってる? 最近1年生に可愛いカップルがいるの」
児玉のほわほわした声が聴こえる。
いやオレは児玉とカップルになりたいが!?
「ちっちゃい女の子が男の子を時々『王子様』って呼んでてすっごくメロメロでね、男の子もピュアピュア〜な感じでね、見かけると可愛い二人なんだぁ。いいよねえ、王子様。憧れるなぁ……」
いやオレは児玉の王子様になりたいが!?
むしろオレにとっては児玉はだいぶお姫様だ。
ふわふわほわほわぽわぽわ〜っと穏やかな雰囲気が可愛いと思うし、でも明るいところもあるし冗談も通じるタイプなのが凄く性格良いと思うし。
性格も見た目もとてもかなり大好きだから、仲良くなりたいし付き合いたいと思ってここにいるが、何だか一人物陰に隠れる自分が情けなく思えてきた。
なりてえよ、王子様。児玉にお似合いの王子様に。
いやなれねえわ。
今のオレ、めちゃくちゃ不審者。
王子様、ハードルたっけえ。
放課後になった途端、友人各位はオレを戦場に送り出すが如く背中をぶっ叩いてくれたが、この有様だ。
オレが児玉絡みでなければかっこいいと言うなら、オレはそんなかっこよさ要らん。
好きな女の子の前でだけスマートにかっこつけたいのが本音だ。
まあその理想はもう破綻しているが。
きゃっきゃうふふと児玉は友達グループと仲良くお喋りしながら、クレープ片手に歩いて行ってしまった。
また寄り道か。
追いかけようとしたその時。
「ちょっとお兄さん」
「あっ、はい!? なんすか!?」
クレープ屋の店員さんに呼び止められてしまった。
それもジト目で。
「さっきからコソコソ隠れて怪しいったらありゃしない。お客さんが引いちゃうでしょ。営業妨害甚だしいから、せめてクレープ一つ買うくらいの誠意は見せたら?」
「う……すみません……」
そこを責められると弱い。
正直我ながら、好きな子の後をつけるのはどうかと思ったし。
告白は明日に先送りかあ、と肩を落とし、特別好きでもないクレープを注文して。
何となく、空を見上げる。
ーー何かが、光った気がした。
強く、強く。
まだ明るい空に流れ星が走ったような、そんな錯覚。
そんなわけないよな、と首を傾げてクレープに齧り付く。
よりにもよって特に甘ったるい味のやつを選んでしまった。ハズレだ。
オレの運のハズレは本当はとっくのとうに始まっていて。
明日が先送りできるものだなんて、とても贅沢な考えなのだと。
オレは、間もなく思い知る。
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